第21話 落第勇者、S級異能者と交戦する②



 彩芽の攻撃を全て防いだ隼人は、突然屈伸などの準備体操をし始めた。

 その突然の行動に疑問に思った一同だったが、隼人はすぐに止めると目を瞑り言葉を唱える。


「【身体強化:Ⅴ】」


 その言葉と共に隼人の半身に『ビキビキッ!』と嫌な音を立てながら赤黒い亀裂が刻まれていく。

 そして髪が揺蕩う様に舞い、その身から強烈な威圧波が発生する。


「くっ……!? な、何なのよこの威圧感は……!」


 威圧に充てられた彩芽は歯を食いしばりながら屈しない様に耐える。

 しかし既に膝は笑っており、身体がこの敵とは戦うなと警鐘を鳴らしている事に気づきながらも彩芽は引かない。


(私はこの組織の最高戦力の1人……。新人にタダでやられる訳には行かないわ……!)


 その一心で耐える彩芽。

 

 一方で観戦していた者たちは、隼人の圧倒的な力に呆然と笑うしかなかった。


「うわぁ! 凄い凄い! 隼人お兄ちゃんってこんなに強かったんだねっ!」

「まぁある程度は予想していたからギリギリ耐えられるわね」


 いや呆然としていない者が2人いた。

 1人はまるでヒーローを見るかの様なキラキラとした眼差しで隼人を見つめる颯太。

 興奮しすぎてぴょんぴょんと飛び跳ねて大喜びしている。

 案外1番図太い神経の持ち主かもしれない。


 2人目はずっと監視をしていた清華。

 清華は隼人を既に自身より遥かに強いと確信していたため、そこまでの驚きはなく、多少呆れている程度だった。

 

 しかしその他の者は隼人の力に恐れながらも希望を見出していた。


「ま、まさか清華君の報告が本当で全く誇張が無かったとは……歳をとって目が曇った様だな……」

「代表、あれは誰でも分かりません。元々私たちと同レベルに強そうだとは感じていましたが、まさか此処まで実力を引き上げられるとは誰も思わないでしょう」

「しかしもし彼が我らの組織に入ってくれたなら……あの古臭い奴らにも勝てるやもしれん」

「更に此処最近現れ出した新種にも圧勝でしょうね」


 護衛と龍童は必ず隼人を怒らせない様にしようと心に誓った。







☆☆☆






 その頃隼人と彩芽の模擬戦は遂に動き出そうとしていた。

 先程までずっと目を瞑っていた隼人が目を開く。

 

「……目が……銀色?」


 彩芽が言う通り、隼人の右眼が白銀に変わっていた。

 その瞳は彩芽を捉えている。

 

「ふぅ……久しぶりに此処まで強化度合いを上げたな……」

『なら我も使うのだろう?』


 隼人の呟きにイヤリングとなった破壊剣が反応する。

 心なしか声が弾んでおり、ワクワクしている様に聞こえ、そんな破壊剣に苦笑しながら隼人は頷く。


「ああ、今回はお前を使おう。舐められない様にしないといけないからな。来い———破壊剣カラドボルグ


 隼人の耳についていたイヤリングが光り輝くといつの間にか手に剣が握られていた。

 突然のことに彩芽が驚愕する。


「いきなり出てきたと思ったらあの剣の方が怖いんだけど……」

『怖いとは失礼だな』

「———へ?」


 いきなり知らない女の声が聞こえたと思ったら、目の前には既に隼人がいた。

 突然の事で驚く彩芽だが、反射的に異能を発動させる。

 

「———氷の檻アイスプリズンッッ!!」


 その瞬間に隼人が氷の檻へと閉じ込められる。

 しかし——


「———カーラ、破壊しろ」

『ふんっ、言われるまでも無い』


 隼人が剣を一振りすると、氷の檻が突然消滅する。


「は———?」

「敵の目の前でその反応はダメだぞ。此処は攻撃しないと」


 彩芽の耳元でそう言う隼人は剣の腹を彩芽のお腹に軽めに・・・叩きつける。


「がはっ———!?」


 彩芽は踏ん張る事など出来ず、身体をくの字にして吹き飛ぶ。

 その速度は先程彩芽が発動した氷の矢に匹敵する程だった。

 しかし吹き飛ぶ彩芽は建物に激突する前に何者かに抱き締められており、身体を叩きつけられることはなかった。

 

「——え? ど、どうして衝撃が……」


 そこで彩芽は言葉を止める。

 自身の目の前に片眼が銀色になった隼人の顔があったからだ。

 その顔を見た瞬間に彩芽の頭はパニックを引き起こす。

 

 しかしそれもしょうがないことだろう。

 自身を吹き飛ばした張本人がいつの間にか吹き飛んでいる自分を受け止めていたのだから。

 そんな混乱中の彩芽に隼人は話しかける。


「なぁ、これは俺の勝ちでいいか?」

「げほっげほっ!! ……え? あ、うんそれはいいけど……ごほっごほっ」


 彩芽が苦し紛れに同意すると、それを聞いていた審判をしていた護衛が勝ちどきの合図をあげる。


「勝者——斎川隼人!!」

「うわぁ、うわぁ! 凄いなぁ、隼人お兄ちゃん本物のヒーローみたい!! 清華お姉ちゃん! 僕もあんなに強くなれるかな!?」

「え? そ、それは必死に頑張ったら出来るかもしれないわね……それか斎川君の弟子になるかね」

「じゃあ僕隼人お兄ちゃんの弟子になる!」


 そんなほんわかとした話をしている外野とは違い、隼人は彩芽の改善点を話していた。


「お前のいけない所は、まず相手の力量をちゃんと測ることだ。それに幾ら異能が強いからと言って体術を疎かにするのはやめた方がいいぞ。スキ——異能が使えない時に体術が使えないとすぐに死ぬぞ」

「へっ? いや、え? ど、どうしてアンタが私を……」

「ん? ああそれに驚いているのか」


 隼人は今気付いたとでも言わんばかりに「なるほど……」と頷くと、


「銃弾並みの速度で攻撃に対応出来るんだから、勿論銃弾並みの速度で動けるに決まってくるじゃ無いか」


 と何とも無い様に言う隼人。

 その言葉に同意できた者は、


『その通りだ。よく分かっているな主人よ』


 人間では無い剣だけだった。

 



 元S級冒険者『剣神』斎川隼人VS現S級異能者『氷姫』三越彩芽。


 ——勝者、『剣神』斎川隼人。



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