第34話 元勇者はS級異能者と共に、A級モンスターと対峙する③
「【超電磁———」
「ウタセルカ!!」
「ッッ!! 隙がなさすぎです……!」
優奈は拳銃からゴツいランチャーの様な銃に持ち替え、拳銃よりも遥かに高い出力で撃とうとするが、発射よりも前にオーガジェネラルが接近して攻撃してくるのでずっと撃てないでいた。
更に現在オーガを止められる仲間はおらず、優奈1人で何とかしなければならない。
他のS級達は他の場所を守っており、遠い所では学校から何十kmも離れた場所にいる者もいる。
まぁ殆どはこの学校を守っているが。
「……これは難しいですね……援軍も期待出来ないとなると……自力でしか……」
一瞬清華の方を向いたが、彼女では荷が重いと感じた優奈は再び銃口をオーガジェネラルに向けて電磁を溜める。
しかし勿論オーガジェネラルが動かないわけもない。
オーガジェネラルはその巨体に似合わない俊敏な動きで優奈に接近する。
だが優奈も遠距離が得意とは言え異能の能力的には遠近どちらも対応できるため、一瞬の内に電磁を身体に走らせて反応速度を上げた。
そしてオーガジェネラルの振り上げを大振りなバックステップで躱し、ランチャーを片手で持ちながら反対の手で拳銃を取り出して発射。
「グァァアアアア!! メガイタイ!! ユルサンニンゲン!」
眉間を狙った一撃は、少しズレるもオーガの目に命中し、オーガは目を押さえて叫ぶ。
目を潰されたオーガジェネラルは全身から魔力を迸らせると先程とは比較にならない程の速度で接近してきた。
「グルァア!!」
覇気の篭った叫び声を上げながら大剣を一振り。
「———!? くッ!?」
優奈がその大剣に気付いた時には既に目の前に迫ってきていた。
その時優奈の頭の中では高速に思考が回っていた。
(避けようと今から異能を発動させようにも時間が足りません……。ですが、ランチャーで防御すれば間違い無く勝てなくなってしまう。しかしこれは防御するしか……)
優奈がランチャーを自分の体とオーガジェネラルの間に割り込ませようとした瞬間。
突然オーガが呻き声を上げて大剣の軌道を大きくずらしてしまった。
「グァァアアアア!? ナンダ!?」
突然の出来事に混乱する優奈だったが、少し離れた所にタガーの様な物を構えた清華がいることに気づき直様理解する。
彼女が攻撃してくれたおかげで助かったのだと。
「優奈さん! 私が気を引きますので攻撃の準備に入っていてください!」
「わ、分かりました!」
清華の指示に素直に従う優奈。
ランチャーを構えて異能を発動。
優奈は
「どうか……無事でいてください……」
そう祈る事しか出来なかった。
☆☆☆
清華は動かない優奈を横目に【気配遮断】を使用してオーガジェネラルの懐へと入り込む。
そして音もなく足の腱を何度も切り付ける。
「グワアアア! 一体ナニモノダ! ゼンゼンワカラナイ!」
オーガジェネラルは本来高い完治能力を持っており、微弱な気配でも気付くことが出来る。
しかしそんな感知能力があろうと、隼人の【感知】をもすり抜けた清華の【気配遮断】の敵ではなかった。
(まだあの化け物は私の存在に気付いていない。出来れば気付かれる前に動けなくさせてやりたいけど……)
清華は自身のタガーに目をやる。
合金製のタガーの刃は既にボロボロになっており、所々大きく欠けてしまっている始末。
折れるのも時間の問題だろう。
(それまでに相手を動けなくさせてみせる——!!)
清華は再び接近して足の腱を切り付ける。
しかしその時にある違和感を感じていた。
(……切られる瞬間に足を動かした? もしかして私の位置を特定できる何かを見つけたのかしら?)
