第4話 落第勇者、家に帰る

 スキルが使えてしまう事に気づいた俺は、あの後【身体強化】も使ってみた。

 勿論先程の事も踏まえて1番弱くだが。


 すると——案外簡単に発動してしまった。

 まぁその後体が貧弱すぎて筋肉痛が発症してしまったけど。

 異世界では筋肉痛なんてしょっちゅうなっていたけどやっぱり慣れないな。


 その後もベッドに痛む体を預けながら色々と試してみた。

 今の自分がどれくらいの強度に耐えられるのかや、異世界の時とどれくらい身体能力が落ちているのかなどなど。


 その結果、異世界の頃の10分の1も力が出せないことが分かった。

 だからスキルがあっても俺は殆どスキルを使いこなせる体じゃないから大して強くない。

 精々この世界で最強を名乗れるくらいかな?

 それだけあれば十分な気がするけど。


 しかし異世界の頃と違って常時感知を発動できないため、検証の途中で医師たちが来た事には本当に焦った。

 いきなり筋肉痛になった事をバレない様にしないといけないし。

 

 記憶の件は「混乱してたからおかしな事を言った」って事にした。

 ちょっと苦しい言い訳かもと思ったが、偶にそんな患者も居るらしく特に怪しまれる事は無かった。

 偶に居る患者って俺と同じく異世界転移経験者じゃないかと思ったけどね。


 その後俺の体は筋肉痛な事以外特に異常はなかったので1週間経った今日、遂に退院となった。

 外には俺の家族が車を停めてくれているらしい。


 しかし待ってくれている家族には少し申し訳ないが、俺は病院の外に出る前にグルグルと無駄に病院を回る事にした。

 1週間で現段階での使い方を熟知した【感知】でクラスメイトがまだ居るか調べてみる為だ。

 しかし俺がどうやら最後だったらしく既に誰も居なかった。


 光輝が居れば感謝を伝えようと思ったんだけど……。

 まぁまた直ぐに会えるだろうしその時は異世界での事とかも色々聞いてみよう。

 会うとしたら……5年ぶりくらいか。

 最後に会ったのは光輝が魔王討伐の旅に出る前だったし。


 俺はあのムカつくほど良い奴の顔を思い浮かべて小さく笑みを溢し、俺は踵を返して病院を後にした。







☆☆☆


 


 


 俺は父さんの運転してくれている10年ぶりに家路についていた。

 長く見ていなかったため本当は見慣れているはずの景色が新鮮に感じる。

 俺が車の窓からずっと景色を眺めていると父さんが話しかけて来た。


「……どうしたんだ? そんなに景色ばかり眺めて。見慣れたもんだろう?」

「あ、いや、1ヶ月も見てなかったから少し新鮮だったんだ」

「そうか。もう少しで着くから寝るなよ? 寝たらまた遥たちにめちゃくちゃにされるぞ?」

「それはやだな……寝ない様にするよ」


 俺は少し焦りながらも言葉を返す。

 いきなり話し掛けないでくれよ……久しぶりすぎて家族とどう付き合って行こうか分からなくなってんだから。


 俺は深呼吸をしてバクバクと鼓動を刻んでいる心臓を落ち着かせる。

 そうしている間に車は家に着き、既に駐車場に車を停めていた。

 

 俺は車の扉を開けて家を見上げる。

 記憶に残っている物と全く同じだ。

 まぁ此方では1ヶ月しか経ってないから当たり前なのだが。


 しかし俺にとっては10年ぶりの我が家。

 少し緊張しながら玄関の戸を開ける。


「た、ただいまぁ……」


 俺は小さな声でよそよそしく入ろうとすると、リビングの扉が開いて、我が妹である遥が腰までありそうな綺麗な黒髪を靡かせながら、とだとだと走って来た。

 そして俺へダイブ。


「おかえりおにぃ!!」

「ちょ、まっ———ぐふっ……」


 俺は頑張って受け止めようとするが、異世界の頃の筋肉も無く、1ヶ月の寝たきりによってほぼゼロとなった俺の筋肉は遥の突進に耐えることが出来なかった。

 そのまま倒れそうになるが、遅れて入った父さんに抱き止められ、倒れずに済んだ。

 

「こ、これは一体どう言う事だい?」

「このおバカが、か弱い俺に助走をつけてダイブして来たんだ」

「なっ! おにぃ、バカとは何だ! バカとは! 私はこれでも成績優秀なんですっ!」


 そう言って自慢げに胸を張る遥。

 現在高校1年生の遥は、150後半とそこまで高い身長を持っていないが、その分胸部の装甲が大きく、胸を張った時にぷるんと震える。

 その姿を見ると学校では人気なんだろうなと思った。


 まぁ俺は何とも思わないのだが。

 妹なんてどんな容姿でどんな姿をしていようが妹だ。

 シスコンである自覚はあるが、別に欲情したりしない。


「はいはい凄い凄い。そんな賢い遥は今の俺の状態分かるだろ? 分かったら退ける」

「むぅ~~……はーい……」

「よしよしいい子いい子」


 俺が遥の背中をトントンとしながら言うと、不祥不詳ながら退けてくれた。

 やっぱり久しぶりの遥とのこのノリは案外心地良い。

 帰って来たと言う実感が湧いてくる気がする。


 俺は遥に手を引かれながらリビングへと移動する。

 そこにはテーブルには様々な料理が用意されており、病院の味気ない食事など目でもない程美味しそうな匂いが漂っていた。

 俺の口に知らず知らずの内に唾液が溜まっていく。 

 そしてテーブルの近くの壁には、『退院おめでとう!!』と書いてあるプラカード? みたいな物が付けてあった。


 俺が言葉を失っていると、遥がドッキリが成功した様な嬉しそうな笑みを浮かべて、 

 

「どうおにぃ? 私たち頑張って準備したんだよ? 嬉しい?」


 俺は笑顔で俺を見ている家族を見ていると、安心したからか分からないが、不意に涙が出て来た。


「おにぃ……? どうしたの?」

「いや……何でもない。——ありがとな遥。それに父さんも母さんも」

「久しぶりの家族揃ってのご飯なんだからこれくらいは余裕よ! まぁ食べられなかったら許さないけどね!」


 母さんがそう言って笑う。

 俺たちもそれに釣られて笑う。


「それじゃあ食べようか」


 父さんの合図で皆んなで椅子に座り食べ始める。

 本当に久しぶりの家族との食事は、今までのどの料理よりも美味しくて楽しかった。


 俺はそんな皆んなを見て、スキルと言うかつて憎んでいた神からの贈り物は、この人たちのために使おうと、そう心に決めた。


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