東堂兄弟の5分で解決録8〜シュークリーム消失事件〜
涼森巳王(東堂薫)
消えたシュークリーム
コンビニで買ってきたシュークリーム。プレミアムなやつで、ふつうのより、ちょっとだけ高い。
美味しいよね。シュークリーム。香ばしい皮も、トロンとしたクリームも、バニラビーンズの香りも、生クリームもカスタードも、何もかも至福。
僕はそれを食後のデザートに食べようと、冷蔵庫のなかに入れた。
それが、まさか、あんな事件に発展するとは、このときは思いもしなかった(大げさ)……。
*
「ああッ! ない! 冷蔵庫に入れといた僕のシュークリームがないィー!」
冷蔵庫をのぞいた僕は、思わず大声を発してしまった。楽しみにとっといたシュークリームがどこにもない。
ノー! そんなバカな。あれは一個百九十八円もするんだぞ。ふつうのシュークリームが二つも買えるんだー!
容疑者A(猛)登場。ちなみに兄だ。
「どうしたんだ? かーくん。スゴイ悲壮な顔して」
「どうしたんだじゃないよ! 兄ちゃん、僕のシュークリーム食っただろ?」
「食ってないよ」
平然と容疑者Aは
「そんなわけない。猛しか勝手に僕のおやつ食うやつなんていないよ」
うちには容疑者Aのほか、容疑者B(蘭さん)しか住んでない。蘭さんは猛と同い年の友達だ。わけあって同居中。
ところがだ。容疑者Aは僕を言い負かしに来た。
「かーくん。兄ちゃん、甘いもの好きじゃないだろ?」
「う、うん……」
「兄ちゃんがお菓子とったことあるか?」
「あるけど、煎餅かスナック菓子か、アイスだね」
「だろ? シュークリームは兄ちゃんの好物じゃない」
「うん。まあ……じゃあ、兄ちゃんじゃないのか」
この時点で『とる』という証明はされてるのだが、今回のシュークリームに関しては違う気がする。
容疑者B(蘭さん)登場。
今日も麗しい、わが家の同居人。絶世の美女みたいだけど、残念ながら男だ。
「あれ? 何をさわいでるんですか? かーくん。猛さん」
僕は容疑者Bをうかがった。シャワー浴びたてみたいに爽やかに笑ってるが、油断できない。容疑者Bはなかなか
「……蘭さんだね? 蘭さんがやったんだね?」
「えっ? 何?」
「疑いたくないけど、猛じゃないなら、蘭さんしかいないんだよ。蘭さん、僕のシュークリーム食べた?」
「食べてません」
「蘭さん。ほんとのこと言って!」
「食べてませんよ」
「ええーっ!」
うーん。そんなわけない。
すると、口をはさんだのは容疑者Aだ。自分の容疑が晴れたからって、探偵に口出ししてくるとは、なんて図々しいんだ。自分の本職が私立探偵だからってさ。
「ちょっと、待てよ。かーくん。蘭が冷蔵庫のなかのシュークリームを食べるはずがない」
「えっ? どうして?」
「考えてもみろ。蘭は食べ物に関して
むむ。さすが、本職だけはあるな。説得力がハンパない。
ちなみにいつもの僕は探偵助手。やっぱり、探偵と助手の能力差は歴然としてる。
「なるほど……でも、じゃあ、シュークリームはいったい、どこへ? このうちのなかには、僕と猛と蘭さんしかいないよ。ミャーコは襖はあけても冷蔵庫のドアはあけられないし……」
変だ。容疑者は二人しかいないのに、AもBも無罪。
ということは、何か?
僕が食べて忘れてしまったのか?
いや、まさか。ふつうのシュークリームならともかく、プレミアムなシューだぞ?
買い物から帰ってきたあと、今までずっと楽しみにシュークリームの妄想をしてたのに、ウッカリ食べたことを忘れるなんて、そんなのあるとしたら、僕の記憶が数時間ぶん盗まれてしまったとしか考えられない!
ありえない。やっぱり、犯人は僕でもない。
だとしたら、ミャーコ?
これまで、数々の事件でミャーコは犯人、または犯人の共謀者だった。今回もなのか?
いつのまにか、襖ばかりか、冷蔵庫のかたいドアまであけられるようになったのか?
あの肉球のついた、ぷにぷにの可愛い手で?
何かがおかしい。
僕はここで事件をもう一度、最初から整理してみることにした。
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