暫しの休息、父との遭遇

 長かったレベリングと素材集めを終え、ビアノスに戻る頃には既に陽が傾き始めていた。


 あわよくばもう少し早く完了しねえかな、なんて淡い期待を抱いていたが、やはり当初の予想通り夕方までかかってしまった。

 とはいえ、これも想定通りの進捗ではある。


 というわけで、休憩を挟むべく一旦パーティーは解散。

 俺も本日二度目の栄養補給を取るべくログアウトすることにした。


「つっても、なんか食えるもんあったかな。昨日の夕飯の残りは……今朝、全部食ったし、となると……カップ麺くらいしかねえか。けど一応、冷蔵庫の中は物色しとくか」


 まあ、どうせ大したもんは無いだろうけどな。

 なんて結論づけながら自室を出てリビングに移動すると、スーツ姿の男がえらく上機嫌な様子でビニール袋から何やらゲームのパッケージを取り出していた。


「あ、創志! 早いな、帰ってきてたのか」

「まあな、終業式で半日だけだったからな。つか、今朝そう言ったろ」

「おっと、そうだったな。すまんすまん」


 悪怯れることなく軽く謝るのは、蓮宗大輔――俺の父親だ。


 スーツの着こなしが雑だったり無精髭が生えてたりと少しガサツな所こそあるが、全身から見るからに善人オーラが漂っている。


 自分で言うことではないが、俺とは見た目も性格も正反対の印象を持たれることが多い。

 そのせいか並んでも親子に思われることは少ないが、俺がゲームを始めたのは親父の影響によるものだ。


 ちなみに母親とは姉弟と間違えられるほど似ていて、目つきの悪さだったりは完全に母親譲りだったりする。


「まあ、いいけど。……で、そう言う親父こそ帰ってくるの早えじゃん」

「おう! 今日は花金で新作ゲームの発売日だからな。早めに仕事を切り上げてきたんだ。そうだ、創志も後でやってみるか?」

「いや、いい。どうせ今回もハズレだろ」

「ははは、何を言ってるんだ。父さんの勘が正しければ絶対に面白いぞ、この『Fight of Eleven Ⅱ』は!」


 自信満々に親父が見せびらかしてきたパッケージは、俺の頭を抱えさせるには十分だった。


「前作こそちょびっとだけ残念な評価に終わってしまったが、今回は挽回してくれるはずだ」

「……やっぱクソゲーじゃねえか。どうせレビュー調べたら低評価の嵐になると思うぞ、それ。親父の勘は、ここ一番って時に限って最低乱数を引き当てるくらいNPCくらい信用ないんだし」

「まあまあ、そう言うなって。前作にはない新要素もあるっていうし、これは多分大丈夫だ。うん、多分!」

「それ親父が言うとフラグにしか聞こえねえからな」


 その根拠のない自信で、これまで幾つのクソゲーを発掘してきたと思ってんだ。


『Fight of Eleven』——VRサッカーゲームの金字塔ゲームに対抗するべく”激闘する超人サッカー”をキャッチコピーに発売された。

 だが、このゲームは本当に文字通り激闘してたというか激闘し過ぎた結果、最早サッカーではなくなったことである意味で有名になったクソゲーだ。


 何がヤバいって、オフサイドとかそこら辺のルールはちゃんとしてるのに、暴力行為に関してだけルールがガバガバというか無いも同然なせいで、試合内容が世紀末と化してるところだ。


Q.敵からボールを奪いたいです。どうすればいいですか?

A.相手をぶん殴って動けなくしてからボールを回収してください。複数人で取り囲んで一斉に襲い掛かればより効率的に仕留められますよ。

 手に汗握るエキサイトな攻防を是非!!


Q.ドリブルで敵陣に突っ込みたいです。何かコツはありますか?

A.ボールを奪いにきた奴は逆にボコして返り討ちにしてください。GKには直接蹴りをかまして動けなくしてから、シュートをすると安全にゴールを決められますよ!

 相手の頭に向かってキーック! そして、相手のゴールにシューート!!


 ――なんて頭のイカれた公式Q&Aに掲載されたせいで、全国のサッカー協会からガチのお怒りクレームを入れられる事態にもなったらしく、スポーツゲームなのに全年齢対象じゃないという意味が分からない問題作だ。

 一応、ゲーム内の全選手が架空のキャラだったから良かったけど、そうじゃなかったら発売中止は免れなかっただろうな。


 俺も興味本位で親父から借りてやってみたことはあるが、感想を簡潔に言うと、あれは断じてサッカーゲームなんかじゃねえ。

 勝敗が点数制(特殊勝利条件あり)ってだけのただの格ゲーもどきだ。


 何戦か試合をやるうちに気づいたことだが、負傷退場やらで選手の数が不足して試合続行が不可能になった場合、人数が不足した側が自動的に敗北となる。

 そのせいで一番手っ取り早い勝ち方が試合開始速攻でボールを奪ったら、試合が続行できなくなるまで敵側の選手をボコして負傷退場させるというスポーツマンシップの欠片もないものになってしまっていた。


 元々親父が買ってきたものだから、そんなに期待していなかった……いや、ある意味期待通りの内容ではあったか。


 何にせよ、あれをやってるとサッカーというスポーツがよく分からなくなりそうだったから、借りたその日以来、俺はそのゲームには触れていない。

 まあ、トーナメントモードがあったから、最後にそいつをタイム測ってクリアはしたんだけど。


 当時のことを半ば懐かしみ、半ば呆れている途中でふと気づく。


「……ってことは、今日の夕飯は出前か」

「お、察しがいいな。これからピザでも頼もうかと思ってたところだ。夕飯にするにはちょっと早いが創志の分も注文しておくか?」

「ああ、頼む。俺もちょうど何か食おうとしてたところだし」


 念の為、何か食い物がないか冷蔵庫の中を確認するも、入っていたのはストックしたエナドリが数本のみ。

 なので、親父が開いているARフォンの画面を見せてもらい、注文するメニューを選ぶことにした。




————————————

主人公の家族構成は父、母、息子の三人家族です。

基本、母親が出張で家を空けがちなので、普段の家事は父親がやってます。

とはいえ、父親も家事がそんなに得意なわけではないので、デリバリーで食事を済ますことも少なくないです。

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