19話「女神は後悔する」

「ユウキ~? 起きてくださいよ~! 朝食、早く食べないと冷めちゃいますよ~」

「ん……お、おぅ」

ヴィクトリアに声を掛けられると、俺は重たい瞼を必死に下げないようにしながらベッドから起き上がる。


 意識はまだボーッとしているがキッチンからは美味しそうな匂いが漂ってきて、起きたばかりの俺の胃を刺激してくる。

 今日は珍しくヴィクトリアが朝食を作ってくれたみたいだ。


 というより……作らざる追えないのだろう。

 宿屋のお姉さん事クラーラさんが、今は為に朝食の供給がストップしているのだ。

 そこでヴィクトリアはクラーラさんから食材を借りて、お粥を作ったりそのついでにこの朝食作ったりとしているのだ。


「さあ、早くこちらに座ってください。食べますよ!」

「あ、あぁ。今行くよ!」

ヴィクトリアに急かされてイソイソと椅子へと向かった。



「「いただきまーす!」」

両手を合わせて恒例のアレをやると、ナイフとフォークを持って朝食に手をつけ始めた。


 ヴィクトリアが作ってくれた朝食は意外にも見栄えは良く、完成度は高いと言える。

 メニューはベーコンエッグのスープ付きと言った感じだ。


 ではまず、ベーコンエッグのエッグから。

 これは卵が半熟になっていて、ベーコンに絡ませて食べる事で優しく胃の腑に落ちていってグッドだ。

 まあ、俺は白身の方が好きなんだけどな。


 次にベーコン! これはカリカリ派と、さっと焼く派に分かれる所だろう。

 俺は断然カリカリ派なのでヴィクトリアが焼いてくれたベーコンは最高だ。

 噛むごとに香ばしくも、しっかりと旨みを感じれる。


 後はクラーラさんが作り置きしといてくれた、秘伝のスープを飲みながら一息つく。


 ……ここで俺は無粋だがこんな事を思ってしまった。

 ヴィクトリアは意外にも……本当に意外にも! 自炊というか料理が出来るというのに何故、性格はギャンブル好きで馬鹿なのだろうっと。


 料理が出来て、容姿も完璧なら文句付け所はないんだけどなぁ。

 はぁ……。実に勿体無い。

 

「ん~? なんひぇふか?」

「……ちゃんと食べてから喋れ」

ヴィクトリアは俺の視線に気付いたのか、口をモゴモゴと動かしながら何か言っていた。


 俺はそんなヴィクトリアを見ながら残りのスープを飲みきると食器を纏めた。

 後で皿は俺が洗っといてやろう。



そして俺達が朝食を食べ終えると。

「御馳走様でした!」

「お粗末様でした!」

と言ってヴィクトリアは食後の休憩に入ると、今度は俺がキッチンへと向かい食器を洗う。

ふと、ヴィクトリアが使っていたフォークを見て一瞬が、見た目だけの女だと自分に言い聞かせて何とか乗り切ることができた。


「ところでユウキ? 今日はギルドに行かずに何をするんですか?」

「あぁ、言ってなかった? そろそろお前の装備を揃えにに行こうかと思っている。ついでに俺もこの世界に似合う服が欲しいからな」

ヴィクトリアが後ろから話し掛けてくると、食器を洗いながら今日の予定を教えた。


 コボルト退治のクエストで少しだけ金銭的余裕が生まれたので、ヴィクトリアの装備を揃えようと武具店に行きたい思っていたのだ。

 ついでに俺の服も何とかしたい。


「あぁー。流石に何度もギルドから大盾借りるもの面倒いですからね~。それにユウキの服装って今更ですけど凄い場違い感ですよね!」

などとヴィクトリアは言っているが、コイツは大盾を借りるんじゃなくて奪っているに近い気がするんだけどな。


 今でも思い出す……。受付の人が困り果てた顔をして俺を見ていたことを。

 それに俺の服に関してもギルドの冒険者達に色々と突っ込まれてしまい、誤魔化すのにだって限度がある。学生服って言っても伝わる別けないしな。


「よし、食器洗い終わりっと!」

「ご苦労様でーす!」

最後の食器を洗い終わり横に置くと、ヴィクトリアが何かを飲みながら言ってきた。

……それ俺が買っといたスカイ炭酸じゃん。

何してくれてんの?


「おいヴィクトリア! それ俺のだぞ返せ!」

「嫌ですね。これは朝食代として頂きます!」

「はぁ!? 朝食のお礼は皿洗いで返したろ!」

「フッ、その程度で私の作った神聖な料理を返せきれる訳ないでしょう」

ヴィクトリアは誇らしげに俺のスカイ炭酸を飲み干した。

あぁ……。俺の毎日の締めの一本が……。


 ……後でコイツには忘れられない程の植え付けてやる。

 公衆の面前では言い表せないような事をなァ!

