【学園編完結】物理が全ての脳筋王国で頭を使って生き抜こうとしてたら、世界でただ一人の魔法使いになってた話
心太
1、力こそパワー!
15歳を迎えた俺、カイト・バウディは、この国で試験が最難関と言われるモスグリーン王国士官学校の入学式に参加していた。
もちろん士官学校の新入生としてである。
──眠い。
永遠に続くのではないかと思われる壇上に立つ偉い人のありがたいお話が、慢性的な寝不足である俺の瞼をとても重く感じさせる。
『君たちは選ばれた人間』『栄誉ある王国への士官が約束された』などなど。
国の偉い人が、かわるがわる登壇しているが皆同じような内容で正直ツライ。
──俺は選ばれてないし、士官も約束されてないからな。
俺にはつまらない話も、他の入学する人達にとっては本当にありがたいようで、周りを見ると感動して泣いてる奴なんかもいる。
ここモスグリーン王国では、王国勤めになれるというだけで最高の栄誉とされていた。
士官学校に入るためには、とんでもない狭き門をくぐり抜けなくてはいけない。
いまここで偉い人の話を聞いてる新入生達は、選ばれたエリート達なのである。
「‥‥‥生きてて良かった‥‥‥」
隣に立っていた、背が高く、がたいの良い男が肩を震わせているのが目に入った。
──大きな身体で羨ましい事で。
彼だけではない。
ズラリと並んだ新入生達は皆こぞって体格が良い。
筋骨隆々だ。
それもそのはず、この学校の入学試験は戦闘能力超重視なのだ。
重視というか、この国において戦闘能力がある人間が誰よりも偉い。
力こそ全て。
俺の住むモスグリーン王国は、そんな価値観の国。
そして国中から集められた戦闘に長けたエリート達。
それはそれは大柄な人ばかりである。
周りを壁に囲まれているようで、壇上の偉い人の姿は背の低い俺からはほぼ見えません。
──ここでも完全に落ちこぼれだな。
なんて事を考えて時間を潰していたのだが、会場が騒がしくなった事で俺は現実に引き戻された。
「おい、あれが噂の!」
「‥‥‥凄え美人」
「あの華奢な身体で‥‥‥信じられねぇ」
どうやら在校生代表で登壇した女性が、彼らをざわつかせているようだ。
人壁の隙間から俺もその姿を確認する。
金色の長い髪を緩く一つくくりにした、美しい女性。
肌が白く背が高い。
細身でありながら出るところは出ている。
いわゆるナイスバディというやつだ。
しかもだ、彼女はただの美人というわけではない。
長い歴史のある士官学校で、歴代最強と言われる戦闘能力の持ち主。
昨年開催された王国主催の闘技大会で、並み居る現役の王国騎士団の屈強な剣士達を撃ち破り、齢17歳にして優勝してしまっている。
剣を握ると、近ずくことすら不可能と言われる最強のチート。
── マナ・グランド。
この名を知らない者はこの国にはいない。
その類稀な戦闘能力と容姿に目をつけた王国が、まだ学生である彼女を、初代グリーン王に付き従って国の礎を築いた『英雄アレク』の再来として祭り上げた事も大きい。
いや、この国どころか、そこらの隣国なら名前くらい皆知ってるんじゃないかな?
この国の第一王子が、彼女に求婚しまくってるってのも有名な話だ。
「凄い人気だな。‥‥‥て、あれっ?!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、壇上を見ていた俺は急に浮遊感に襲われた。
──浮いてる?
「お前、さっきからチョロチョロと邪魔なんだよ」
振り向くと、後ろにそれはそれは大きな筋骨隆々な男性。
どうやら後ろに立っていた大男に首根っこを掴まれて、持ち上げられてるようです。
‥‥‥君、本当に同い年?
「離せよ」
「どうせお前、事務クラスの人間だろ。国の為に命をかけて働こうって俺らと、同じ場所に居んじゃねぇ」
「うるさいな。事務クラスの何が悪い」
威勢よく啖呵を切ってみたが、持ち上げられている為、ブラブラと揺れてるだけです。
‥‥‥手が届かない。
「努力もしねえでここに居る、お前みたいな奴を見ると虫唾が走る」
俺は簡単に投げ飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「‥‥‥いてて」
はっきり言おう、俺の戦闘能力は限りなく低い。
恐らく、ここにいる人間の中で最弱と言っても過言ではないはずだ。
士官学校は1学年10クラスからなる構成で、1クラスだけ学業専門で入れる『事務クラス』というものが存在する。
卒業後、運が良ければ軍の参謀や王国の経理担当になれるらしい。
だが、そもそもこの国の軍隊は指揮官が作戦を練るため、俺たち文官の最高職『参謀』なんてお飾りでしかない。
通常クラスと違い『事務クラス』は、入学出来ても士官は約束されてないというおまけ付き。
この国は力こそ全てなのだ。
勉強なんて女々しい奴のする事。
暇があるなら身体を動かせ。
それがこの国の教え。
もう一度言うが、この国は力こそ全てなのだ。
「お前みたいなのがこの国を駄目にすんだよ。俺の前に2度とそのツラ見せんじゃねぇ」
国中から頭の良い人間が受験するため、定員の少ない『事務クラス』は通常のクラスよりもその門は遥かに狭い。
この大男が言うように、努力もせずに入れるような所ではないのだが‥‥‥。
「静かにしなさい!」
凛とした美しい声が響きわたった。
俺と大男が揉めた(一方的にやられただけなのだが)せいで、先程より騒がしくなっていた会場はその声で静まりかえる。
──声の主はマナ・グランド‥‥‥。
「貴方達は、国の為にここに集まったのではないのですか? もっと自覚を持ちなさい!」
その凛々しい顔と声に、新入生は規則正しく起立である。
──教師より威厳あんじゃね?
