13話「仲間達は頭のネジが足りない」

 あの後、スージーさんを店まで送ると俺達は一旦宿に戻ることにした。

 自分達の荷物やらがいっぱいあるから、それを纏めないといけないのだ。

 

 取り敢えず、明日になったら荷物を抱えて再び家に集合となっている。

 大掃除も必須だし、仲間は女子達だ。故に部屋の模様替えでやたら時間が掛かると俺は見ている。


 恐らくだが、明日は一日家の事で終わるんじゃないかと……。これを言っては何なんだが、家を購入したせいで残りの金が五万パメラしかないのだ。

 これだとヴィクトリアの食品だけで一週間も持たないだろう。


「あぁー。明日は時間が出来たらクエストに行きたいな」


 俺は早急にクエストに出て安心できるぐらいの金額を稼いでおきたいと思っている。

 もうすぐで季節も秋になってしまうしな。

 そうなるとブラックバードやスライム系モンスターがあまり外を出歩かなくなってしまって冒険者達にとって致命的なのだ。


「ちょっとユウキ。明日は早いんですから独り言を言ってないで早く寝ますよ? 私は神々しさ溢れる部屋を模索しながら寝ますけど」

「神々しさ溢れる部屋ってなんだよ……?」


 ヴィクトリアは顔をこちらに向けて言うが、神々しさ溢れる部屋と聞いて変なことを考えてしまった。

 多分だが、部屋全体を金色にする気ではないだろうか。だとしたら俺は全力で止めさせるがな。


「いいから寝ますよ! おやすみなさい!」

「あ、あぁ。おやすみ」


 ヴィクトリアは無理会話の端をへし折ると、そのまま部屋のランタンの火を消して俺達は眠りについた。

 その日の夢はヴィクトリアが全身金色の姿で現れて、なんか怖った。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして朝を迎えると外で鶏が鳴いているのだろうか、コケッコーという声が聞こえてくると俺は自然と目が覚めた。

「んっ……もう朝かよ。何か凄い怖い夢を見たような?」

「馬鹿言ってないで早く顔を洗って来てくださいよ」


 ぼやけている視界を手で擦りながら声の聞こえる方に顔を向けると、そこではヴィクトリアが朝食をテキパキと作っていて既に食器に盛りつけている段階であった。


「今日はクラーラさんの朝食じゃないのか?」

「クラーラは朝一で何処かに出かけましたよ。だから代わりに作っているのです」


 なるほどな。まぁお世辞じゃなくてもコイツの作る料理は何気に美味いので俺は気に入っている。しかしそれを本人言うと絶対に付け上がるので言っていない。 


 俺はベッドから起き上がると顔を洗ってから、ヴィクトリア手製の料理を頂きギルドへと向かった。

 まず、ギルドでリヤカーを借りなければならないのだ。

 流石に大荷物を背負いながら何度も宿屋と家を行き来するのは骨が折れる。というか面倒い。


 俺とヴィクトリアはギルドに難無くリアカーを借りられると、ギルド内では何処から情報が漏れたのか分からないがこんな小言を言われた。


「おいおい、あの変態のユウキが等々あの美女三人と同棲するらしいぞ!」

「マジかよ! あんな普通の顔している奴がハーレム生活かよ! くそったれ! お前の上だけ雨降れ!」

「あぁ……ヴィクトリアお姉様があんな野蛮な男と同棲だなんて……。よし殺そう」


 二名ほど俺に対して辛辣な言葉を浴びてくれたが、本当にどこから情報が漏れたのか気になる。

 そして俺は最後の女性が小言で物騒な事を言っていたのを、しっかりと聞き逃さなかったので急いでリヤカーを引っ張って宿に戻ることにした。


 リヤカーの荷台には何故かヴィクトリアが乗っていたが、コイツは手伝う気がないのだろうか。

 しばらく全力でリヤカーを引っ張り、街中を疾走すると宿屋の前に着いた。 


「さぁ! 荷物をどんどん乗せて行きますよ!」

「と言っても俺達の荷物はお前の大盾と衣類ぐらいだったな」


 そう言えば宿屋なのだから、そんなに持っている家具もなく唯一重量がある物と言えばヴィクトリアの大盾ぐらいであった。あとは無駄に多いヴィクトリアの私服やら普段着やらである。

 いつのまにこんなに買ったのだろうか。衣服が掛かっているハンガーラックには何故か、バニーガールのような奇抜な衣装までもが掛かっているが……。恐らく気にしたらダメな類だろう。


 ヴィクトリアにもストレスが溜まる時ぐらいあるのだろう。

 もしくはその身を犠牲にしてお金を……?


