第13話 強制お着替えタイム

「着替えてきなさい」と言われても、私が持っている服なんて、地味で動きやすさを重視したシンプルなものばかりだ。

 遊園地を楽しむには、シンプル イズ ザ ベスト。

 動きやすい格好に限るのに。カーディガンにTシャツとジーンズの何が悪いっていうんだ。

 それにたとえ何に着替えたとしても、私がコハクの横に並んだら……王子様と道案内人にしか見えないだろうし。


「桜、私がコーディネートしてあげる」


 衣装ダンスを眺めながら悩んでいると、大学生の姉、楓が部屋に入ってきた。

 姉は私と違ってお洒落が好きで、見た目も美人でよくモテる。

 同じ姉妹なのにどうしてこうも違うのか。月とスッポンって例えが本当にしっくりくるこの落差。


「いやーアンタの彼氏モデルみたいだね、服装のセンスもいいし! お姉ちゃんがアンタをお似合いのカップルに仕立ててあげるから任せときなさい」

「彼氏じゃないよ」


 そんなこと言ったらコハクに失礼だと咄嗟に否定すると、姉は私の反応を見てニヤニヤしている。そして悟ったらしい。


「もしかして彼、ハンカチ王子?」

「ハンカチ王子って……否定はしないけど」

「桜、絶対に今日落として来なさい!」

「ちょっと、何言ってるの?」

「こんな優良物件逃すとアンタにもう春は来ないわ!」


 そう言って姉は拳を強く握りしめて頑張れとガッツポーズをとる。だけど、思わず私は姉から目を逸らして呟く。


「私にはクッキーが居てくれればいいよ……」

「そんな事言ってるから本当にもうアンタって子は……覚悟してなさい!」


 指をバキボキとさせながら姉が近づいてきた。

 どうやら私は取り返しがつかないほど姉の闘志に火をともしてしまったらしい。


 こうして、私の大改造計画が姉の手によって執行された。

 容赦なく私の服を脱がせにかかってきた姉は、私の腕に巻かれた包帯を見て手を止めた。


「あら、その腕どうしたの?」

「クッキーと散歩してる時に転んじゃって。大したことないよ」

「そう? ならいいけど。さぁ、ハンカチ王子を待たせてる事だし急ぐわよ!」


 白のふんわりとした膝丈のシフォンワンピースなるものを着せられ、腕の包帯はレースのついたアームカバーで見事に隠された。

 いつも後ろに束ねていた黒髪は軽く巻いておろされ、リボンのワンポイントがついたカチューシャを付けられる。

 スッピンだった顔にはナチュラルメイクが施され、首元にはシンプルな小ぶりなネックレスをアクセントにあしらわれた。

 鏡には今まで見たことのない自分が映っていて、清楚なお嬢様風スタイルが見事に完成していた。


「アンタ、元はいいんたから少し手を施すだけでこんなに変わるのよ。靴は玄関に用意しておくから。さぁ、魔法が解けないうちに行ってきなさい」

「ありがとう、お姉ちゃん」


 姉に見送られ、私はコハクの待つリビングへと向かった。


「お待たせ、コハク」


 普段着なれない装いのため、何だか気恥ずかしい。それを悟られないように、普段通り声をかける。


「桜……お姫様みたいだ。とても似合ってる、可愛いよ」


 そう言ってキラキラした瞳でコハクは私を見つめてくる。

 お姫様だなんて……生まれてこのかた言われたことがない言葉に恥ずかしくてどうにかなりそうだった。


「折角のデートだもの、これくらいおめかししなくちゃね! 楓、いい仕事したわね」

「まぁね~時間があれば、まだ可愛く出来たんだけど、今日の所は仕方ない。桜、気をつけて行ってらっしゃい」

「コハク君も桜のことよろしく頼むわね」

「帰りはきちんとお送りするので、任せて下さい」


 母と姉に「今日はまた一段と暑いね~」と冷やかされなから、私達は家を後にした。

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