第9話


 「ところでカエさんはおいくつなんですか?」


「あー!女性に年齢を聞くなんていい度胸してますね!」


 カエさんは少しほっぺを膨らましながら、でも目は笑ったまま言った。


「あ、すみません!俺よりも随分若く見えるのでつい‥‥」


「ふふっ。冗談ですよ!でも年齢は秘密です」


 そりゃそうだよな、俺はなんて馬鹿なんだ。


「あ、そうだ、俺に何か聞きたい事あれば答えるんでなんでも聞いて下さい!」



「ほんとですか?えーっと、じゃあ好きな食べ物は何ですか?」



 好きな食べ物か‥‥。



「‥‥ぎゅうどん‥‥が好きです」


 俺の知っている地上の食べ物はぎゅうどんとおにぎりくらいしかない。


「牛丼美味しいですよね!私も大好きです!」


 よかった、カエさんも好きなんだ。


「次はアニさんが質問して下さい」


「はい。じゃあ、カエさんは恋人‥‥とかいるんですか?」


 これは聞いておかないとな。


「恋人、ですか?うーん、いませんよ、今は」


「カエさんモテそうなのに」


「そんな事ないですよ!そう言えば結構歩きましたけど、少し座りませんか?」


 カエさんは公園の方を指差して言った。


「あ、疲れましたよね!座りましょう!」


「ありがとうございます」


 カエさんが先にベンチに腰掛ける。


 俺はどんな距離で座ればいいのか分からず、少し離れて座った。


「こうして一緒にいるだけで落ち着く人って私初めてかもしれません」


「と、突然どうしたんですか?」


「私たちってまだ会ったばかりだけどお似合いじゃありませんか?」


「お似合い?!」


 こんな冴えないおじさんと若い美女のどこがお似合いなんだ?

 もしかしてカエさんは視力が悪いとか‥?


 カエさんはその綺麗な顔で真っ直ぐ俺の事を見つめてくる。


「な、なにかついてますか‥‥?」


「私、もう行きますね!」


「えっ?!もう行っちゃうんですか?」


 あ、やばい、つい心の声が出てしまった。


「ふふっ。もしかして寂しいですか?」


「そりゃまぁ‥‥。いや、そんなおこがましい!俺なんかと一緒に歩いてくれただけでもこの上ない幸せなのに」


「じゃあまた会ったらいいじゃないですか!連絡先、教えてもらえますか?」


「もちろんです!」


 俺はポッケに手を突っ込んでスマホを‥‥。


 そういえば地上に来てから俺のスマホが見当たらない。


「すみません、俺スマホとか持ってなくて」


「今どきスマホ持ってない人っているんですね」


 実は地下から来たんですとも言えず、言葉に詰まっていると、カエさんが俺の手に何かを乗っけてきた。



「これは?」


 俺の手に乗っけてきたのは、サイコロ?


「それはスイッチです。一の目を見てください」


 言われた通り一の目を見るとボタンのようになっている。


「私に会いたくなったら押して下さい。行ける時なら会いに行きますから」


 なんと便利な、というか優しい。

 ん?

 これは絶対俺に好意を抱いてる証拠だ。


 でなきゃこんなものくれないし、向こうから会いにくるなんて言わないはず。



「俺なんかに‥‥ありがとうございます」


「無くさないようにお願いしますね!」


 そう言って長い髪を靡かせながらカエさんは去っていった。


 夢じゃないよな‥‥。


 ほっぺをつねってみるとちゃんと痛い。



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