 俺はアイツがバニーガール衣装の服を着て接客している姿を想像していると、

「やっと全部持ち出せました! では、早速家に向かっていきましょう!」

「お、おう! そうだな」

ヴィクトリアは最後の荷物をリヤカーに乗せて笑顔で俺を見てきた。


 その後は深く考えないようにして、俺はリヤカー思いっきり引っ張って家へと向かう。

 もちろんヴィクトリアは荷台に乗っているぞ。時には優しく接した方が良いのかも知れない。


 そんなこんなでリヤカーを引いて家の間に到着すると、既に先客が着いていたらしい。

 大量の剣と魔法関連の書類が溢れんばかりに荷台に乗せられているリヤカーが、家の庭に置かれていたのだ。


「アイツらこういう時の行動力は早いんだな……」

「私達も荷物を家の入れちゃいましょう!」


 パトリシア達の物であろうリヤカーを見ながら呟くと、ヴィクトリアが荷台から降りて自分の荷物を持ち言ってきた。

 

「そうだな。先に荷物だけ入れて後で荷ほどきしたほうが良さそうだ」


 俺も荷台から自分の荷物を取り出すと、それを両脇に抱えて家の中へと入った。

 家の中には既にパトリシアとユリアが、火をランタンに入れてくれたのか凄く明るくなっていた。


「あらやっと来ましたのね! ちょうど良いので私の荷物を部屋に運び込むのを手伝ってくれないかしら?」


 家の一角から扉を開けて急にそんな事を言ってきたパトリシア。

 俺が家に入った時の足音で気づいたのだろうか。はたまたヴィクトリアの甲高い声のせいか。


「いいけど先に俺の荷物だけ部屋に入れてくるぞ」

「ええ、分かりましたわ」


 と言っても俺の荷物は高が知れている量だけどな。

 俺は思いながら自分が選んだ部屋へと向かう。


「よし到着っと。今日からここが俺のエデンだ! これで誰にも邪魔されずにようやく一人で事を成せるぞぉぉ! やったーー!」


 荷物を適当に置くと、俺は部屋の真ん中に立ち周りを見渡す。

 日当たりのいい場所はヴィクトリアに取られたが、ここもそれなりに良さそうだ。

 なんて言ってトイレと風呂場が近いからな。動線的にも最適の部屋ではないだろうか!


「っと……いかんな。パトリシアに手伝いを頼まれれいたのだ。部屋でゆっくりするのはまた後だな。埃も凄いし掃除しなければな」


 俺は自分の部屋を後にすると、パトリシアの骨董品の数々を丁重に部屋へと運ぶのを手伝った。

 だけど如何せん剣の数が多い……何本あんだよこれ。っと言った具合にかなりあるのだ。


「あ、その剣は世界に四つしかない貴重品ですのよ。落としたり傷つけたらユウキの命を貰いますわよ?」


 俺が数々の剣を抱えヒィヒィ言いながら運んでいると、横からさらっと怖いことを言ってくるうちの聖騎士。本当に聖騎士なのだろうか。


 だったら自分で運べよとは思うのだが、さっきからパトリシアは剣を見てはうっとりとした表情を浮かべて一向に進んでない。

 これはあれだな。パトリシアは断捨離ができないタイプなのだろう。

 

 しかし気になる事に、俺が荷台にパトリシアの剣を取りに行った時には既にユリアの私物であろう魔法関連の物が綺麗になくなっていたのだ。

 

 きっとご自慢の魔法開発部屋に全て持ち込んだのだろう。

 大量に置かれていた空の本棚も埋まるといいな。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 色々と時間は掛かったが、全員が部屋に荷物を入れ終わると次は家全体の掃除をする事になった。

 いくら売り物の家だから多少の掃除はされていても埃っぽい所は埃っぽいのだ。

 って事でこれから一時間ぐらい部屋の掃除だ。特に自分達が使う部屋とか念入りになっ!

