点在する魔境越え

 赤熊と風蛇竜との戦闘から暫くして、下山兼鉱石の採掘がてらダイワから色々なことを教えてもらった。


 俺が100%RTAを投稿したことでJINMU界隈で起こった激震。

 俺の配信をモナカ以外の四天王も視聴していたこと。

 四天王同士の関係性、それと——俺に付けられた変な渾名について。


「——無名むみょうの配信主、か。カッコいいような、そうでもないような……」

「まあ、シュウさん周りの人達がジンムの事を分かりやすくする為に付けた名前だからな。オレも昨日、初めてその名前を知ったところだし」


 どうやらSyu-Taの身近にいる誰かが俺の常連リスナーだったらしく、ずっと前から俺の存在は認知していたらしい。

 つまり、前に悪樓撃破に向けたメンバー募集の記事をコミュニティに投稿していた事もばっちり把握していて、だからこそ初対面だったにも関わらずジンム配信主だと見抜かれていたわけだ。


(——にしても世間狭過ぎだろ)


 数少ないリスナーの一人が四天王の関係者で、もう一人は四天王本人とか誰も想像付かねえって。

 というか、じゃあ一体誰がSyu-Taの関係者になるんだ……?


 候補は限られているから、何となく察しはつくが——。


「そういや、ジンムのとこに……って、なんかその名前こそばゆいな」

「ぶっちゃけ言うと俺もだよ。なんでこのプレイヤーネームにしちまったんだか……」


 安直に決め過ぎた一週間前の自分に文句の一つでも言ってやりたいところだ。

 ……けどやっちまったもんは仕方ねえか。


「……で、今なんか言おうとしなかったか?」

「ああ。もしかしてだけどさ……ジンムのとこにMonica♪いたりする?」

「ぶっ!」


 吹き出してしまう。


「あ、その感じだとビンゴっぽいな。けど、一応本人に確認しとくか」


 言って、ダイワはメニューを開き、チャットアプリを起動させる。

 一応、四天王同士での親交はそれなりにあるらしいから、連絡を取ろうと思えばいつでも取ることが出来るとのことだ。


 メッセージを送信後、数十秒としないうちに俺とダイワそれぞれにメッセージが返ってくる。




Monica♪:ねえ、なんでぬしっちとヒーローが一緒にいるのさ!?




 ……疑ってたわけじゃないが、マジで知り合いの仲だったんだな。

 とりあえず偶然、とだけ返しとこう。


「ハッハッハ! やっぱそうだったか。全く、シュウさんもそれならそうとストレートに言ってくれよな」

「ん、Syu-Taになんか言われてたのか?」

「まあな。昨日、シュウさんが珍しくここを訪れてさ。もしかしたら近いうちに面白いプレイヤーが俺に会いに来るかもって言われてたんだよ。それと、四天王プラスαが全員出揃ったとも。その時に無名の配信主って名前を教えてもらったんだよ」

「ふーん、そういうことだったのか」


 アルクエ内でも会うことはあるんだな。

 ……ちょっと待て、今四天王全員って言わなかったか?


「なあ、ダイワ。ちょっと確認するけど、もしかしてMr.Deerもアルクエやってたりするの?」

「ああ。Deerさんもプレイヤーネームは違うけど、相変わらず元気にサバイバルやってるぜ。機会があれば大陸東部にある無人島に行ってみるといいさ。多分、すぐに会えるはずだから」


 あの人、ガチでいつものゲームとやってること変わってねえじゃん。

 となると……四天王の中で真面目にメインストーリーの攻略に取り組んでんのSyu-Ta……いや、Hide-Tだけじゃねえか。


「ちなみにプラスαの片方はジンムで、もう一人はKIDのことな」

「KID……KIDかあ。アイツもアルクエやってたのか」

「ああ。ちょっと前に始めて、今は大陸西部にあるコロッセオに入り浸ってるはず。あっちはプレイヤーネーム、カタカナでキッドだから一目見ればすぐに分かると思うぜ」


 なるほど、つまりKIDも攻略にはノータッチってことか。

 俺が言えたことじゃねえけど、JINMU勢自分の目的優先し過ぎだろ。


 なんて思ったところで、再度モナカからメッセージが届く。




Monica♪:今からぬしっちの所行くから、まだ帰らないでね!! ヒーローにも伝えといて!!




「……マジかよ」

「ん、どうかしたか?」

「今からモナカが……Monica♪がこっち来るらしい。だからまだ霊峰ここに残ってろ、だとよ。あとダイワもご指名な」

「ぶはっ! マジか、相変わらず行動力の化身だな!」


 言って、ダイワは腹を抱えて大笑いする。


「そうだな。アイツの決断力と行動力の高さは素直に尊敬出来るレベルだ」


 悪樓撃破のメンバー募集を見た当日に入手困難なはずのアルクエを入手しただけじゃなくて、速攻でパスビギン森林を抜けて俺と合流を果たしたくらいだしな。

 だとしても、流石にここまで来るのはキツいような気がするけど。


(……けどまあ、アイツならなんとかしちまうか)


「というか、多分クレオーノから来るから結構時間かかるだろうけどいいか?」

「応、大丈夫だ。俺もこっちのMonica♪がどんなのか気になってたところだしな」


 気持ちのいい笑顔でダイワは答えた。

 予感通り、モナカが裏ルートを潜り抜け来たのは、それから二時間後のことだった。




————————————

主人公含めJINMU勢アルカディアクエスト殆ど手を付けてない問題。

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