(4)
「そうか。薬草なら、うちの庭にもいくつか植えられているから見てみるといい」
「ありがとうございます」
「庭師には言っておくから、声を掛けてくれれば案内……」
「秋満さま?」
流暢だった言葉が不自然に途切れたので、どうしたのだろうかと思って彼の顔の方へと視線を向ける。すると、同じ快適な温度の部屋にいる筈の秋満さまは、やたらと汗をかいていた。
「どうなさいました? 汗が」
「あ、ああ、済まない。大丈夫だから」
「そのままにしていては風邪を引いてしまいますよ。ええと、先ほどお借りした手拭いが……あったあった」
白い木綿の手拭いを掴んで、彼の額や頬、首の辺りを拭っていく。十分拭き取れたと思った瞬間、秋満さまの体がぐらりと傾いだ。支えを失った体はこちらに倒れ込んで来て、私ごと寝台の上に倒れ込んでしまう。ほんの一瞬だけ結婚初夜にする事が頭をよぎったが、彼の体の熱さと異常な息の荒さから緊急事態を察した。
「秋満さま! 大丈夫ですか!」
「う……」
「少々お待ち下さいませ。人を呼んで参ります!」
「こは……だい……」
「何が大丈夫なものですか!」
「どうかなさいましたか!」
縋ってくる秋満さまの手を振り払って駈け出そうとしたその時、部屋の扉が開いて控えていた家臣の一人が現れた。確か、ここに来て最初に案内をしてくれた、秋満さまの腹心だった筈だ。
「秋満さまが! すごい熱で!」
「……っ!」
腹心の方の顔が一瞬で険しくなった。失礼、と一言断りを入れてくれた後で、慣れた手つきで脈や体温・呼吸を確認している。
「一旦寝台に寝かせます。申し訳ありませんが、掛け布団を捲って下さいますか」
「はい」
言われた通りにすると、彼は何かを唱えた後で秋満さまを持ち上げた。そして、そのまま寝台へと近づきその上に下ろす。
「あの……奥方さま」
「……あっ、私ですか?」
「はい。あの、奥方さまは龍神様だと聞いております。治癒の術とかの心得は」
「あります」
「お願い出来ませんか? 必要なものがあるのでしたら、至急お持ち致します」
「大丈夫ですよ。少しだけ寝台から離れて下さい」
少し探ってみたが、恐らくこの臣下は人間の術者だ。近くにいられたら、神力の調整がやり辛くなる。治癒の術は微妙な練り具合の違いで効果が大きく変わるので、念には念を押すくらいで丁度よいだろう。
十分に距離を取ってくれた事を確認して、術用の神力を調整していく。調整し終えた神力を両手に纏い、一方は額に、もう一方は上から体を撫でるようにして全身に行き渡らせる。
徐々に呼吸が整い汗も引いてきたので、ほっと胸を撫で下ろした。
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