 ちなみに自分達の部屋は、全ての掃除が終わったあとにする予定だ。


「まずヴィクトリアは庭の掃除な」

「えーっ! 何でですか! 私はリビングという楽そうな所がいいのですが!」

「文句を言わずにやれ。さもなれけばお前の大好きなピギーのステーキもう奢ってやらないぞ」


 当然のように文句を言い出すヴィクトリアには最終兵器を使うしかなかった。

 そう、コイツが何よりも愛してやまないステーキ料理を奢らないという禁忌である。


 その効果は絶大のようで、ヴィクトリアはすぐさま外用の箒を手に取り庭へと飛びしていった。


「えーとパトリシアは浴槽の掃除を頼むぞ」

「もちろんですの! この私がやれば間違いないですわ! 剣を研磨して磨くようにやれば大丈夫ですのよね?」

「あ、あぁ多分な」


 ちょっとパトリシアの掃除というか手入れが怖いが、浴槽を破壊する事はないだろう。

 よくてタイルがツルツルになって滑りやすくなっているぐらいだと思う。


「んでユリアはリビングと廊下を頼むぞ」

「あぁ任せられた! ちょうど掃除用の魔法を作っていたからため「ちゃんと自分の手でやろうな?」クッ……わ、分かったからそんなに顔を近づけないでくれ」


 ユリアが魔法で何かをしようとする時は大抵碌な目に遭っていない気がするからな。

 変なことを言い出した時は意地でも止めねばならないだろう。


「はい、掃除開始!」


 俺の掃除箇所はトイレである。

 やはりトイレというのは一番大事であろう。日常的に何度も使う場所だしな。

 それに日本ではこんな言葉があった気がする。他所の家のトイレを見ればその家の生活レベルがわかると。

 

 今のところお客さんを呼ぶ予定はないが、俺自身気持ちよく使いたいのでしっかりと綺麗にさせて貰おう。






「ふぅ……。こんなもんか? 俺にしては上出来だと思うのだが」


 薄汚れていたトイレは俺のフリーズ魔法とファイヤー魔法を駆使して汚れを剥がしてから、ひたすらに磨き上げる作業だった。

 やはり魔法は便利だ。どんな頑固な汚れも凍らせて一気に火で炙れば直ぐに落ちるからな。


 なんか俺が最初に魔法取った理由からどんどん使い方が遠のいて行く気がするが……まぁ仕方ない。


「さてと……ヴィクトリア達の様子も見に行くかな」


 掃除用具を片付けると俺はアイツらがしっかりと掃除をしているの確認をするべく歩き出した。

 最初に向かうはヴィクトリアだ。やっぱりパーティメンバー中で一番サボりそうな奴と言えばコイツだろう。


 家の中から外へと出ると俺はヴィクトリアを見つけべく庭を見渡す。

 するとヴィクトリアは何かブツブツ言いながらも箒を使い、ちゃんと落ち葉やら一箇所に纏めていた。


「なんで私が外で落ち葉を集めなきゃいけないんですか……。あっそうだ。後でこの大量落ち葉をユウキの部屋に!」

「おい変なこと考えるなよ? さもなくばピギーのステ「すいませんしったぁ!」……よろしい」


 まったく……。隙あらば変なことを言い出すな、うちのシールドマスターは。


「しかしちゃんとお前が掃除をしていて感心したぞ」

「そりゃあ私の生き甲斐が懸かっていますから!」


 お前の生き甲斐はピギーのステーキを人に奢ってもらうことなのか。それでも女神か貴様。


「あ、そう。じゃあ後、五分ぐらいやったら終わっていいぞ」

「本当ですか! 分かりました!」


 俺はヴィクトリアにそれだけ伝えると次の場所に向かった。

 それは浴槽担当のパトリシアのところだ。


「おーいちゃんとやって……」

「おっとユウキ危ないですわよ! いまタイルを一個一個綺麗に磨き上げてツルツルですの!」


 あーあ。やっぱり俺の思っていた通りのことをパトリシアはやらかしていたな。

 しかもなんだよこの異様なツルツル加減は。ゆで卵じゃないんだから。


「この掃除に一体お前は何を使ったんだ?」

「普通に売っているものですわよ。まぁ、要剣用とは書いてありましたけど私的には問題ないかと!」

「問題しかねえよ! 馬鹿かこのお嬢様はよ!」

「ひウッ! ……な、なんですの急に!」

パトリシアは俺の声にビビったのか掃除の手を止める。


 おまこれ……剣用の研磨剤かなにかなんだろ!?

