第11話「おいおいマジかよカレーじゃねぇか!?」
アルナさんに行くべき場所を聞いた後、意気揚々と《警益局》を出たは良いがカザミは直ぐに難所にぶつかっていた、
「よく考えたら、《食事処:ティラスト》って何処だよ・・・」
当たり前だ、アルナさんに聞いたのは場所だけ、行き方すらまともに聞かなかった、どうしよう、このままだと依頼者待たせて必死に店を探しまくる羽目になる、それは不味いもし依頼をドタキャンしたと思われたら、色々とこの世界での俺の経歴に傷が付く、それは何としても避けなければ!、
「キュウ?」
「お、いつの間にフードに、まあいいか、モチ・・・お前は食事処の場所知ってる?」
「キュゥ~・・・」
「だよなぁ」
喋った訳ではないが何と無くモチが「わかるか」って言った気がした、カザミが《警益局》の前で途方に暮れていると、突然声を掛けられた、
「おーい!、オメェは確か、カザミか?こんなとこで何やってんだ」
見知った声、そしてこの僅かに賊染みた様な柄の悪い口調これは正に・・
「ルーさん・・・」
声の方向を見れば《警益局》について教えてくれた張本人、ルー・ウラードがこちらを見て歩いて来ていた、
「どうした?こんな目の前で突っ立って、なんかあったのか?」
「ルーさん・・頼む、助けてください!、どうか!、ルーさんルー様ルー
カザミはあまりに早口且つ大きめの声を出しながら頭をさげ、手を合わせながら勢い良く頼み込む、然し、当の本人は頭を
「いや、カザミお前、急にどうした?、別に俺ぁ出来る事ならまあ共に酒を飲んだ
流石はルーさん、必死に頼めば急だとしても、訳を聞こうとしてくれる兄貴肌、カザミは顔上げると安堵と安心感に満ちた顔をして、ルーに今までの出来事を伝える、警益局に登録したこと、依頼を始めて受けた事、その依頼者との会合場所が分からず途方に暮れている事、全てを伝えるとルーは腕を組み少し考え、言った、
「お前は、あれか?節穴かなんかなのか?」
「え?」
キョトンとしたカザミを横目に「ん」と顎で来るまでの道を示す、カザミがルーの示した方向を目を凝らしてよく見る、見たのは警益局に来るまでの道、T字路を曲がる直前の場所、そこに、
「あ、」
あった、てか確かに、ルーさんはそもそも言ってくれていたのだ、俺が迷わないように食事処を通り過ぎてすぐのT字路を曲がれと、俺が行こうとしてたの、あの食事処だったのか、
「お前、大丈夫か?長旅かなんかで疲れてるんじゃないか?、てか、もし今俺に会えなかったらどうするつもりだったんだよ・・・」
「えーっと、死ぬ気で国中駆け回ってやろうかと・・」
「・・・お前、それは死ぬ気じゃねぇ、死ぬだ、この国の広さ分かって言ってんのか?」
ルーの言葉が痛く刺さる、そりゃあそうだ、広大なこの国を駆け回り一軒の食事処を見つけるなど至難の業だ、道も知らずに駆け回ったところで疲れて倒れるだけだろう、
「そっすね、すみません、」
「まあ、目的の場所は見つかったんだ、とっとと行ってやれ、依頼者が待ってんぞ、」
ルーは軽く笑いそう言う、カザミはそれに礼を言うとそのまま、急いで《食事処:ティラスト》へ走った、食事処の扉の前に着き一息を入れ、扉を開ける、
「いらっしゃいませ!」
中からは店員の女性がそう言って出迎える、現代にもあるアンティーク調の店内、何と無く元の世界を感じる懐かしい親しみ深く感じる、
「あのアルカナという名前の人が先に入店してませんか?」
「はい!アルカナ様でしたらあそこの席に、今は少々トイレで席を外しておりますが、お連れ様ですか?」
「いや、アルカナという人の依頼を受けた《警益局》の登録者です、」
そう言うと女性は納得し、先に示したアルカナのいた四人用席に案内した、カザミはそのまま言われるままに席に座り、テーブルに置かれたメニューを眺めて暇をつぶしてみる。
五分程経っただろうか不意に誰もいなかったはずの隣から声をかけられた、
「おい、お前が依頼を受けてくれた人か?」
カザミが声の方向へ向くと小さい小学生位の少女が立っていた、大人ぶろうとしているのか分らんが腕を腰に当ていたずらな笑みを浮かべている、
「・・・子供?」
「子供じゃない!!、リリーだ!よく覚えておけ!根暗男!!」
なんつう失礼な子供だ。てか、リリー?確か依頼者の名前ってリグじゃないのか?
