第143話 大発見

 領地に来てから一週間が経過した。その間に俺は王都から一緒に来た冒険者と騎士の皆と、毎日森を探索している。

 ここまでに新しい野菜をいくつかと果物を二つ見つけているので、かなり順調と言えるだろう。魔物の分布も王都周辺と少し違うけどそこまで強い魔物がいるわけではないので、問題なく探索ができている。


「フィリップ様、本日はこちらの方向に向かうのでよろしいですか?」

「うん。今日も新しい何かが見つかると良いね」


 パトリス率いる冒険者が先頭を進み、俺とニルス、フレディが真ん中。そして後ろを騎士の皆が固めてくれている。この布陣ももう慣れたものだ。


 あと一週間ぐらい日帰りの調査をしたら、そろそろ泊まりも視野に入れないとダメかな……でもこの辺の方が王都よりも雨が多いみたいで、領地に来てからすでに二度も雨を経験しているのだ。

 雨が降ると森で夜を明かすのはかなり大変になるし、どうしようかなと悩む。


「今日も雲が多いですね」

「本当だね。早めに帰った方が良いかな」


 ちょうど木々の切れ間から見えた空には、どんよりとした雲がいくつも浮かんでいるようだ。


「パトリス、今日は街に近いところを回る感じにしてくれる? 天気が悪くなりそうだから」

「かしこまりました。では少し方向を変えますね」


 そうして天気も考慮しつつ森の中を進むこと数時間。魔物を五匹ほど倒してそろそろお昼休憩にしようかな……そう思い始めたその時、俺の目に凄いものが映った。


 俺は思わずその植物を凝視して、それだと確信したところで叫んでしまう。


「見つけた!! イネだ!!」


 俺の叫び声に皆はビクッと反応していたけど、すぐにイネという言葉で俺がずっと探していたものだと思い至ったのか、歓迎ムードに変わる。


「フィリップ様、良かったですね! あれがイネなのですか?」

「そう。あの細い濃い緑のやつ。土ごと採取をお願いしても良い?」

「もちろんです」


 まだ収穫できるほどには育ってないから、枯らさないように慎重に植え替えないとだな。とりあえず今日はこれを採取してもう帰ろう。


「フィリップ様、こちらにたくさん群生しています!」

「本当!? じゃあできる限り収穫して持ち帰りたい」

「かしこまりました」

「では私達も半数を見張りに残して、収穫の手伝いをいたします」


 そうして俺達は冒険者と騎士の半分、総勢二十名以上でイネの採取に精を出した。そして一時間以上が経過して、やっと目に入るイネのほとんどを採取し終えることができた。


「皆、今日はこれで街に戻ろう。できれば今日中に畑に植えたいから」

「かしこまりました」



 それから全力で街に戻った俺は、さっそく屋敷に雇われている庭師と俺に与えられた畑に向かった。畑は屋敷の庭の一角にあって、ここで上手くいった作物を領民にも育ててもらう予定なのだ。


「皆、これはイネって言うんだけど、たくさんあるからこの畑一枚を全て使って植えて欲しい。イネは水が多い方が良く育つから、他の作物より水やりを多くしてね。水溜りができるぐらいあげて良いよ」

「かしこまりました」


 これでこの領地にはイネが自生してることが分かったから、この森の中には収穫期のイネも必ずあるはずだ。今日採取してきたやつが食べられるようになるまでは何週間もかかるだろうし、森で収穫期のイネを採取してコメを食べたい。


 明日から収穫期のイネ探しだな。コメをトマソースで煮込んだリゾットとか、炊いたコメに塩をかけるだけでも美味いのだ。炊いたコメを炒めても美味しいんだよな……やばい、お腹が空く。


「フィリップ様、イネとはこのような植え方で問題ないでしょうか?」

「うん。大丈夫だよ。そっちの人はもう少し深く植えて欲しいかな」

「かしこまりました」


 それから俺達は、数時間かけて全てのイネを植えることに成功した。イネが植えられた畑では、風が吹くたびにザァーっとイネがゆらめく。


「達成感がありますね」

「本当だね……美しい景色だよ」


 前世では綺麗な景色と言われたら花畑を想像したけど、フィリップになってからは畑を想像するようになった。畑は美味しいものが作られる元となる場所だ。ここ以上に美しい場所はないと思う。ここがなければ人間は生きていけないのだから。



 それから数日後。俺は屋敷の厨房で収穫したイネ、いわゆるコメと向き合っていた。そう、ついに昨日収穫期のイネを見つけたのだ。そして昨日のうちに食べられるように外皮などを取り除き、目の前には白くて綺麗なコメがたくさん鎮座している。


 ちなみに外皮を取り除くのは、魔法陣魔法で簡単にできる。前世では魔道具が使われていたので、そのうち魔道具を作ろうと思う。


「ハイナー、今日はよろしくね」


 この屋敷の料理長であるハイナーに声をかけると、ハイナーは楽しそうな表情で頭を下げてくれた。ハイナーも新しい作物や料理が大好きらしいのだ。

 王都の屋敷で料理長をやってくれてるクロードもそうだけど、ライストナー公爵家の料理長は良い人ばっかりだよな。


「こちらこそよろしくお願いします。それでフィリップ様、こちらは?」

「これはイネって作物を食べられるようにしたものでコメだよ」

「コメ、ですね。どのように食べるのでしょうか?」

「いろんな料理に使えるんだ。このまま炊いても良いし、炒めても良いし、煮込んでも良いよ。でも少し水気がある料理に使った方が美味しいかな。炒めるにしても水に浸けてふやかしてから炒めるとか、最後に水を入れて蒸すとか」


 まずは何を作るかな……夢が広がる。とりあえずお米の味を確かめるためにも、普通に炊いてみようか。


「じゃあハイナー、俺が言う通りにコメを料理してくれる?」

「もちろんです!」


 そうして俺とハイナーは、二人で楽しく笑みを浮かべながらコメの調理を開始した。

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