21話「防衛戦ー開始ー!!」

「大変です! ミストルの街に向かって大量の飛龍が接近中! 冒険者各位は至急、装備を整えて外壁に集まって下さい!」

それは突然ギルド内のスピーカーを通じて知らせられた。


 ギルドに居た冒険者達は食事をしていた手を止めたり、他の冒険者と話すのを辞めると一斉に武器を持ち出して外へと駆けていった。

 もちろん、その中にエリクパーティも居た。 


 俺とヴィクトリアは初めての出来事にただ呆然と突っ立ていると、皆が出て行く時に乱暴に開けられてそのままになっていたギルドの扉に、見知った女性二人が姿を現した。


「ユウキ達何をしているんですの! 緊急クエストですわよ!」

「飛龍なんて滅多に襲ってこない筈なんだがな……取り敢えず、街の外壁まで案内するからオレ達について来い!」

俺は未だに状況をしっかりとは飲み込めてないが、パトリシアとユリアから本気の焦りという感じが伝わってくる。


 どうやら事態は俺が思っている以上に急を要するみたいだ。


「よ、よし! よく分からないが案内を頼む! ほら行くぞヴィクトリア!」

俺はパトリシア達に返事をすると横に居るヴィクトリアの手首を掴んで外へと走り出す。

「うわっ!? ちょっとユウキ! 私のか弱い腕をそんな乱暴に掴まないで下さいよ!」

ヴィクトリアの何処が、か弱いのか説明して欲しい。

最近ではあの大盾を片手で持っているじゃないか。




 そして俺は目の前を走るパトリシア達に先導されて街のへとたどり着いた。

 既にそこには多くの冒険者達が居て、皆何かしらの準備を始めている様子だ。


 この外壁の上に行くには下の方から一気に階段ダッシュをしなければならない。

 いや……本当は外壁の中に木製のエレベーターみたいなのがあったのだが、他の冒険者達に取られて乗れなかったのだ。

 

 チクショウ! こんなとこでも早い者勝ち精神の冒険者達の影響がッ!

 ……それだと言うのに、何故あの二人は鎧を着ていたり、大杖を持っていてもあんな素早く走れるんだ?

 ヴィクトリアと俺は中間あたりで、ゼーハーゼーハーしていたと言うのに。


 それとこの外壁上にはレールが敷かれていて、その上に車輪の着いた大型のボウガンや大砲が備え付けられている。

 恐らく対空戦用の装備なのだろう。命中率とかが気になる所だ。


しっかし……だけどまぁ……。

「幾ら何でもここは高すぎるんじゃないかぁ?」

俺は膝を付きながら落ちない様にして下を向いた。


 ここからなら、ミストルの街を一望できるぐらいには高いな。

 

「なんですか~? ユウキってば高所恐怖症ですか!」

「ちげーよ! こんなの誰だって怖いわ!」

ヴィクトリアがクスクスと笑いながら聞いてくるが、この場に立って貰えれば誰でも俺と同じ事を言うと思う。


「おーいヴィクトリア! すまないがオレ達と一緒にこっちを手伝ってくれ!」

「人手が足りないんですの!」

ユリア達が少し離れた位置からヴィクトリアに声を掛けている。

「はーい! 分かりましたー!」

ユリア達に呼ばれるとヴィクトリアは急ぎ足で向かっていった。


 俺はそんな三人から視線を外してそのまま下を見続けていると、いつか吸い込まれそうな感覚に陥りそうだったので、ちょっと後ろに下がってから立ち上がった。


 すると、後ろの方では皆が忙しなくボウガンや大砲を移動させていたのに気づき、俺はそれを手伝う事にした。


「お、重い……! 最近運動不足でこれはキツイぞ!」

他の冒険者達と頑張って重い大砲を動かしているが、中々にこれは重労働だ!


 そんな最中、俺はふと横に視線を向けると懐かしい人物を目の当たりにした。

 

 そう! 最初の頃ギルドで色々と教えてくれたあのさんだ!

 しかも今回もバッチリと上半身裸である。


大男さんは俺の視線に気付いたのか顔がこっちを向いて。

「よう兄ちゃん! まだ生きていたか! ハッハッハ!」

と、豪快な笑いをしていた。

俺はその言葉に対して親指を立ててグッドポーズを見せる。

「えぇ! お陰様で何とかまだ生きてます!」

「そうか! なら今回も頑張って生き延びないとな! 普通なら飛龍なんてんだけどな!」


 確かにそうなのだ。

 大男さんの言う通り普通なら飛竜は街に向かって飛んでくる魔物ではないのだ。

 これは、ここに来る途中にパトリシア達から聞いた話なのだが。


 飛竜とは前肢が翼になり高い飛翔能力を持つ竜の事で、普段は森の奥深くや、火山にて生息していると言われている。

 その性格は攻撃的だが、好んで人を襲うような魔物ではないらしい。

 たまにキャラバンとかが襲われたりする事例もあるらしいが、それは縄張りに入った事で飛竜が防衛反応で襲うらしい。

 

 ついでに飛竜は基本的に縄張り意識が高く、ずっとその土地にて暮らすとのこと。

 だから今回、街に向かって飛んでくる飛竜は何かがらしい。


「おっと兄ちゃん! 大事な事を伝え忘れていたぜ! これは飛竜の種類にもよるんだが、アイツらはただ飛んでるだけじゃなくて、火とか風とかのブレス攻撃もしてくるからきーつけなッ!」

「えっ……え!? わ、分かりました!」

大男さんはまるで俺の考えていることに補足する様に教えてくれた。


 マジかよ!? パトリシア達からは一言もそんな事聞いてないぞ!