 

 俺は心の中で何度もその言葉を繰り返す。

 飲み物の恨みは凄まじい事を思い知らせてやるからな。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 

 そして俺とヴィクトリアはミストルの街で有名な待ち合わせ場所、噴水広場にてパトリシアとユリアが来るのを待っていた。

 あの二人がオススメの武具店を紹介してくれるらしい。


 正直、最初の街でどれだけの装備があるのかは分からないが、ギルドにオリハルコンを使った武器があるぐらだからそれなりは大丈夫だろう。


と、そこへ二人の女性が俺の元へと駆け寄ってきた。

「遅れてしまい申し訳ないですわ! ユリアが中々起きなくて困りましたの」

「オレのせいか~? あれはパトリシアが普段着に迷っていただけだろ?」

どうやら二人はここへ来るまでに色々とあったらしい。


 そう言えば昨日のパトリシア戦の後、ギルドで飲み食いしていた時に聞いたんだが、ユリアは宿を取っておらず野宿で過ごしていたらしい。


 何というタフネス、そして冒険者らしい生活だ。


 そこでパトリシアが「なら、私と一緒に寝食を共にしませんこと?」とか言い始めて、ユリアは即答していた「良いのか!? だったら是非お言葉に甘えたいんだが!」っとな。

 まあ、俺とヴィクトリアみたいな感じだな。


 しっかし……言われて見ればパトリシアが鎧を着ていない姿は初めて見た気がするな。

 白いブラウスと黒色のスカートで清楚なイメージだ。

 私服をモデルみたいに着こなす、流石お嬢様だけのことはある。


 ユリアは相変わらず真っ黒いコートを纏っていて暑そうだけどな。


「まぁ、取り敢えず武具店に行こうぜ。案内頼むよ」

「そうですわね! では早速行きましょうですの!」

俺達はパトリシアとユリアの後をついて歩いていくと、木造建築の武具店に着いた。


 お、おぉ……。ゲームと同じで看板には剣と防具のマークが書いてあるぜ。

 ふむ。って事は例のアレもありそうだな。


 武具店の中へと入ると、俺達は各々装備を見るために一旦バラける事になった。

 もちろん俺は迷わず服コーナーへと行く。

 この世界に似合う服を選ばければならないんだ。

 このままじゃ雰囲気ぶち壊しだしな。


「うーん……この世界のファッションとか分からないんだよなぁ。そもそも日本に居た頃でもオカンが買ってきた変なTシャツ着ていたぐらいだしな」

俺は各種服が並んでいるラックを見て悩む。


 そのまま悩み始めて十分ぐらいが経過すると、やっと俺は服を選ぶことができた。

 中々に服選びとは困難を極めるな……。

 まあ、値段に悩んでいただけだが。


 その後、俺は服を持って他の三人の様子を見て回ると、パトリシアは武器コーナーで涎を垂らしながら剣を見ていたり、ユリアは杖のコーナーで何やらブツブツと言っている様子だった。


「で? 良い感じの大盾はあったのかヴィクトリア?」

「えぇ! もちろんありましたよ!」

そう言ってヴィクトリアは自分の髪色と同じ、純白の大盾を持ち出した。

ほうほう、値段もそこそこでちゃんとオリハルコンを使用して作られている……っと。

「おぉ、中々良いじゃないか! 俺が纏めて払っといてやるから服でも見てこいよ」

「えっ! ゆ、ユウキの奢りですか!? ……仮にもこんな高級の大盾を本当に?」

「構わんよ。たまには女神に貢物しないとバチが当たりそうだしな。はははっ!」

もちろん俺はそんな事、微塵も思っていない。

これも全てあの怨みを晴らす為に必要な事なのだ。

「そ、そうですよね! 私、女神だし! たまには貢いで貰っても大丈夫ですよね! では、私は服を見てくるのでお会計頼みますね~!」

脳天な女神様そのまま服コーナーへと走っていった。


 ハハッ。ハーハッハハ!! 馬鹿な女神だぜ!

 服コーナーには事前にを準備しといたんだよ!

 そう、ヴィクトリアなら必ず反応して買ってしまう服をよォ!


俺は皆の様子を見て回っている間に、こそっと武具店のおっちゃんにこう聞いたのだ。

「あのーすみません!」

「ん? どうした坊主? 何か探し物か?」

「はい! この店に例のアレってあります?」

おっちゃんは俺の質問に渋い顔をしていたが、周りを見渡した後こう返してきた。

「なるほど。この店に居る嬢ちゃん達は坊主のツレか……」

「えぇそうです!」

しばしの沈黙が続くと……おっちゃんは親指を上げてグッドポーズを俺に見せ。

「もちろんあるぜ! ついてきな!」

と、満面の笑みで言ってきた。


 やはりあったか……!

