第7話


 人が少しずつ増えている印象だ。


 やはり明るくなると行動が始まるんだな。


 店は開いている、と言う事は全ての人が休みなわけではないようだ。

 その点は地下と似ているな。


 それよりお腹が空いたなぁ。


 昨日の反省を踏まえて安い所を探さねば。


 現在の所持金は1094円。


 給料日までの辛抱だ。


 すれ違う人を避けながら慎重に店内を覗いたり、価格帯を探りながら食事が出来る所を探す。


 しかし、やはりどこも安くて500円といった所だ。


 昨日スーパーには行った、しかし俺にはハードルが高かった。


 よし、次はコンビニに行ってみるか。


 地下にもコンビニはある為期待は出来るな。


「いらっしゃいませー」


 店員が作業をしながら無愛想に言う。


 俺はすぐに食事を見つけた。


 おにぎり、サンドイッチ、他にも選び放題なくらいの品揃えだ。


 俺は何がなんだか分からないが一番安い商品を選ぶ事にした。


 おにぎり98円。


 黒いものに包まれていて中身は不明だが腹ペコだった俺は一つ取り、レジに持って行く。


「98円です」


 100円を出し、2円のおつりをポッケに突っ込むと、素早くコンビニを出る。


 人混みを避け、路地の端っこでおにぎりを食べる事にする。


 それにしてもこれはどうやって開けるんだ?


 ビニールに包まれているが、まさかこのまま食べるわけはないだろうと、隈なく見てみると、いかにも引っ張って下さいと言わんばかりの切れ端があった。


 これだ。


 確信した俺はその切れ端を引っ張ると、スルスルーっとビニールが剥けた。


 よし!これで食べれる、と思ったのも束の間、今度は両端のビニールが邪魔だ。


 しかし今度は自然と端っこを摘んで引っ張っていた。


 俺‥‥やっぱ頭いいわ。


 自分に感心しながらもおにぎり一つ食べるのにここまで苦労するとは。


 そして、一口食べる。


 パリッ。


 っ!!


 なんだこの食感は。


 外の黒いパリッとしたものの中には米が入っており、ほんのり塩分を感じる優しい味だ。

 それに食べ進めていくと中心にはなにやらもっと塩分の強いピンク色のものが入っている。


 これがまた美味い。



 何度も言うが地下での食事はフリーズドライ。

 

 形も殆ど同じ形状でお皿に入れお湯を注いで完成だ。


 もちろん米や野菜、肉もある。


 しかし元の形などは知らない。


 小さい頃からそんな食事の為気にした事もない。


 正直こんな未知の物躊躇もせず食べれる俺はすごいと思う。


 黒いパリッはよく分からないがいい風味だ。


 俺がおにぎりに夢中になっている内に時間はだいぶ経っていた。


 お腹も落ち着き周りを見渡す。


 休みだからみんな遊びに行くのか。


 しっかし、なんて心地よい感覚なんだ。


 そよそよと冷たい風は当たるものの上からは太陽の暖かさを感じて丁度いい。



 俺は近くにあったベンチに腰掛けた。



 っと。


 気付けばうとうとしていた。



「ふふっ」


 その声で目が覚めた。


 聞き覚えのある声。


 横を見ると、昨日会った天女、いや、女性が隣に腰掛けていた。

 

 俺はとんでもなく間抜けな顔をしていたのだろう、その女性は言った。


「また会いましたね」


「‥‥は、はい」


「今日はお昼寝ですか?」


「あっ、つい気持ちよくて‥‥」


「今日はいい天気ですからね〜」


 なんて綺麗な人なんだろうと、またも見惚れてしまっていた。


「どうしました?」


「あ、いや。あ、あのぉ‥‥」


 何を喋ればいいのか分からない。


 それに昨日もだけど、なんでこの女性は俺に話しかけてくるんだ?

 普通なら勘違いしてしまいそうだ。


「ところで今って暇ですか?」


 俺が何か言う前に向こうから話かけてくれた。


「ひ、暇と言えば暇ですけど‥‥」


「じゃあ私とデートしません?」



「で、でーと?!」



 これは何かの間違いだ、もしかしてドッキリ?


 いや、すでにあり得ない事ばかり起きている。


 俺は一喜一憂してる場合じゃない、受け入れるんだ。


 そして早く慣れるんだ‥‥地上に。



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