2話 ステータスオープン

「……む。ここは?」


 真也が目を覚ました場所は、森の中だった。


「異世界……なのか? 一見する限りでは区別がつかんな。……いや」


 真也は深呼吸をしてみる。

 何となくだが、空気が違うような気がした。


「神様がいくつかスキルをくれたんだったな。さっそく見てみるか。ステータスオープン」



シンヤ=レギンレイヴ

レベル:1

職業:全属性魔導師

魔力ランク:S

スキル:言語理解、健康体、運勢上昇



「おお! なんか凄いな!」


 自分のステータスを見て、真也は興奮を抑えきれないようだった。


「だが、名前の表記が妙だな……。シンヤの表記がカタカナになっているのは、まだ分かる。しかし、俺の名字はレギンレイヴではないのだが……」


 やたらとカッコいい名字だ。

 意味はなんだったか……?

 神話か何かで登場する天使だか悪魔だかの名前だった気がする。

 だが、はっきりとは思い出せない。

 彼は漫画やアニメをよく見ていたので聞き覚えだけはあるのだが、その意味全てを理解し暗記するほどのオタクではなかった。


「まあいいか。魔力ランクはS。神様も、俺の魔力量は多いって言っていたな……」


 生まれ持っての素養の影響も大きいが、その後の鍛錬次第でも伸びるものらしい。

 真也の場合、魔力が薄い地球でがむしゃらに鍛錬していたのが功を奏した。

 高山で体力トレーニングをしていたようなイメージである。


「言語理解、健康体、運勢上昇。これは文字通りの効果と言っていたな。この世界で生きていくためにはありがたいものばかりだ」


 一方で、魔法や魔力関係のスキルはもらっていない。

 神様からの提案はあったのだが、シンヤが断ったのだ。


「せっかくなら、自分で新しい力を身につけてみたいからな!」


 シンヤはそう言って、新たな生活を始めるべく行動を開始したのであった。


「さて、まずはこの森から出て街に向かわないと。魔物とかもいるらしいし……」


 彼は道なき道を歩き出す。

 木々がそれなりに密集しており、枝葉が視界を遮っているため、方向感覚が失われそうになる。


「……あれ? おかしいな」


 しばらく歩いたところで、シンヤはある違和感を覚えた。


「全然疲れないぞ? ……それに、体が軽い。多少は鍛えていたとはいえ、ここまで疲労を感じないはずがないんだが……」


 魔力により肉体的な能力が強化されている影響だろう。

 神様の話では、そういうことも可能とのことだった。

 普通であればこっちの世界に来てすぐに扱えるような技術ではなかったが、魔力量の少ない地球で鍛錬をしてきたシンヤにとっては造作もないことであった。


「これなら、考えていたいろいろなことも試せそうだ」


 そう言うと、シンヤは目を閉じて集中した。

 自分の意識を空高くまで飛ばすようなイメージをする。


「【イーグルアイ】」


 すると、目蓋の裏に景色が広がる。


「これが……この世界か」


 この世界で主に力を持っているのは、人族だ。

 また、人族以外の種族も存在している。

 獣人族、エルフ族、ドワーフ族、竜人族、魔族などだ。

 彼らは時に人族と交わり、時に対立しながら暮らしている。

 地域によっては強い差別意識があるが、致命的な敵対をしているというわけではない。


 それよりも脅威なのは、魔物の存在だ。

 魔力を帯びた動植物が変質して生まれるそれらは、人の住む地域に出現すれば甚大な被害をもたらす。

 その被害を防ぐには、強力な武力による討伐が必要になる。

 冒険者と呼ばれる存在もいて、魔物を狩ることで生計を立てる者もいる。

 この森は人里から離れているため、魔物も野放し気味になっている。


「むっ!?」


 シンヤは【イーグルアイ】の視界の片隅に動く大きな影を捉え、そちらに注意を向けた。


「なんだ?」


 それは、大きな猪のような姿をしている。

 しかし、通常のそれとは違い、牙や毛皮は赤黒い色に染まっており、その巨体は5メートルほどもある。

 そして、何よりの特徴は、頭部にある2本の角だ。

 禍々しく光る赤い瞳からは狂気が感じられる。


「あれが魔物か。それも、おそらくは上位種だ」


 シンヤはさらに観察を続ける。

 この世界に来て最初の戦闘が上位種というのは少し荷が重い。

 できればこの魔物の力を把握しておきたかった。


 だが、そうも言っていられない事情が発生した。

 間が悪いことに、魔物の行く手に馬車が1台走っているのだ。

 このままでは、いずれ鉢合わせになる。


「行くしかないか」


 シンヤは魔力を体に流す。


「【フィジカルブースト】!」


 彼は魔力によって身体能力を強化し、一気に駆け出したのだった。

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