抵抗、脆くして

 空中に高く跳躍してからの飛び蹴り三連を全て紙一重で躱すと同時にカウンターの一撃を叩き込む。

 躱す、ぶん殴る、躱す、ぶった斬る、躱す、蹴り飛ばす。


 狂戦斧鳥が攻撃を繰り出す度、発動可能なアーツを放ち、そうじゃなくても空いている武器で攻撃を与えていく。


「おいおい、どうした!? さっきから動き鈍りきって一発も当てれてねえじゃねえか!! ノロマ!!」


 憤怒の投錨者でヘイトを強制的に俺に向けさせられている上に、一方的に殴られ続けていれば、例えそれがカスダメだったとしてもヘイトはより俺へと向けられる。

 その間にリキャストが完了した憤怒の投錨者を再度発動させ、狂戦斧鳥からのヘイトの高さを維持し、更にカウンターの機会を作り出す。


 そうやって奴が俺を倒そうと躍起になればなるほど、周りの奴らが比例して動きやすくなっていく。


「はあああああっ!!」

「おりゃあああっ!!」


 狂戦斧鳥の攻撃終わりのタイミングを狙って、背後から槍使いと双剣使いが息を合わせたコンビネーションでアーツを放ち、奴の両翼を傷つける。


「——脆魔呪ぜいまのまじない


 直後、みゆぴーがリスの使い魔と共に同じ術式を発動。

 灰色がかった暗い緑のエフェクトが二つ、狂戦斧鳥を包み込もうとする……が、エフェクトは即座に霧散する。


(チッ……また失敗か!)


 だが、直後——、


「アイス・トランスフィクス!!」

「リリジャス・レイ!!」


 立て続けに狂戦斧鳥の足元に発生した氷の杭が傷ついた両翼を串刺しにし、荒ぶる光の奔流が胸部を穿った。


「KIIiiieeaaaaaaaaarrrrrrr!!!」


 二つの術式のエフェクトが消え、後衛組にヘイトが向きかけるが、


「おい、何余所見しようとしてんだコラ!? テメエの相手は俺だろうが!!!」


 MP全ブッパ——盾で顔面を打ち上げ、闇属性の爆発を発生させる。

 視界を潰しつつ、無理矢理ブッ飛ばすことでヘイト上書きを中断させる。


「折角、仲良くなりかけてんのに、他の奴らに現を抜かすとか全く良い御身分だな。 ア”ァ”?」


 黒刀を一旦納刀してから、スプリングブースト+鏡影跳歩で一気に肉薄し、追い討ちの連続攻撃を浴びせる。


「もっと俺と遊ぼうぜ……なあ!!」


 居合抜刀によるホライズフラッシュを叩き込んだ後、リキャストが完了したアーツを手当たり次第にぶっ放しながら剣と盾と蹴りの乱舞をお見舞いする。

 数秒もしないうちに狂戦斧鳥は起き上がり、黒い魔力を撒き散らし、狂乱しながら俺に反撃を試みるも——、


(——それ、ループしてんぞ)


 タイミングを見計った槍使いと双剣使いが、またも背後から隙だらけの狂戦斧鳥にアーツを叩き込んだ。

 立て続けに後方から、氷の杭と極光が畳み掛けるように追撃を浴びせ、


「——脆魔呪!」


 灰色がかった暗い緑のエフェクトが狂戦斧鳥を包み込みこんだ。


 脆魔呪——この戦闘が始まってから何度も目にしてきた、対象のRESを低下させる中位術。

 一発目は簡単に成功していたが、二回目以降からガクッと成功率は下がるようになり、三回目以降からはマジで通らなくなっていた。


 しかし、みゆぴー自身とリスの使い魔二枚がかりでの数十にも渡るトライの末、ようやくエフェクトが蝕むように体内に吸い込まれていく。

 弱体化成功——これでリリジャス・レイがより威力を増すようになる。


「ナイスだ、みゆぴー!!」

「気になさらんな! じゃあ、少年。次は物理を下げていくから、引き続きタンクよろしく〜!」


 ほっと一息ついたのも束の間、みゆぴーは肩に乗せたリス使い魔と共に次の術式の構築を開始していた。


「ああ、任せされた! またデバフが通るまで幾らでも時間稼いでやるよ!」


 再度、憤怒の投錨者を発動——強制的にヘイトを俺に惹きつけ、リキャストが完了したばかりの守砕剛破をぶち込んだ。




 *     *     *




 ——最初はぶっちゃけ負け試合かと思ったけど、案外どうにかなるもんだねえ。


 オーバードエネミー”狂戦斧鳥”を対象にした術式を構築しながら、みゆぴーはしみじみと思う。


 プレイヤーの三大指針として謳われるアルカディアクエストの一角であり、突発的に起こることで有名なレイドバトル——オーバード討伐。

 これまで何度か居合わせて参加したことはあるが、その経験からはっきり言って、今回の参加メンバーは外れだった。


 レベルシンクによって上級職4〜50レベル並みに下げられたステータス。

 にも関わらず、脳死の突撃をかまし、即座に散っていった自身と同程度のレベル帯であろうプレイヤー三人組。

 加えて、仕様を知らずに一目散に逃亡を図ったせいで、なす術もなく倒されていった四人組のパーティー。


 恐らく、どちらもオーバード初遭遇だったのだろう。

 最上職になっても出会わない時は出会わないし、オーバードの三つ目の仕様を知らないプレイヤーは案外いたりする。


 だから戦闘開始一分足らずでメンバーが半壊した時点で、正直半分負けを覚悟していた。

 ——だが、予想は良い意味で裏切られた。


「だからそっち見てんじゃねえぞオラァ!! テメエの相手は俺だっつってんだろうがあ!!」


 狂気すら感じる獰猛さで狂戦斧鳥の攻撃を一手に引き受けている盾使いの武者——彼のおかげで、攻撃重視の陣形を組むことが出来ていた。


 少し戦っている様子を見ていれば分かる。

 他のプレイヤーと比べて、プレイヤースキルが桁外れに高い。


 多分、レベルシンク前の状態でPvPをしたとしても負けてしまうんじゃないか、そう思わされるほどにあのプレイヤーは間違いなく強い。

 ただ……、


「なあなあ、お嬢さん。少年って、いつもああなの?」

「そう……ですね。戦いに集中するとあんな風になってますね。そっちの方が実力が出るからって。なんというか……面白いですよね」


 言って、少女はくすりと笑ってみせた。


 ——面白い、か?


 疑問に浮かぶが、言葉にはしないでおく。

 なんというか、否定をするのは少女に悪い気がした。


(それよりも……気になることが何個かあるんだよなあ)


 ちらりと少年のと少女のを一瞥するも、


(——でもまあ、今はオーバードの討伐に集中しないとねえ)


 訊くなら、無事にこの場を切り抜けてからだ。

 そう思いながら、みゆぴーは次のデバフの術式を発動させるのだった。

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