「えーっと、君、じゃなくてリリーちゃんは、リグって人のこと知ってる?」
「リグ?兄貴の事か?兄貴ならトイレ行ってるぞ、」
兄貴、つまりこの子は妹って事か、まあじゃあ、待っていれば依頼者も来るだろうしのんびり待つとするか。
カザミはリリーの言葉を受けそう考えるながら、窓の外を眺める、
「なあなあ、お前が依頼を受けた奴なのかの問いに答えて貰ってないぞ、根暗男、」
この子供、勝手に根暗と決めつけやがって、何かムカつく。
カザミは若干怒りを覚えながらも子供のことだと受け流し、リリーの問いに答える、
「そうだよー、僕が依頼を引き受けた者だよ、あと、僕は根暗男じゃなくて、ちゃんと
なるべく笑顔を崩さないように意識しながらカザミはリリーに注意する、然し、リリーはカザミを意に介さずとんがり口にして言う、
「別に根暗男なのは変わらないではないか、だがまあお前が依頼者なのはよく分かった褒めてやる」
こんのガキゃあ、人が下手でりゃ息巻きやがって、落ち着け、落ち着け俺、たかが子供の言葉だ、そこまで熱くなる必要ないじゃないか。
カザミはそうして冷静さを取り戻していると、席の後ろの方からリリーを呼ぶ声がした、
「コラ!リリー、何処に行ったかと思えば、此処に居たのか・・・って────」
魔法使いの様なローブに魔女らしい帽子を被った長い髪の女性?にも見えるが、リリーを知っている様子からしてコイツが兄か?
カザミがそう考察していると、カザミに気付いた魔法使いの格好の女性?は、あたふたと焦りながら頭を下げ始めた、
「あ!!、どうも、今回依頼を受けてくれた方ですよね?、自己紹介が遅れました、僕がリグ・アルカナと言います!、そしてこっちが、妹のリリー・アルカナです、」
声といい、容姿といい、第一印象だけで見たら完全に女性だ、そんな事をカザミが考えていると、そんなリグに頭を撫でられている、リリーがドヤ顔をしながら言う、
「ふふーん、兄貴は星聖国軍:魔導師法術大隊:隊長なんだぞ、恐れ入ったか!!」
何故か隣にいる兄よりも誇らしげにリグのことを話すリリーに、リグはとても焦った様に肩を掴み、向かい合った形になりながら小声になってリリーに言う、無論カザミは位置が近すぎる為全部駄々聞こえだが、
「ちょっと!、それは、外で言っちゃダメな機密事項!!前にも言ったでしょ!!お兄ちゃんの秘密だから言っちゃダメだよって!!」
「あれ?そうだっけ?ごめんごめん兄貴ぃ、」
全部駄々洩れな秘密の会話をしている2人をカザミはのんびり眺めながら思った。
このお兄さん、大変そうだなぁ。
今の会話を聞いていても、わかる、リリーの圧倒的問題児感からしてこの兄は、常日頃悩まされているんだろうとカザミはなんとなく同情した。
リグは話が終わったのか一度リリーを連れて向かいの席に座ると胸に手を当て「ふぅー、」と息を吐いた、勿論リグは男である為胸とは言っても胸板の事である、
「えっと、それでは一度気を取り直して、もう一度自己紹介からやり直してもいいでしょうか?」
気まずげな顔でリグはそう言う、カザミは内心で大変だなぁこの人っと同情の目を送りながら「いいですよ」ともう一度テイク2を始める許可を出した、
「ありがとうございます・・・それでは改めまして、僕はリグ・アルカナ、そしてこちらが妹のリリー・アルカナと申します、それで、引き受けて頂いた貴方の名前もお聞かせいただけないでしょうか?」
そうしてリグはカザミにも自己紹介を促す、カザミはその流れに任すままに名乗った、
「僕は
今日のリグという依頼者からの依頼、内容は確か護衛だ、
「はい、えっと、僕らはこれから星聖国外れにある、国営ダンジョンに向かうんです、理由がえっと、
「
「はい、年に一度その年に亡くなった人達の魂が
それで、まだ魂もこの世に残っている今のうちに生前、母が好きだった宵闇の花を見せてあげたいと思いまして、」
