15話「お嬢様の剣を直す為に――前編――」
鍛冶屋を後にした俺達一行は、正式な手順を踏んでから採取に行く為にギルドへと向かった。
この世界では鉱石、山菜、その他諸々を取るには採取クエストを受注しなければならないとのこと。
ただし例外もあって肉や魚は生きるために必要な事から、ある程度の狩猟が許可されている。
遠征クエストで野営とかざらにあるからな。まぁ、それでも乱獲というか乱狩猟は駄目だが。
そして俺達はギルドに着くと、パトリシアとユリアに採取クエストを受注してもらうように頼んだ。
俺とヴィクトリアは本当にローレットを倒した事になっているのか疑問だったので、ステータス反映機でポイントが入っているか確認しようと思ったのだ。
「んー。やっぱり入ってないか……。ちゃんと止めを刺しておかないと駄目なのか?」
俺は自分のステータスが映し出された画面を食い入るように見ているが、やはりポイント表記は二十四ポイントのままだ。
うーむ。このスキルポイントも適当に割り振っとくべきか? ……あ、いやでもなぁ。
この恒例の【???】スキル欲しいんだよなぁ。きっと便利な装甲スキルに違いなからな。
だけどこのスキルを取るのに”解読ポイント”と”習得ポイント”で、かなり持っていかれるんだよなぁ。燃費悪すぎだろまじで。
どうせなら起動時間持続アップとか欲しいんだが!
俺は反映機の前でブツブツと言いながら考えていると、
「私もポイント入っていませんね~」
横からヴィクトリアが涼しげに言うと、人差し指で画面をタップしていた。
「ん? お前は何かスキル取ったのか?」
「えぇまぁ。中々に便利そうなのがあったので」
確かヴィクトリアは既にスキルがカンストしていたよな?
しかもスキルポイントは俺が適当に唆してヘイトスキルと防御スキル系を取らせただけだし。
どうやらコイツのスキルポイントは、まだかなり余っているようだな。
良いなぁ。ポイントって譲渡機能とかないのかな。
ヴィクトリアのスキルポイント全部俺のステータスに振りたいのだが。
と、思っているとそこへ、
「ちょっと二人とも大変ですわ! 直ぐに受付カウンターに来て欲しいですの!」
「「ほぇ?」」
目を丸くして動揺しているパトリシアに手を引かれて受付カウンターに行くと、そこには何時もの受付のお姉さんが、両手にゴールドカラーのドッグタグを持って俺達を待っているようだった。
「遅いぞ三人とも! 今から記念すべきゴールドランクへの昇進だぞッ!」
ユリアの意気揚々と放ったその言葉で全ての状況を悟った。
俺達は等々ギルドの精鋭冒険者の一員に選ばれたようなのだ。
恐らく理由は、ローレットの討伐をした事になっているせいだろう。
「お、おう遅れてすまない」
謝りながら俺達は受付カウンターに横一列に並ぶと、パーティメンバー全員がゴールドタグを受け取ることができた。
受付のお姉さんはタグを渡し終えると気まずそうに口を開く。
「実は前回の報酬を渡す時に一緒にドックタグも渡す予定だったんですけど、あまりのイレギュラーな出来後に忘れていました。申し訳ございません!」
受付のお姉さんは綺麗な謝罪とお辞儀を見せてくれると、俺の視線は胸元に釘付けとなった。
ここのギルド職員が着ている女性用の制服は、巨乳の人が着ると強大なる兵器に変わるのだ。
そう。胸元がガッツリ開いているから、お辞儀をした時に谷間が自然と強調されるのだ!
「い、いえ……! お気になさらず!」
うへへ。ゴールドランクに昇格してこんな自然と良い光景が見られるとはな!
俺にも運が回ってきたかな。
「ユウキってばナチュラルに胸を見てますよ」
「度し難い変態ですわ。ゴールドランクの自覚を持って欲しいですの」
「なんかムカついたから【ヒールペイン】かけとくぞ」
横から不穏な言葉が聞こえてくるや否や、俺の悲痛な叫びがギルドに木霊したのは言うまでもないだろう。あと受付のお姉さんが俺の悲鳴を聞いて、引いた顔をしていたのは忘れたい。
……頼むから忘れさせてくれ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「お、おぉ。ここが採掘場か……」
「というより炭鉱なのでは?」
「まぁ、確かにな」
俺達はギルドで採取クエストを受注すると採取許可書というカードを受け取り、裏面に書いてあった地図通りにミストルの街から出て、少しはなれた森の洞窟にまで来ていた。
周りに生えている木々達の葉色が薄れてきていることから、じんわりと季節の変わり目を感じさせる。
そう言えば洞窟というと以前のコボルト戦を思い出すが、今回は魔物は出ないはずだ。多分。
にしてもまさかゴールドランクに昇進した俺達が一番最初に受けたクエストが採取クエストだとはな。
まぁランクが上がったからと言って特段良い事はないんだけども。
難しいランクのクエストが受けれるようになっただけで難易度は爆上がりだ。
あとこのゴールドタグがちょっとカッコイイぐらいで、ギルド内を誇らしげに歩けるようになったぐらいかな。
「さぁ行きますわよ! 私の剣を直す為にっ!」
「オレは魔鉱石が欲しいぞ!」
鉱石が欲しいパトリシアとユリアはテンションを高めにして洞窟内へと入っていった。
ちなみにだが、鉱石を取るにあたってギルドからヘルメットとピッケルが支給されれている。
やはり落盤とかがたまに起こるらしくて、その辺は自己責任とのこと。
今までの俺なら運がなくて落盤きたら死ぬと思っていただろうが、今回は運がありそうなので心配はないっ!