しかしそれでも止めることはできない。
更に腱を切ろうと近付くと……
「——ココダ!」
「!?」
オーガジェネラルが清華の居る場所に大剣を振るってきた。
まだ確証はないのか弱く遅い攻撃だったのでなんとか避けることの出来た清華だが、その額には汗が大量に吹き出している。
(危なかったわ……まさかもう気付かれるなんて……)
そう。この異能には弱点があった。
使用者の気配を消すだけで、動いた時に発生する地面を蹴る音や風の流れも消す事は出来ず、気配に敏感な人には動けば動くほど見つかりやすくなると言う欠点だ。
それに気付いたオーガは嘲笑する。
「コレデ……オマエヲコロセル」
「ならやってみなさいよね」
清華は最新の注意を払ってゆっくりと移動する。
そして今まで背後から攻撃していたが、今度は横から脇腹を斬りつけ、即座に距離を取った。
(よし、バレてない……。やはり音や風で位置を把握しているのね。ならゆっくり接近すれば問題ないはずだわ)
そう考えた清華は再び優奈の方を見る。
優奈の銃口から既に電磁によって発生した電気が溜まり、バチバチと音を立てながら光っていた。
「清華さん! 次攻撃したら離れて!」
(遂に溜まったのね! なら私は最後に一撃を喰らわせてやるわ!)
清華は自身の最高速度で飛び込み、大剣をギリギリの所で避けるともう片方の目をタガーで刺し、そのままタガーを離して距離を取り、
「優奈さん———今です!」
優奈に分かるように【気配遮断】を解除する。
清華を発見した優奈は銃口をオーガジェネラルに構えて発射。
「【超電磁砲mark:Ⅱ】」
先程の拳銃など比にならないほどの大きさの弾丸が雷を纏って飛翔する。
その速度は雷とほぼ同等の秒速10万kmにも達しており、オーガジェネラルは反応することすら出来ずに首を吹き飛ばされた。
優奈はゆっくりと銃口を下ろし、オーガジェネラルが死んでいるかを確認する。
頭から首にかけては綺麗に吹き飛んでおり、跡形もなく消滅していた。
それを確認した優奈はホッと息を吐いてその場にへたり込んだ。
「優奈さん……奴は?」
「大丈夫です。ちゃんと死んでいます」
「そうですか……私たち勝ったんですね……」
清華も優奈同様その場にへたり込む。
しかし2人ともその顔には安堵の笑みが浮かんでいた。
しかしそんな2人に絶望が舞い降りる。
清華と優奈が遥達の元へ向かい、避難させようとしていた時だった。
ピシッ……ピシッピシッピシッ!!
突如再び亀裂が発生したかと思うと、中からボロボロの人型の化け物——ルドリートが出てきた。
そいつは穴だらけの蝙蝠の翼を持ち、全身血だらけになっている。
ルドリートは辺りを見回し、隼人の家族を見つけるとニンマリと笑みを浮かべた。
その笑みを見た瞬間、優奈と清華はすぐに戦闘態勢に入るが、先程のオーガジェネラルとは違い、その威圧感に完全に呑まれていた。
「な、何なのよ……あの威圧感……」
「あ、あれは私では絶対に敵いません……」
2人とも完全に戦意を喪失している。
それほどまでに相手との戦力差が大きかった。
「いやぁ……あの化け物から逃げてきたら丁度お目当ての人間が居るとは……。そこのお2人、サイカワハヤトの家族を渡すのなら助けて差し上げましょう」
「…………何ですって?」
「私たちに彼女達を渡せと……?」
「ええそうです。私はあの化け物に勝つために彼女達が必要なのです。———さぁ此方に渡せ」
ルドリートは威圧を込めて2人を脅す。
普通ならそれだけで気絶してしまうほどの圧力だ。
「何かと思えば家族を渡せですって?」
「それもこんなthe悪者みたいな輩に?」
2人はルドリートの言った事とは反対に遥達を庇うように背を向ける。
そして清華はタガーを、優奈は2丁の拳銃を構え、2人同時に叫ぶ。
「「そんな事するわけないでしょ!!」」
2人同時にルドリートへと決死の特攻を仕掛けた。
———隼人が来るまであと2分。
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