なるほどな、親思いの良い兄妹じゃないか、カザミはリグの話を聞いてより護衛の任務をしっかり果たすという決意をしている中、リリーがリグに言う、
「兄貴、その話もいいけどお腹空いたぞ、ご飯~!!」
先程とは打って変わって子供らしく駄々をこねるリリーを見てリグは苦笑いをすると、「取り敢えずご飯にしましょうか、」とカザミの反応を伺う、カザミも朝飯を食べておらず、空腹だった為、リグの意見に賛成すると、のんびりとした食事の流れが始まった、
「それでは、報酬の内容に記入した通りここでのホウライさんの食事費用はこちら側で負担させて頂きます、お好きなメニューを頼んでください!」
リグはそう言ってくれるが、俺自身、この国の郷土料理などをよく知らない、どうせだったらこの国ならではの定番料理などを食べてみたいのだが・・・
「あの、この国の郷土料理とかって何ですか?」
「ここの郷土料理ですか?、でしたらこれなんてどうでしょう、」
リグは身を軽く乗り出し、カザミの前にあるメニュー表の上に書かれていた料理を指さす、
そこには異世界語で《ラア麦のパロッタ》と書かれていた、
ラア麦はルーさんが話をしている中で都度都度出てきていた単語だ、だがパロッタってなんだ?
「おおー、ホウライ、パロッタ食うのか?、ならあたしもそれにするぞ!!」
リリーもテーブルに身を乗り出しそう言う。コイツ、リグさんに𠮟られるのが怖くてしっかりホウライって言ったな・・・
「じゃあ、リグさんオススメのそのパロッタというのでお願いします、」
「分かりました、では僕らも同じのを、」
リグは「すいませーん」と店員に声を掛けると《ラア麦のパロッタ》を三つ注文した、注文もおわりひと時の静寂が訪れそうになったその時、
「キュ?」
パーカーのフードからモチが顔を出しカザミの頭の上に乗った、カザミは起きたのか程度に頭の上の小さな獣を撫でるが、どうやら向かいの二人にはそれどころではないらしい、
「
「え、うそ、本当に、
リリーは元気に目を輝かせ、リグは女子の様に口を手で覆ってふにゃふにゃになっている、リリーはモチを爛々と輝く目で見続けている、
「・・・触りたいのか?」
「いいのか!?」
「ああ、まあ、余り強く握ったりすると苦しいだろうから優しく持ってやれよ?」
そう注意事項を伝えてカザミは頭から手に飛び移らせたモチをそのままリリーに渡そうとする、モチは最初は警戒してリリーの手を凝視していたが安全だと分かったのか手に乗っかると、リリーの身体をクルクルと這い回り始めた、
「ちょ!!はっはっは!くすぐったいぞ、あっはっはっは!!」
どうやら大丈夫な相手なのか匂いを嗅いで調べてるらしい、一通り這い回り終わると、リリーの頭の上に移動し、丸まって座った、
「コイツ、名前あるのか?」
「ああ、いつもモチって言ってるぞ、」
「モチか、イイ名前だな!!モチ!」
「キュウ?」
モチは名前を褒められながらなされるがままにリリーに撫でられている、どうやら嫌でもないようだ、時々リリーの頭の上で器用にバランスを取りながら足で頭を搔いている、リリーがそれを微笑ましく見ていると、丁度ご飯がやって来た、
「お待たせしました、《ラア麦のパロッタ》三つ分でございます、注文は以上でよろしいですか?」
「はいありがとうございます」
リグが店員に一言伝えているうちにリリーはさっさとスプーンを取り出し食事に手を付けようとしていた、
「これは、、、!!」
「これがラア麦のパロッタですよ、美味しいので食べてみて下さい、」
リグがそう言って一口食べてみるよう奨める中、カザミはただ一人この料理を昔何処かで食べた事があると思いながら、それが何なのか、記憶の中を探している、
鼻に刺さるスパイスの香り、ツブツブモチモチしていそうな炊かれたラア麦、その上に掛かる黒いドロッとしたルー状の液体、中には白っぽい種子類のスパイスや、星型の根菜類と動物の肉類が入っている、そうこれは正に、
「「「カレーじゃねぇか!?!?!?」」」