俺はピッケルを肩に乗せて職人風の顔をイメージして洞窟の中へと向かった。
「あ、ちょっと! そんなエセ職人ヅラしていないで待ってくださいよ!」
「……なんだよ?」
俺が振り返るとヴィクトリアは、ピッケルを片手で軽々と持ち投げて空中で回転させると、カッコよく持ち手をキャッチして肩に乗せた。
「えーっ!! なにそれカッコイイ!」
なに自然と俺より目立ってんの? なにそのスタイリッシュな動き。教えて欲しい。
「お待たせしました! 自慢の髪を傷めないようにヘルメットを調整していたので時間が掛かりました。さぁ行きましょう」
「お、おう」
ヴィクトリアは小走りで駆け寄って来て言うと、俺達は洞窟内の最深部を目指して歩き始めた。
話によればこの洞窟の一番奥に鉱石が沢山あるとのことらしい。
きっとパトリシア達も既にそこに向かっているだろう。
……にしもて流石に洞窟内は薄暗いな。
「この場所は何か凄い土煙というか……体に悪い感じがしますね」
「そりゃあ、採掘をする場所なんだがら体に有害な何がが出ていてもおかしくないだろ」
「確かにそうですけ……ってうわあぁっ!?」
俺の後ろを歩いているヴィクトリアから、突然マヌケのような声が聞こえてくる。
何事かと思い後ろを振り返ると薄暗くても何が起こったかは直ぐに分かった。
「なに転んでんだよ。こんなとこでドジっ娘属性はいらんぞ」
「痛てて……ドジっ娘じゃないです……。もう! 何でこんなとこに琥珀色の石が落ちているんですか! 破壊してやりましょうかねえ!」
「落ち着けよ。採掘場なんだから石ぐらい落ちているだろ普通に」
というかヴィクトリアは薄暗くてもちゃんと目が見えているのか?
俺にはどれが琥珀色の石とか分かんないのだけど。
「あーでも、この石は綺麗なので持って帰りましょうかね」
「心変わりが凄い早いなお前。破壊はどうしたよ」
ヴィクトリアはゴソゴソを動き出すと、恐らくポケットか何処かに琥珀色の石とやらを入れているのであろう。
そして動きが収まると、
「綺麗と美しいは正義ですよ? 知らないんですか? それでも童貞ですか?」
「知らないし童貞は関係ねえよ! はっ倒すぞ」
人の逆鱗を撫でるが如く言葉を投げてきやがった。
本当にコイツは一言二言余計な事を言いやがる。
「はぁ……。ほら行くぞ?」
「あ、待ってください! 流石にまた転ぶ事はないと思いますけど、安心の為に火を炊いて貰えません?」
「あー。いいけど有害なガス的なのが出てたら爆発するぞ。この辺一体が」
俺だって明かりが欲しいから火は使いたいのだが、よくあるアニメの定番だとガスとかが漏れ出していて火を使った瞬間ボーンってなる落ちが定番のような気がするのだ……。
「大丈夫ですよ。特に変な匂いとかもしませんし。ほらほら私を信じて早く明かりを!」
「……これで爆死したら俺は邪神となってお前に復讐しにいくからな。はぁ……。スキル【ファイヤー】」
手のひらに中火程度の火の塊を発生させると、周りは明るくなり視界が鮮明になった。
しかし、この火力では奥の方まで明かりを行き渡らせることは無理のようだ。
「ほら大丈夫だったでしょう! これで足元も安全ですね! さぁ行きまッ……!?」
と言って再びヴィクトリアは盛大に転んだ。
……まじかコイツ。
「なぁ。お前それ狙ってやってる?」
「狙ってませんよ……。私は芸人じゃないんですから……女神ですから!!」
そんな女神様は今や地に伏せて土まみれですけどね。
てか、こんなとこで時間を食っている場合じゃないんだがな。
ぱぱっと鉱石採って武器を修繕してクエストに行きたいんだよこっちは。
「お前と居ると先に進めなさそうだから俺は先に行くわ。んじゃ」
「えっ!? お、置いてかないで下さいよ!」
何か言っていた気がするが俺は無視して、最深部を目指して淡々と足を進めていく。
時には切り捨てる事も大事な決断だと俺は学んだ。
ありがとうヴィクトリア。忘れないぞ。
それから二分ぐらい歩いていると、明かりが灯った広い空間に出た。
そこで俺が一番最初に目にしたのは、
「おぉすげぇ! なんだあの緑色の石に雷マークの入ったやつは!!」
ポケ○ンに出てきそうな石が壁から生えているの場面であった。
俺はここが最深部であることを確信すると同時に、パトリシアとユリアが何処に居るのか気になった。
「さて、あの二人はどこで採掘しているんだ?」
辺りを見渡すと、横の方から――――
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