 そんなんで一個一個丁寧に磨いていたら、そりゃお前ツルツルになるわ!

 嫌だぞ俺、風呂場で滑って後頭部を打ち付けて死ぬなんてオチは! 


「頼むから剣用は剣だけにつかってくれ……。じゃないとこれからお前はきっとギルド内でパトリシアお嬢と言われるだろう。何故なら俺が今から広めに「わ、分かりましたわ! もう!」……よろしい」


 がやがや言っていたパトリシアを何とか鎮めることに成功すると、俺は次にユリアの掃除を確認しに向かう。


「はははっ! やはり魔法とは便利! まさに英知の結晶だなぁっ! ひっはは!」

「おい馬鹿賢者。魔法は使うなと言っただろう?」

 

 俺はテンション爆上がりしているユリアの元へと近づきながら声を掛ける。

 周りを見れば魔法で勝手に箒やら雑巾を動かして掃除をさせているようだ。

 

 そして当の本人はリビングの椅子座って足を組みながら高らかに笑っている状況だ。

 スカートの隙間から微妙にパンツが見えないのが惜しい。

 と、そんなことを考えている場合ではないな。


「なんだユウキ駄目なのか?」

「お前はさっき俺が言った言葉をもう忘れたのか?」

「何か言っていたのか? すまないが覚えていないな。はっはは」


 ユリアはすまないとか言っているが、足を組んだ状態で更に笑っているので確信犯だと思うのが? どうだろう?


「はぁ……またっく。まぁ何か起きなければ大丈夫か」

「安心しろユウキ! オレの魔法は安心安全だ!」


 どの口がそれを言っているんだろうな。本当にマジで。

 俺はユリアに冷ややかな視線を送っていると、急に廊下から何かガラスのような物が割れる音が聞こえてきた。


「な、何事だ!?」


 俺はすぐさま音の出処に向かうと、そこにはユリアが魔法で操っていた箒が見事に窓ガラスに突き刺さっている現場であった。

 一体どうして何が起こってこうなったのか皆目検討もつかない。


「なにが起こった……ん……だ」

遅れてユリアもやってくると、その現場を目にして言葉が途切れ途切れになっている。


「なぁユリア。お前の魔法は安心安全なんだよな?」

「あ、あぁ……た、多分そのはず……。お、おかしいなぁ……あははっ……」


ユリアは言葉が段々と弱くなっていくと同時にリビングに戻ろうとしているのか、微妙にさっきから後退りしている。


「お前は一ヶ月間、リビングと浴槽と庭の掃除を一人でやるように」

「そ、そんなぁ! あれは魔法が悪いんだ! オレせいではない!」

「馬鹿か! その魔法の主はお前だろがい!」


 ユリアは俺に掴みかかって許しを乞うてくるが、やはりやらかした事には罰が必要だろう。

 俺は心を鬼にしてユリアを突き放す。まだこの家買って二日目だと言う事を忘れないで欲しい。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 



 全員の掃除が終わると俺達はリビングに集まり、ご馳走……とまでは言えないがヴィクトリアが意外にも頑張ってくれたので多種多様な料理が沢山机の上に並べられている。

 スープ系やパスタ系、そして肉やパンといった具合だ。


 流石に新築祝いとはいかないが、一応めでたい事は確かなので祝うことにしたのだ。


「それでは新しい我が家を祝してっ! かんぱーい!」

「「「かんぱーい!!!」」」

俺の合図で皆は持っていたコップやジョッキを打ち付け合う。

 

 それから俺は料理を食べながらふと思った。あ、しまった今日クエスト行けてないじゃんっと。

 明日は朝早くからギルドに向かうことを決意すると、俺は英気を養う為に肉にかぶりついた。


「くそぉ……やっぱりうめえ」

「ん? 今何か言いました?」

ヴィクトリアは屈託のない笑顔を向けてくると、俺は自然と顔を逸らした。

「何でもない」

コイツの腕前なら料理屋でも開いたら儲かるかな……。と俺は一人肉を食いながら思う。

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