第13話 ロベルトの顛末
メアリーがルイーゼにぶつかり因縁をつけて以降、益々メアリーの機嫌は悪くなっていった。
ドレス専門店の件や、ぶつかった件については、目撃者も多くいたこともあり、瞬く間に学園中に噂が広まってしまった。ヒソヒソと後ろ指を刺されては、メアリーがキレて不機嫌になるという繰り返しであった。
それから一週間が経過した。
その日は朝からメアリーの姿を見かけなかった。いつもロベルトの側に纏わりついていたため、どうかしたのかと疑問に思ったのだが、風邪でも引いたのか、或いは怒りすぎてとうとう熱でも出たのだろうか、とさして気には留めなかった。
だが、次の日も、その次の日もメアリーが学園に現れることはなかった。
ロベルトに一言の連絡もできないほど伏せっているのだろうか。
流石に心配になったロベルトは、彼女が住まう学生寮に様子を見に行こうと考え始めていた頃、父である国王に呼び出された。
◇◇◇
少し緊張した面持ちで、王城の謁見の間へとやってきたロベルト。家族である自分をこの場所へと呼ぶということに、ただならない気配を感じずにはいられない。
「健勝なようだな、ロベルトよ」
片膝を立てて頭を低くするロベルト。
その眼前の玉座に鎮座するのは、ロベルトの父、レオナルド・フェルナンド王だ。その隣では、ロベルトの母であり王妃のスフィア・フェルナンドが優しい微笑みを浮かべている。
スフィアの髪は、ロベルトと同じく鮮やかなブロンドであり、対照的にレオナルドの髪は透き通るような美しい銀髪であった。
「はっ、父上、母上におかれましてもご健勝のようで何よりです」
ロベルトを呼びつけた要件は何なのか、尋ねる前にレオナルド王が口を開いた。
「なぜ進級パーティでのことを私たちに知らせなかった」
静かに怒気を帯びた声に、ロベルトの肩はびくりと跳ねた。
ルイーゼとの婚約は、ロベルトから国王に求めたものだった。それにも関わらず、ロベルトは独断で婚約破棄を言い渡したのだ。そのことを諌められていると悟り、ロベルトは動揺した。
だが、何故今になって父は婚約破棄の件を指摘して来たのだろうか。パーティからは既に二ヶ月近く経過しようとしていた。
そんなロベルトの疑問に答えるかのように、レオナルド王は話を続ける。
「何故今更、といった顔をしているな。パーティでの件を遅れて知った我々は、すぐにお前を呼び出し事情を聞こうとした。だが、スフィアからお前からきちんと言い出すのを待ちたいと嘆願されたのだ。私はスフィアの意見を尊重することにした。そしてその間に、お前が新たな婚約者にすると言った令嬢のことや、近頃のお前自身のことを色々と調べていたのだよ。とある筋からの情報提供も相まり、十二分に調査することができた」
バサリとレオナルド王は、ロベルトの目の前に書類や写真を投げ捨てた。
そこにはロベルトの動向を記録するものや、交友関係が記されたものなど、様々な報告内容が記されていた。その中でも、ロベルトの目を引いたのは、何枚もの写真であった。
「こ、これは…」
そこに写っていたのは、メアリーであった。
どの写真にも、見知った者から知らない者まで不特定多数の男性が写っていた。男性たちとの距離の近さから、ただならぬ関係であるというこは自明であった。
「メアリー・アドニス男爵令嬢は、お前と親しくなる前も親しくなった後も、数多の男性と関係を持っていたのだよ。それだけではない。最近では街中や学園内でも騒ぎを起こしたそうじゃないか。そのことはその場にいたお前が一番よく知っているだろう?残念ながら彼女は我が国の王立学園に通うに相応しくないと判断した。先日退学の通達をし、領地に戻るように指示を出したのだが…随分と暴れたようで、強制送還させてもらったよ。今頃は領地に戻っているはずだ」
ロベルトは愕然とした。
確かにメアリーは自分と関係を持つ前に、様々な男性と懇意にしていたとは聞いていた。だが、ロベルトと婚約関係にあった期間にも淫らな交友関係が続いていたとは思いもよらなかった。自分だけを愛してくれていると疑いもしなかった。
「ああ、一つ勘違いをしているようだが、お前とアドニス男爵令嬢の婚約は正式に成立してはおらぬよ。お前が独断で宣言したことに法的効力はない。それはルイーゼ・ヴァンブルク嬢との婚約破棄についても同様に、だ。だがその件については、こちらからヴァンブルク家に謝罪を入れ、正式に婚約破棄の手続きを取っている。ヴァンブルク家との繋がりは、王家にとっても大きな利益となるものであったのだが…お前のような愚息に彼女は勿体なさ過ぎる」
厳しい言葉を投げつつも、どこか悲しげな瞳をするレオナルド王を見て、ああ、自分は父の期待を裏切ったのだ、とようやく悟った。
どれだけ周囲から落ちこぼれだと言われても、父と母だけはロベルトの味方をしてくれた。だが、ロベルトは自らの愚かな行いで、両親の期待を無碍にしてしまったのだ。
がくりと肩を落として項垂れるロベルト。と、その時。
「失礼します!国王陛下、ご来客です」
「ああ、来たか。通してくれ。丁重にな」
「はっ!」
緊張した面持ちで、憲兵が謁見の間に入ってきた。レオナルド王は、さして驚いた様子も見せず、あらかじめそのことを知っていたかのように憲兵に指示をした。
王に許可を得た憲兵は、急いで謁見の間から出ていった。そしてすぐに再び大きな扉が開き、二人の青年と一人の令嬢が謁見の間へと足を踏み入れた。
「久しいな。アレンにクロード。そしてルイーゼ嬢よ」
レオナルド王は嬉しそうに三人を招き入れた。目を丸くしてあんぐり口を開けるロベルトの隣まで歩みを進めた三人は膝を突き、王へ深く礼をする。
「ご無沙汰しております、レオナルド王。本日はお招きいただき光栄です」
「はっはっは、なんだ堅苦しいではないか。いつものように話すことを許可しよう」
かしこまったアレンの態度に吹き出したのはレオナルド王である。王の言葉を聞いたアレンは顔を上げると、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そう?じゃあ遠慮なく。久しぶりだね、レオ君。元気そうで何よりだよ」
「アレンも相変わらずのようだな。色々と評判は聞いておるよ。君からの手紙もこの通り、しかと受け取った」
「あ、アア、アレン!?」
レオナルド王は懐から、アレンが出した手紙を取り出してヒラヒラさせる。
クロードは二人のやり取りを半ば諦めたように遠い目をして眺めている。ルイーゼは何故自分がここにいるのか戸惑っている様子だが、アレンの物言いに目を見開いて慌てている。
状況が飲み込めないのはロベルトも同じだ。
「ち、父上…これは一体…?」
ロベルトの問いに答えたのはアレンであった。
「やあ、お久しぶりですね、ロベルト殿下。僕があなたのお父様に頼んでこの場を設けていただいたんですよ。姉さんを傷つけたあなたに、天誅を下すためにね」
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