第2話 雲の森



真っ白な雲の森を、僕たちは中心に向かって飛んで行く。

ノアくんの話では、15分ほど飛ぶと中央の鍵に辿り着くらしい。

しばらくすると、自分の乗る鴉の背中は目視できるようになった。

目が慣れてきたようだ。


「こんな危険なことに巻き込んで、本当にごめんね、蒼。」


僕の背後にいる詩織から、今日何度目かの謝罪を聞く。


「謝らないで。

一緒に行くことを決めたのは僕だから。

それに“迷子の魔法“を解きたいのは僕も同じだから。」


「ごめん。

絶対に魔法を解けるようになるから、、、。」


“迷子の魔法“

僕らの冒険はこの魔法から始まった。

僕にかけられたこの魔法を解くために、僕らは危険な旅をすることになったのだ。


「詩織、目の前が明るくなってきたよ。

そろそろ中心に着くんじゃないかな?」


希望が見えた瞬間、僕の体は大きく横に傾いていた。

一瞬のうちに、鴉が体勢を保てない程の暴風雨に巻き込まれていた。

手綱を握る手に痛いほど力が入る。

離したくなるほど、手綱が手に食い込む。


「何これ!!!」


手綱が後ろに引っ張られるのを感じた。

彼女も振り落とされないよう、鴉の手綱を握りしめて耐えているのだろう。


「これ、、、台風じゃない!!??」


詩織の声が微かに聞こえた。

子どもの頃、好奇心で台風の日に傘を持って外に飛び出したことがあった。

幼い頃誰もが憧れた“傘を持ち風で飛ぶ“を実践しようとしたのだ。

あの時、傘はすぐに形を保てなくなり、ビニールのついた金属の棒へと成り果てた。

幼い僕は人間では決して敵うことのない、自然の脅威を見せつけられた。


「そうだ!目!目はありそう!!??

台風の目に入れば雨も風も弱まるんじゃない!!??」


先ほどよりも小さくなった詩織の声で、僕は風や雨の弱そうな部分を探そうとする。

雨が強すぎてほとんど目を開けられない。


「わからない、、、。」


手綱にしがみつくのが精一杯だ。

もうダメかもしれない。

このままじゃ鴉から振り落とされてしまう。

そう思った時、風が急に弱くなり、雨が止んだ。

台風の目に入ったようだ。

僕らの目の前には“目“がある。

想像していた“目“とは違い、そこには僕の頭くらいの大きさの眼球が浮いていた。







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