 あ、危ない所だったぜ……。

 って事は接近戦を挑んだら丸焦げにされるという訳だな。

 

 俺達冒険者はその後も黙々と、飛竜襲来のギリギリの時間までボウガンと大砲のセッティングを行っていた。

 女性達はボウガンと大砲の弾を装填しやすいように各場所へと運んでいる。

 

 この世界では良くも悪くも男女共に平等だ。

 性別問わず皆、同じ量の働きが要求されるのだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「飛竜の姿を確認! その数……大多数! ちょっとかも知れない!」

双眼鏡らしき物を持った冒険者の一人がそう叫ぶと、俺達は皆して同じ方向を向いた。


「う、嘘だろ……」

あぁぁ……こ、これはマジで本当にヤバいかも知れない。

と言うよりも確実にヤバい事が起きているッ! 

「何だよあの大勢の飛竜達はよォ!! アイツらって群れで行動するのかよ!?」

聞いてない聞いてない。そんな事誰も言ってなかった!


 俺の視界に写ったのは、ざっとであろう数の飛竜の群れが真っ直ぐこちらに向かって飛んでくる姿であった。


 どど、どうすんだよ!

 あの数相手にこの大砲とボウガンで何とかなるものなのか!?


 確かにゲームとかではこれらを使って迎撃したり討伐したりしていたが……。

 ここはゲームの世界じゃなくてちゃんとしたリアル! 現実なのだよ!


 うぉぉおぉ……。

 今度こそ俺の異世界冒険記が終わりを告げる予感しかしない。


 俺は一人その場で頭を抱えて左右に首を振っていると、ボウガンの近くに居たヴィクトリア達がこっちを見ながら叫んでいる事に気付いた。


「な、なんだよー!」

俺はヴィクトリア達に向けて取り敢えず叫び返す。

こっちはやっと冒険者活動が軌道に乗ったと思ったら即行で無くなりかけて絶望している所なんだが!!

 

 と、俺がその場から動かないでいると向こうからユリアがこちらに向かって走ってきて、俺の目の前へと来るとこんな話を持ちかけてきた。


「聞けユウキ! 飛竜の鱗は硬質で頑丈、市場ではで取引されているのだ! つまり、一体丸ごと鱗を剥いでやればそれなりの儲けが期待できるぞ!」

「儲け……だと!?」

「あぁそうだ! だから急いでこっちに来い!」

そのまま俺はユリアに腕を引っ張られながらヴィクトリア達の元へと連れて行かれた。


 ユリアの話が本当なら少しだけやる気が出てくるぞ。

 宿屋の月額やヴィクトリアののせいで、こっちはいくらクエストこなしても貧乏なんだ。

 

 何が「私はピギーのA五ランク肉しか食べません」だ!

 そのせいで毎月四万の食費が掛かってるだぞ! ヴィクトリアだけで!


と、思っているとそこへヴィクトリア達が。

「さあユウキ! 私達がセッティングしたこのボウガンで飛竜達を射抜いて下さい! 鱗をたんまりと貰って儲けますよ!」

「私は空中戦は不利ですの、だからここでサポートに徹しますわ!」

「オレは横から魔法で飛竜達を攻撃するぜ!」


 ……何だろう。ここにきて俺のパーティメンバーが凄く出来る奴らに思えてきた。

 パトリシアは自分が不利だと自覚するとサポートに徹する姿勢、ユリアに至っては頑なに攻撃魔法を使いたがらなかったのに……。


「よし分かった! ボウガンは俺が操作する! ここで飛竜を出来るだけ倒して稼ぐぞ!」

俺はボウガン後ろに立つと、パッと見これならゲームで教わった知識を活かして扱えると思った。

 

そして俺が配置に着くと同時に冒険者の一人がまた叫んだ。

「全員ボウガン、大砲、ありったけ食らわせてやれェ! 街には一体も入れるなよォ!」

「「「「おぉぉおうう!!!」」」」

俺はそこで冒険者達の心が一つに纏まった気がした。


「よぉぉしッ! 狙い定め! 目標飛竜! 撃てェェェエ!!」

その合図と共に冒険者達は街を守るべく、ボウガンや大砲の弾幕を飛竜に向けて放った。

一方で俺は金の為にと、ボウガンの矢に欲望を乗せて放つ。

「おらッ! 俺達の金となりやがれトカゲ野郎!!」

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