エピローグ〜踏み入るは黄金〜

 オアシスでの休息を終えてから暫くして。

 俺らは、二度目の危険地帯に踏み込んでいた。


 度重なるイレギュラーで料理の隠密バフは切れてしまい、一度目よりエネミーの集まり具合は酷くなっていたが、レベルアップで得た基礎パラ上昇とPP振り、それと慣れでどうにかカバーしていた。


「掴まれ、飛ぶぞ!!」

「分かった……!!」


 数度目の黒の爆発によるダメージブーストで吹っ飛ばされた俺とシラユキは、夜の砂漠の空を高速で飛翔する。

 即座に左手に装備していた大盾を槍に切り替え、近くを飛んでいたヘルコンドルを槍で捕まえたところで地上を見下ろすと、予測落下地点から少し離れた場所に小さな峡谷があるのが見えた。


(あれが、終着点か……!)


 マップの位置。峡谷周辺にポツリポツリと見える野良プレイヤーの影。

 事前調査で調べておいたスクショからして間違いない。


 あの峡谷を超えた先に目的地——黄金楽園がある。


「シラユキ、もうすぐでゴールだ! ラストの着地頑張って耐えろよ!」

「うん……っ!」


 後ろで俺にしがみつくシラユキに叫び、最後の墜落に備える。

 そして、俺もシラユキもある程度の落下ダメージはあれど無事にやり過ごし、身代わりとなって瀕死になったデスコンドルを楽にさせてやれば、目標の峡谷は目前に迫っていた。


「……ようやく、ここまで来れたな」


 まだエリアの中だから気は抜けないが、プレイヤーの数が多いからか周辺のエネミーはグッと数を減らしている。

 このまま真っ直ぐ峡谷に向かって進めば、もうエネミーと戦闘になることはないだろう。


「と……シラユキ、立てるか?」

「……だ、大丈夫。ちょっとは慣れたから、なんとか動けるよ」

「よし、それじゃあ動くぞ。もう少しの辛抱だ」


 シラユキの手を掴み、引っ張り上げる。

 まだ両脚は若干震えているが、動けない程ではない。


 今度は痩せ我慢ではなく、本当にちょっとだけ耐性が付いたようだ。


 一応、周囲を警戒しつつもシラユキのペースに合わせて峡谷への移動を再開する。

 登場の仕方があれだったせいで近くにいたプレイヤー達からは変に注目を集めてしまっていたが、まあそこは気にしないでおくとしよう。


 こうなることはやる前から織り込み済みだったしな。


 それから何事もなく峡谷に辿り着き、幅二メートル程度の隙間へと入っていく。

 切り立った絶壁の間を進み、百メートル近く歩いたところで道が一段と狭くなる。


「わ……見て、ジンくん」

「……ああ、これはやべえな」


 狭まった部分は出口になっていて、奥からは眩いばかりの街の灯りが見える。

 ようやく峡谷を通り抜けた先に広がっていたのは、現実の都市の夜景さながらの豪華絢爛な輝きを放つ煌びやかな街並みだった。


 建物の殆どが地面と同じ黄砂岩で造られ、街全体を覆うライトアップも黄金に輝いている。


「なるほどな……確かにこれなら黄金楽園って名前もつくのも納得だ」


 きっと眠らない街っていうのは、こういうのを言うんだろうな。

 そんでここに、災禍の七獣の一体——宝君ほうくんエルドマムが潜んでいるかもしれないってわけか。


 けどまあ、攻略するつもりは更々無いけど。

 というか仮にやる気があっても、フラグも情報も無さすぎて挑めすらしないはずだ。


 そもそも必死こいて俺がここまでやって来たのは、金策の為だ。

 ここのカジノで一攫千金を掴んで、ライトとひだりが負担してくれたクランハウス代と聖女の回復アイテム代を稼ぐ。

 災禍関連に関しては……余力があれば調べてみる程度で良いだろう。


 色々とやることはあるが、ひとまずは——、


「一度、宿屋でNテレポのブクマしてからクランハウスに戻るとするか」

「そうだね。ひだりさんとライトさんに無事に到着できたって報告もしたいしね」

「んじゃ、とりあえず宿屋がどこにあるか調べねえと」


 マップを開き、宿屋のアイコンを探しながら歩き出す。


 ——あ、そうだ。


 けど、数歩進んですぐに一度足を止める。


「……ジンくん? どうかした」

「いや、大したことじゃねえけど。これで目標クリアって事ならやっとかなきゃって思ってな」


 さっきやったばっかだけど。


 一言付け加えて、俺はシラユキに向けて手を挙げ、


「GG」


 笑いかけながら言えば、シラユキもにこりと満面の笑みを浮かべてみせた。


「……うん、GG!」


 そして、本日二度目のハイタッチを交わしてから、気を取り直して黄金の街の中へと入ることにした。






 *     *     *






 黄金楽園の地下奥深くに建設された神殿の最深部。

 金の鏡が祀られた祭壇で、一人の女性が熱心に祈りを捧げていた。


 金の刺繍が入った黒いローブの下には、黄金の仮面が覗いていた。


 彼女が崇拝するのは、一匹の獣——地と黄を司る災禍の獣。


 誰も彼女の存在を知らない。

 しかし、彼女は知っている。


 ——この黄金と欲望に塗れた楽園の全てを。


 ふと、女性は祈りを中断する。


「……そうですか。来てしまいましたか」


 女性は頭上を見上げて呟く。


「彼の天魔の力を賜りし探索者が。まさか緋皇と絶龍のみならず、天魔の力を持つ者までここを嗅ぎつけて来るとは。——ですが、安心してください。もし、あの者達があなたを狙おうと、私があなたを……この黄金の地をお守りいたします」


 黄金の番人は、暗い闇の中から理想郷を追い求める者に牙を剥く。


 そう、たとえこの命に代えてでも——、


「——エルドマム様」




 第五の獣は、静かに待ち侘びる。

 安寧を——終焉を。




————————————

これにて「大砂漠踏破編」終了です。

本当は前章含めてここまでちゃちゃっと進めたかったのですが、変に長くなってしまって、章タイトルの変更+章の二分割をすることになってしまいました……()


次章こそちゃんと「宝君編」に入りますが、その前に幕間を挟むのと、プロット練るので数日更新止まるかもしれないです。

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