「ふえ!?か、かれー?」
「うぇ!?ゲッホ!!ゴッホ!!」
リグが驚き、リリーがびっくりした拍子にむせる中、心の底からの声でカザミはそう叫んだ。
そして、周りがカザミの声で固まる中、付属のスプーンで一口掬い、口に運ぶ、やはりカレーだ、カレーライスだ、モチモチとしたラア麦が米の様で上に掛かるパロッタはほのかに香ばしく黒カレーに近い、なるほど、つまりルーさんが飲んでいたラア麦の醸造酒とは言わば日本酒に近いものだったのだ、そしてこの口に入った瞬間鼻を突き抜けるスパイスの香り、感動的だ、まさか異世界でカレーが食べられるとは・・・
そうしてカザミがカレーの味わいに感動で涙ながらに味わいながらパロッタを食べていると、リグが話し掛けてきた、
「あの、ホウライさん、かれーって何ですか?」
「カレーが何かだと?!」
そう食い気味に言ってカザミは食べ掛けの自分のパロッタを指さす、
「それは、パロッタですよ?」
「いやそうなんですけど!!、そうなんですけど!!、これがカレーなんですよ!!僕の故郷ではカレーって言ってたんですよ!!」
「は、はぁ、なるほど、」
リグは押し切られながら納得すると、パロッタに口を付ける、
「モチお前も食べるか?なんてな、これはちょっとピリッとしてるからモチは食べれないか、」
「キュゥ・・・」
リリーはパロッタを食べて満足気な顔をしながらモチにそんな事を話している、モチは少しだけ残念そうだ、
「そういえばリグさん、パロッタの由来なんですか?」
なんとなく気になった疑問をリグに聞く、リグも特に気にすること無く答える、
「パロッタというのは建国以前、この地域に住んでいた先住民族達の言葉で夜空を表す言葉なんですよ、つまり、ラア麦の夜空って事になりますね!、」
ラア麦の夜空ってなんだそれ、まあ確かにこの白い粒のスパイス、星のようにパロッタ全体に散らされている。パロッタ・・・殆どカレーだけど俺でも作れないだろうか、
「リグさん、パロッタの具材と作り方って分かります?」
リグは食べながら質問を聞き頷く、
「ええ、我が家でも母が生きていた頃は、よく作っていましたから、」
「本当ですか!」
「必要な材料は、スパイス類:キルパット・アルダルコ・ラームメック・ジェンツポカ・ルムルト・バーラッカパウダー・ユルグラ・グルーペッパー・
「・・・・なるほど・」
全く知らない食材ばかりだ、スパイスって言う総合的な香辛料の名称は変わらなくとも、中身は本当に別物だ、こうなると、食材とか諸々に関する辞典的な物も買って探しとかないと、
「作り方は、溶かしたバターとウル麦子を混ぜた物に、全スパイスを炒り混ぜた粉末を入れてよく混ぜ、そこに炒めた
はきはきと楽しそうに話すリグの言葉を聞きながら思った。
案外、食材諸々の名前は違えど作り方自体は余り変わらないな、これだったら作れそうだ、
「丁寧に教えて頂きありがとうございます」
「いえ、こんなことでよろしいのでしたら全然いいですよ、」
そんな、カザミの礼と謙遜しているリグを見ていたリリーがリグに少し退屈そうに言う、
「なあ兄貴ぃ、そろそろ行こうよぉ、」
「ああ、そうだね、」
いつの間にか食べ終わっていたリリーの言葉に頷いたリグはカザミの方へ向き直る、
「ホウライさんも、ご準備大丈夫ですか?」
「ええ、いつでも構いませんよ、」
カザミがそう答えて立ち上がると、リリーもぱあっと明るい顔をして元気よく立ち上がり頭に乗っていたモチは「キュア!?」とビックリした拍子に急いでカザミのフードに飛び込んだ、
「よし行くぞお前達!!リリー隊出動だ!!」
「すみません!、いつもこんな感じで・・」
食事処の出口を指してノリノリなリリーと、それを聞いて顔を赤くしながらリグは謝り、何とも言えない雰囲気帯びながら、カザミにとって初のダンジョン探索が始まった。
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