第5話 百葉箱



二人で百葉箱と、その周りを観察したが他には何も見つけることが出来なかった。

ただ草原が広がるばかりだ。


「やっぱりこれを開けるのかな?」


僕の頭にも浮かんでいたアイデアを詩織が先に口にする。


「他には何も無さそうだし、そうだと思う。」


何が入っているのか、開けたら何が起こるかわからない箱とはこんなに怖い物なのか。

これがクリスマスに枕元に置かれたプレゼントだったらどんなに良かったか。


「蒼、二人で一緒に開けない?」


詩織の提案に、僕は無言でうなづく。

怖い、怖いけどやるしかない。


何が起きてもすぐに逃げられるように、僕らの左手は鴉の脚を掴んでいた。

二人の右手が取っ手に掛かる。

少し息を吸って、詩織とタイミングを合わせる。


「「せーーーーの!!!」」


開けた瞬間、鴉の脚に両腕でしがみつく。

、、、何も起きない。


「蒼、、、あれ、、、。」


鴉にしがみついてた僕とは違い、詩織は左手で鴉の足を掴んでいただけだった。

僕は情けない気持ちになった。

とりあえず百葉箱へと視線を移す。


「なんだ、これ、、、。」


百葉箱の中はまるで家のようになっていた。

浴槽、キッチン、ダイニング、小さなソファー。

ティーカップ、ヤカンなんかもある。

明らかに何かがここで生活をしている。

百葉箱の中を観察しながら何かの正体を考えていると、一番奥にあるベッドが膨らんでいることに気がつく。



「どうする?」


詩織も膨らみに気付いたようだ。

ベッドを指差しながら、先ほどよりも小さな声で僕に話しかけてきた。


「布団、めくってみる?」


詩織の言葉に僕も覚悟を決めた。


「、、、わかった。

やるなら二人一緒にやろう。」


百葉箱を開けた時と同じように、左手は鴉の脚を掴ませてもらった。

次はしがみついたりしないで、ベッドの中の何かをしっかり見るぞ!という決意だけした。

僕は深く息を吸う。


「「せーーーの!」」


小声でタイミングを合わせ、一気に布団をめくった。


ベッドで寝息を立てていたのは、一羽の青いツバメだった。



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