一狩り挟んで

 思いもよらぬ形でモナカとの合流を果たしてから少しして。

 ネクテージ渓谷で軽いレベリングとして、とりあえず視界に入った雑魚敵に対して片っ端から戦闘を仕掛けていた。


 間違って呪獣転侵が発動してしまわぬよう、リキャストが終わり次第、アーツをぶっ放して速攻でエネミーを撃破しながら俺は、ふと気づいたことをモナカに訊ねる。


「——そういや、なんで俺だって分かったんだ? ジンムって名前のプレイヤーイコール俺とは限らないだろ」

「それはね……森のエリアでぬしっちが仲間の人と一緒にボスを周回しているのを見かけてたからだよ。名前が一致してたし、戦闘中の動きが荒々しいっていうか、明らかに素人離れしてたから一目で分かったよ」

「あー、そういうことか。じゃあ、なんでその時に声掛けなかったんだ?」

「その時はあたしも絶賛レベリング中だったからねー。ぬしっちたちのところに行くなら、それなりに力をつけてからにしたかったってだけ。プライベートの垢だけど、どうせなら頼りになるところを見せたいじゃん?」


 そう言ってモナカは、モデル顔負けのウィンクを見せると、構えたクロスボウから矢を放ち、上空を飛行中のヴァルチャーの群れを次々と撃ち抜いた。


 頭か心臓を撃ち抜かれた奴はそのままポリゴンと散り、翼をやられた奴はそのまま地面に真っ逆さまに落ちていく。


 うっわ、マジかよ。

 アーツスキルなしでこの命中精度とか、エイム力化け物か……いや、化け物だったわ。


 でもまあ、モナカの実力を考えればおかしくはねえか。


「流石、プロストリーマー。常に人から見られるところを意識してんだな」

「まあね〜。それがお仕事なわけですから。一応、キミもストリーマーなんだから、そこら辺は意識しないとダメだぞ〜。じゃないと、再生数も登録者も増えないし」

「うぐっ……それ今マジで気にしているところだから、あまり突かないでくれ」


 今日それで実際に精神的なクリダメ喰らってるし。


 撃ち落とされたヴァルチャーを盾でぶん殴ってとどめの一撃を叩き込みつつ、近くにいたキロトードの群れを次の標的に定める。


 もうとっくにデスペナは解けてるから聖黒銀の槍で戦ってもいいけど、それじゃあワンパンで片付いて味気ないからアイアンソードのままにしている。

 ……つっても、アイアンソードですらワンパンゲーになりかけてるけど。


 いっそのこと、ダガーで戦うか……やっぱ面倒だから止めておこう。


「まあ、いいや。それで、いざレベルを上げ終わってボス戦に入ろうとしたら、もう俺らの姿は無かったってわけか」

「そんなとこ。細かく言うと、ボスに挑んだタイミングでキミたちがいなくなった、が正しいかな」

「……あの時の挑戦者ってモナカだったのか」


 そういえば帰り際、ボスフロアに障壁が張られてたな。

 つーことは、ガチで綺麗に入れ違いになってたのか。


「だったら少し待っておけば良かったな……って言いたいところだけど、あの時は生憎連れがどっちもアバター疲労起こしちまったからなあ」

「あ、やっぱりそうだったんだ。ぬしっちがおんぶしてた女の子ちょっとしんどそうだったから。それにしてもアバター疲労かあ。てことは、どっちも初心者だったりするの?」

「ああ、俺が背負ってたのが始めてから三週間で、もう片方が二日目。まだ粗はあるけど、どっちも見込みはある」

「ふーむ、なるる〜……って、ええっ、二日目!? あのブーメランの人、始めてまだ二日目なの!?」


 俺がパワーキックでぶっ飛ばしたキロトードの脳天を撃ち抜きながら、モナカは赤い瞳を大きく見開いた。


「信じがたいことにな。しかも、二日ってアルクエをじゃなくて、VRゲー自体を始めてからの日数だぜ。おまけに二時間かけてだけど、あのボスをソロで撃破していると来た。話だけ聞くと、なんかキッド七位籠手使いみを感じねえか?」


 プロゲーマー”KID”。

 奴が初めてランキングに入ってきた時、JINMURTA界隈が軽く騒ついたのは今でもよく覚えている。


 まさかRTAどころかVRゲー自体始めて間もない初心者が、ちゃんと最後まで走り切ったんだからな。

 しかもその一ヶ月後には、大幅にタイムを縮めてランキングを七位にまで上げるっていうおまけ付きだ。


 正直、俺の中で一番の天才プレイヤーはキッド一択だったが、クァール教官の周回を通して、朧もその領域に足を踏み入れるじゃねえかって予感が強くなっている。

 つっても、朧がそこまでVRゲーにのめり込めばの話だけど。


「ん〜……言われてみれば、なんか分かるかも。もしかしてブーメランの彼って、リアルでも超人だったりする?」

「さあな。けど趣味がパルクールっつってたから、常人よりはバリバリ動けるはず。そこもキッドと似てるところなんだよな」


 キッドに関しては、運動できるって評価で片付けて良いかは微妙なとこだけど。


「それはそうと、JINMUと比べてこっちの敵の強さはどうよ?」

「通常の敵はちょっと物足りないけど、ボスはHPが多くて、戦い甲斐もあって結構良きだよ!」


 背後から襲ってきたウルフに回し蹴りを叩き込み、ナイフで喉元を掻っ切りながら、モナカは答える。


「けど、あたし的には全体的に敵をもっと強くしてもいいかなあ。ちなみに、ぬしっちはどう思ってるの?」

「……まあ、俺も似たような感じだ。けど、意外とこっちアルクエでもあっちJINMUと同じくらいの強さの奴と戦えはするぞ。偶然ではあるけど、始めた初日にJINMUに出てくるレベルの敵と遭遇したしな」


 基本行動と初見殺しの凶悪さ、どちらを見たとしても、災禍の眷属の強さは、確実にJINMUに出現するボスに匹敵する。

 低レベル攻略だったから少しバイアスがかかってるのは否めないが、それでも攻略難易度はクァール教官よりも間違いなく蝕呪の黒山羊の方が上回っていた。


「ぬしっちいいなー! あたしも戦ってみたーい!」

「やってればそのうち会えると思うぞ。つーか、明日戦おうとしてる奴がその類だからな……っと!」


 トリプルスラッシャーで残ったキロトードを撃破し、ついでに近くに湧いたローパーをシールドバッシュで沈めたところで武器を納める。

 話しながら倒しまくっているうちに敵が再出現しなくなっていたからだ。


 どうやら、今倒したローパーが最後の一体だったようだった。


「地上と空中、どっちも速攻で狩り尽くせばそうなるか」


 バトルリザルトを横目に、一息つきながらメニューを開いて時刻を確認する。


 まだ日付を跨いだばかり……ライトとひだりと合流するまでもう少し時間がありそうだな。

 折角、ネクテージ渓谷に来たわけだし、モナカにもあいつを見せておくか。


「——よし、戦闘も一段落ついたしボスフロア行こうぜ。そこに明日、戦う予定の奴がいるから」

「りょりょりょまる!」




————————————

二人が戦っている場面に遭遇した一般プレイヤーは静かに思った。

なんでこの人達は、世間話をしながら敵を殲滅できてるんだろう、と。


リアル運動神経化け物でVR適正が超絶高い人がVRゲーをガチにやり始めたら、それはもうヤバいです、ええ。

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