一度落ちて、上げるデータ

「なるほど、これが個人ルームか」


 適当に選んで入った部屋を見渡して、俺は小さく呟く。


 間取りはやや縦長の八畳といったところか。


 内装はダークブラウンの木床にブラウンの木壁。

 天井には照明として、シンプルな形状の吊りランプ。

 外と隔てる壁には採光用に大きめの窓が一つ設置されていた。


 勿論、家具はまだ何も置かれていない。

 これから俺が自分で考えてアイテムを配置していく必要がある。


「部屋は好きにして良いってことだけど、一から十まで自由だと逆にどうすりゃ良いのか分かんなくなるな」


 ま、後で追い追い考えていけばいいか。

 俺個人としては拠点さえ出来てしまえばそれで十分だし。


 内見はこれくらいにして部屋の外に戻ると、モナカが廊下で待機していた。


「ぬしっち、戻るの早いね」

「まあな。軽く見れればそれで十分だし」

「ふむふむ、ぬしっちもそういうタイプだったか。それでどうだった、個人部屋を見た感想は?」

「悪くない。センスある奴がガチればかなりいい部屋が作れるんじゃないか?」

「かもね〜。中にはインテリアガチ勢もいて、部屋紹介動画をメインに投稿している人気実況者もいるみたいだよ」

「マジか。……なんでもありだな、このゲーム」


 だからこそ爆発的人気を誇っている所以でもあるか。


 実際、アルカディアクエストには全く手を付けずに遊んでいるプレイヤーだってかなりいるしな。

 というか、全体的に見ればメインシナリオの攻略をガチでやってるプレイヤーの方が少ないだろう。


 全員が全員、戦闘が得意な訳でもフィールドワークが好きな訳でもない。

 それでも満足に遊べるということは、メインシナリオ以外のコンテンツも充実している証だと考えるべきだ。


「そういや、モナカは部屋の内装には手をつけたのか?」

「ううん、全く。ぶっちゃけセーブポイントとリスポーン地点を設定できればそれでいいから」

「お前……意外とそういうとこドライなんだな」

「人に見られない所にも力を入れてると疲れちゃうからね。長く配信を続けるにはほどほどに力を抜くことも大切なのじゃよ。フォッフォッフォ」

「急にどうした、その謎の博士キャラ」


 モナカ、もしかして私生活壊滅してるタイプか……?

 うん、十分に有り得るな。

 なんだかんだで俺と同類の人間だし。


 などと考えていると、モナカがジト目を向けてくる。


「ぬしっち、なんか失礼なこと考えてない〜?」

「気のせいだろ」


 しれっと答えると、そのタイミングでシラユキ達も各々個室から出てきた。


「あ、皆んな! 個人部屋はどうだった!?」


 すぐにモナカの意識が切り替わったのを横目に俺は、軽く胸を撫で下ろした。




 *     *     *




 誰がどの部屋を使うか割り当てた後、時間帯も夕飯時で丁度よかったのでパーティーは解散。

 全員、一度ログアウトすることにした。


 他は知らないが俺とシラユキは、なんだかんだで昼からぶっ通しでプレイし続けてたしな。


 たまにログアウトして休憩を挟まないと、リアルの身体がヤバい事になる。

 主に脱水症状と全身の凝り的な意味で。


 とりあえずベッドの側に置いておいたペットボトルで水分を摂り、軽くストレッチして全身をほぐしてからPCのスリープモードを解除する。


「さてと、エンコードはどうなってる……?」


 立ち上げるのは動画編集ソフトだ。

 午前中の配信を終えてからアルクエにログインする間に開始させておいた録画ファイルのエンコードの進行状況を確認する。


「……うん、ちゃんと終わってそうだな」


 これなら問題なくアップロードできそうだ。


 次に動画サイトを開き、作成のボタンをタップする。

 選ぶのは[動画をアップロード]——さっきエンコードしたファイルをドラッグ&ドロップして編集画面に移る。


「概要欄は適当にそれっぽいこと書いておいて……タイトルはどうするかな」


 まあ、ここは無難に[【RTA】JINMU 100%Glitchless 19:58:47.3【無編集】]——ってところか。

 サムネは自動生成されるやつでいいか。


「よし、後は動画サイト側の処理を待つだけか」


 なんだかんだで投稿するまで一週間かかっちまったな。

 ……いや、正確には丸々一年と言った方が正しいか。


 思えば、丁度去年の今頃に初めて100%カテゴリの開拓に取り掛かったもんな。

 こうして動画投稿まで漕ぎ着けたと考えると、感慨深いものがある。


 実質、俺がこのカテゴリの先駆者ということになるし。


「折角投稿するんだし、再生回数伸びればいいな」


 もしかしたらこの動画を見たことをきっかけに、俺の他に100%カテゴリを走ってくれる猛者変態が出てくるかもしれない。

 無いとは思うが、これでサクッと記録を越されでもしたらメンタルブレイクしそうだけど、そしたら血反吐撒き散らしてでもまた記録を塗り替えるだけだ。


「まあでも、こんな底辺チャンネルの動画が跳ねるわけもないか」


 それならそれでいいか、と思いながら俺は自室を後にするのだった。




————————————

ここまで来るのに30万文字かかりましたが、ようやくRTA動画の投稿まで来ることができました()

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