「では始めます。‥‥‥皆さん、入学おめでとう。ようこそ、モスグリーン王国士官学校へ」
先程と違い、優しい笑みを浮かべながら祝辞を語り出したマナ・グランドの美しい姿を皆固唾を飲んで見つめていた。
床からいそいそと立ち上がった俺も、在校生代表の歓迎の言葉を静かに聞くのだった。
「カイト、少し話がある」
入学式を終え、学園のある街から少し離れたのどかな農園地帯の家に帰った俺を呼び止めたのは、父親のナイト・バウディ。
「なんですか? 疲れたから少し眠りたいのですが‥‥‥」
「いいからそこに座りなさい」
渋々とリビングの椅子に座らされた。
──入学式で揉めたのがバレたか?
この細身のいかにも弱々しい父親は、何をどう頑張ったのか知らないが、王国騎士団に所属する騎士であった。
そう、最高の栄誉と言われる、王国勤めを勝ち取った一握りの勝ち組人間だったりする。
‥‥‥自他共に認める、騎士団の端くれの端くれという存在なのだが。
「‥‥‥カイト、お前はもう15歳になり、士官学校に入る歳になった」
「そうですね」
「わかるな? 背が低いとはいえ、もう大人の仲間入りだ」
「‥‥‥そうですね」
背が低いのは余計です。
「そこでだ、その‥‥‥そろそろ控えてはくれぬだろうか?」
‥‥‥凄く歯切れが悪く、言いにくそうにする父上。
だが俺には容易になんの話か理解できた。
「‥‥‥それ、父上から本人に言ってもらえませんか?」
「お前が当事者であろう。自分でなんとかしなさい」
「俺だって何度も止めてます。でもアイツは俺の言うことはまるで聞きません」
「もしお前が傷モノにでもしようもんなら、私のクビが飛ぶかもしれんのだ‥‥‥父を助けると思って強い気持ちで頼む!」
「父上ズルいです! 自分では何も言えないくせに!」
コトッ。
白熱する舌戦を制するように、そっとテーブルにティーカップを置いたお淑やかな女性。
母親のアイシャ・バウディだ。
「まあまあ貴方、若い2人に任せておきましょうよ」
我が母ながら笑顔の素敵な女性である。
「‥‥‥しかしだな、このままだとカイトが何かやらかさんとも‥‥‥」
髪をクシャクシャとかきあげる父上。
「それならそれでいいじゃないですか。その時はやっとあの
微笑む母上に、苦い顔の父上。
「それが不味いのだ‥‥‥シャーロット王子から求婚を受けているのだぞ‥‥‥」
「それも本人達の問題ですわね」
「‥‥‥相手は王子だぞ?!」
「なるようになりますわ」
ニコニコとする母上には父上では敵わない。
と言うか、父上は女性に対してかなり弱い。
それが自分の妻であっても例外ではないのだ。
「‥‥‥じゃあ俺は部屋に戻りますね」
「カイト、入学おめでとう! 後で皆んなでパーティーにしましょう」
「母上、ありがとうございます」
にこやかに笑う母上と、机に突っ伏す父上を残し俺は二階の自室へ向かうのだった。
「おかえりカイト。あなた入学早々喧嘩してんじゃないの」
部屋に入ると家族会議の原因が、俺のベッドでゴロゴロとしています。
「あれは向こうが絡んできたの。‥‥‥あと俺の部屋に勝手に入らないでくれる?」
「いいじゃない別に‥‥‥。まさか、見られると困るモノでもあるの?」
ニコニコと嬉しそうに笑みを浮かべる美女。
「‥‥‥そういう事じゃなくて」
「カイトも、とうとう男の子になったのね。今度、コッソリ家探しでもしてみようかしら」
「‥‥‥勘弁してください」
見られて困る物が部屋にない思春期の男性がいたら、是非教えて欲しいものだ。
「カイトは素直で可愛いわね。今日は大勢の前で話して凄く疲れちゃった。少し昼寝がしたいの、寝かしつけしてよ」
「やだ。俺も眠いからそこどいて」
「カイトも眠いなら一緒に寝ればいいじゃない。いいから早くおいで」
両手を広げて俺をベッドに誘う、2つ歳上の可愛い顔をした生意気な美女。
──マナ・グランド。
彼女がここ最近の俺の寝不足の原因でもあった。
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