 これはきっとビキニアーマーに続く定番の装備だと俺は思っていたからな。


おっちゃんに案内されて歩いていると。

「これだろ? 坊主の言っていた品物はよ!」

「おぉー! まさしくこれですよ!」

俺の前には武具店の中で一際異色を放つ、綺麗な服が展示されていた。

よしよし……後はこれを……!


 俺はひっそりとおっちゃんに耳打ちして、この展示服に『美しい女神様専用の服』とポップを出して貰えるようにお願いした。

 ヴィクトリアは”女神”と”美しい”という言葉に過敏に反応するからな。

 これなら絶対に買うだろう。その為にもこの大盾は俺が買わなければならないッ!


 まあ、これも復讐の為だ。

 喜んで散財しようではないか!


 ……という訳だ。


 そして俺は大盾と服の支払いを済ませると、当然の如く財布はスッカスカになってしまった。

 だがその後直ぐに、ヴィクトリアが後ろから「これ買いますー!」と言って例のアレを持って走ってきて会計を済ませていた。


 きっとこの時の俺は凄くゲスの顔をしていたであろう。ははっ。

 後はここで服を着させて、噴水広場まで連れていけばいいだろう。

 あそこはからな。


武具店での用事も終わり、店から出ようとするとおっちゃんが。

「頑張れよ坊主!」

と、声援を贈ってくれた。

任せといてください! 必ずや俺は成し遂げてみせる!


 ……という事で店でヴィクトリアに例のアレを着させてから噴水広場までやってきた。


「ヴィクトリアのその服中々に良いですわね」

「そうでしょ! 何て言ったって私専用ですからね!」

「ヴィクトリア専用?」

パトリシアに服を褒められるとヴィクトリアは胸を張って誇らしげだ。

一方でユリアは首をかしげているがな。


 ここまで言いくるめるのは実に簡単だった。

 その綺麗な服を街の皆に見てもらった方が良いんじゃないのか? っと少しおだててみればヴィクトリアは「そうですね! 皆に美しい私を見てもらいましょう!」とか言い始めて乗り気だったからだ。


 さーて、横にちょうど良く置いてあった木のバケツを持ちまして、噴水の水を拝借しますっと。

 それから狙いを定めて! 一気に! 振りかぶるッ!


「おら喰らえヴィクトリア! 俺のスカイ炭酸の怨みを知れぇぇ!!」

俺はバケツに入った大量の水をヴィクトリアに向けて放ったが、近くに居たパトリシアとユリアにも勢い良くかかってしまった。

そして水をぶっかけられた三人は俺を睨みながら。

「ちょっとユウキ! いきなり何するんですか!! 馬鹿なんですか!」

「そうですわ! 一体何を考えていらっしゃるんですの!」

「事と次第によっては……ユウキにはオレの魔法で一週間ほど苦しんで貰うことになるぞ。ふふっ」

色々と言ってきたが、俺は静かにヴィクトリアへと人差し指を向けた。

「何でもいいが、ヴィクトリアはその姿大丈夫か?」

「当たり前ですよ! これは私せn「ちょっとヴィクトリア! 貴女ますわよ!?」えっ!?」

ヴィクトリアは話している途中にパトリシアから服が大変な事になっている事を聞くと、自分の姿を見て驚いていた。

「な、ななな、なんで私は姿になってるんですかぁー!!」

顔を真っ赤にしながらヴィクトリアは両手で下着を隠している。 


 よぉぉぉおおし!! 俺はその羞恥心にまみれたお前の顔が凄く見たかったぜ!

 ハーハッハハ!


「ほれほれ、周りの男達もお前のあられもない姿を見て興奮してるぞぉ~?」

俺は更に煽るよにヴィクトリアへと責め立てる。

「い、いやぁァ……! み、見ないでぇ!」

ヴィクトリアは目に涙を溜めているように見えたが俺は気にしない。

やる時は徹底的にやるのが俺のポリシーだからだ。


すると、パトリシアとユリアがヴィクトリアの前に立ち、周りから見えないようにカバーし始めた。

「クッ……! まさかあの服が水に濡れると溶ける、の装備だと知っての犯行ですの!?」

パトリシアは服について妙に詳しかったが、今はどうでもいい。

「あははっっ!! そうだよ! これは全部俺が仕組んだ罠さ! もっと恥じらうと良いわ! あーはっはは! って!? い”て”て”で”て”で”え”え”!!」

俺は高らかに勝利の笑いを上げようすると、懐かしくも怖いが襲ってきた。


「確かにヴィクトリアの羞恥心に犯される顔は見てて楽しいが……やっぱりオレはユウキのその苦痛に歪む顔が見・た・い!」

ユリアは杖を振りかざして言う。

そんな状況を見てパトリシアがボソッっとこんな事をいった気がした。

「か、カオスですわ……」




 …………その後、俺がヴィクトリア達にボコボコにされたのは言うまでもないだろう。

 だが、心は凄く穏やかであった。

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