第14話 落第勇者、身近に異能者を見つける①

 取り敢えず俺はこの漆黒の剣――破壊剣を何とかする所から始めることにした。


「なぁ相棒、お前何か変形みたいなこと出来ないか?」

『何故そのような面倒な事をさせる? このままでいいではないか』


 良かったら言ってないっつうの。

 この世界ではお前を持っているだけで犯罪なんだよ。


『……チッ……しょうが無いな。少し待っていろ』


 破壊剣はそう言う? と突如光り出し、剣の形がどんどん変形していく。


 鉄パイプみたいなのになるのかな…………ん?


 俺は破壊剣を注視する。

 始めは鉄パイプのように細長くなったと思ったら、どんどんと人の形に変形してきた。

 そして完全に変形が終わったのか輝きが消えると、そこには13歳程の少女がいた。


「いや誰だよお前」

「我だ所有者。どうせ分かっているのだろうに」


 そう言って面倒くさそうに首を横に振る少女改め破壊剣。

 相変わらず態度のでかい奴め。


 ただ10年間程過ごしていたため、正直家族よりも話しやすい。

 気付けば昔の様に話していた。


 しかし———


 暗くて少し見えにくいが、随分と整った容姿をしており、中学校にこんなのが居たら結構モテていただろうなぁと軽い現実逃避を発動する。

 しかしそんな俺の脛を蹴り上げる破壊剣――


「――って、痛いわ! そんなにゲシゲシ蹴るな」

「ならさっさと感想を言え感想を!」


 何だよこの似非美少女。

 マジで人間の女子みたいなこと言いやがって。

 ただこれ以上何も言わないと更に脛を蹴られそう――と言うか既に蹴られているので、率直な意見を言う。


「可愛いのは認めるが、その姿はやめろ」

「な、何で!? 我は所有者のためを思ってこんな姿になったと言うのにか!?」

「余計にやめろ! 俺はロリコンじゃない! シスコンではあるがな」

「十分におかしい奴じゃないか……」


 そう言って可哀想な人に目を向ける様に見てくるな。

 武器のくせに無駄に人間ぽいことしないでくれ。

 

「はぁ……面倒な所有者だな……しょうが無い。我が姿を変えてやるとしよう」

「是非そうしてくれ。主に俺の名誉と人生のために」


 破壊剣は最後に俺に大きなため息を吐き再び体を光らせた後、剣の形をしたイヤリングになった。

 

『これでどうだ? 常に付けていてくれるならこのままでいてやろう』

「おおー、いいじゃないか。多少厨二チックに見えるけど、これくらいなら全然いいかな」

 

 俺はイヤリングを右耳に付ける。

 すると破壊剣と一体化したような感じに襲われた。

 どうやらこの状態でも剣としての能力は健在なようだ。


『ふむ、懐かしい感覚だな。300年前くらい昔のことを思い出す』

「どんだけお前年取ってんだよ」


 人間だったら300歳以上って事だろ?

 まぁ剣だから年齢はないんだろうが。


『いや我は所有者と大して年齢は変わらないぞ』

「おいそれってどう言う意味―――」


 俺が気になることを言った破壊剣に聞き返そうとすると、ふと気配に気づいた。

 その瞬間に感知を発動。

 しかし気配は感じられない。


 そして心の中で破壊剣と会話を続ける。

 しかし先程のような会話ではなく、戦場のときのような空気だ。


『所有者よ、気付いたか?』

『ああ、何者かが俺たちに近づいてきてるな。それもこの世界にしては人間離れした強さを持っている奴だ。だが俺の感知から逃げられる奴なんているとは思えないんだけどな……』

『それは所有者が弱くなっているだけだ』 

 

 それを直接言われるとこう……来るものがある。

 好きで弱くなった訳じゃないし、そもそもこの世界ではこれでも世界最強の名を張れると思うんだけど。


 ただ一瞬だけ感じた気配はモンスターなどではなかったので、多分人間だろう。

 しかし俺の感知から消えるということは異能者だろうか? 

 これで一般人だったら本気で鍛えようか迷うかもしれん。


 俺は警戒しながらも真っ暗な辺りを頻りに視線を彷徨わせながら口を開く。


「居るのは分かっている。隠れているなら出てこい。もし出てこない様なら俺が先に攻撃するぞ」


 俺は身体強化を発動させながら隠れているであろう者を脅す。

 一般人では無いのはほぼ確定なのでわざわざスキルを隠す必要もないだろう。

 もしもの時は言わない様に徹底的に脅せば良い。

 異世界ではこんな事ザラだったからな。


 俺がそんな事を思っていると、突然公園に生えている木の後ろから1人の気配が現れ、


「ま、待って! 私は敵じゃ無いっ!」


 そう言って弁明を———


「ん? 宮園?」

「あっ……」


 何と俺の目の前に現れたのはつい数時間前に一緒にいた宮園であった。

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