悲劇の魔女、フィーネ 27(残虐シーン有)

「フィ…フィーネ…」


フィーネは悲しげな顔で俺を見つめているように見えた。そしてその口はゆっくり動く。


『さ よ な ら』


そう…はっきりと語っていた。


「さよなら…さよならだって…?!」


そしてそこで3枚目のSDカードの再生は終わってしまった。残る最後の1枚…。一体このカードには何の映像が残されているんだ…?


俺の全身から冷や汗が流れ落ちる。


今の俺はフィーネと過ごした記憶を取り戻していた。彼女との会話、抱いた時の彼女の肌の温もり…その全てを鮮明に思い出すことが出来る。


2人でアドラー城跡地へ行き、目にした禍々しい城。


彼女の発言にカッとなり、再度車の中で抱こうとした時に激しい眠気に襲われたこと…。

そして目覚めれば城は跡形もなく消え去り、あの場所は禍々しい気配がすべて消え失せいていた―。


俺は必至で頭を働かせた。


「あの場所から不気味な気配が消えたと言う事は…怨霊が消え去ったのだろう。では何故、怨霊は消えた?それは…自分たちの恨みを晴らす事が出来たから…?」


さよならと告げて消えてしまったフィーネ。

だとしたら…。


駄目だ…この…最後のSDカードは絶対に見てはいけない…。

俺の中で激しく警鐘が鳴っている。


だが…。


震える手でSDカードを挿入し…俺は再生させた―。



****


動画の中のフィーネは1人、闇に覆われたアドラー城へと入っていく。そして彼女が足を踏み入れた途端…ゾンビのような姿をした怨霊たちがフィーネの前に現れた。

そのゾンビの中心には変わり果てた姿のジークハルトとフィーネの叔父、そして叔母にヘルマの姿があった。


 そして彼らは驚くべき速さでフィーネに駆け寄ってくると、いきなりジークハルトがフィーネの右腕に嚙みつき、喰いちぎったのだ。


音声は記録されていないが、痛みで彼女が悲鳴を上げている。


「フィーネッ!!」


叫ばずにはいられなかった。


血しぶきをあげて倒れこむ彼女をさらに叔父が襲ってきた。彼はフィーネの左腕を食いちぎる。


フィーネは痛みで悲鳴を上げ続けているのが映像に映し出されている。


「や…やめろぉーっ!!」


無駄とは知りつつ、俺は叫んだ。しかし、映像の中の彼らは容赦がない。彼らは身動き出来ないフィーネをガツガツと喰らい始めたのだ。

そしてフィーネは涙を流しながら叫び続けている。


…同じだ…。


彼らはフィーネを自分たちと同じ目に遭わせているのだ。…どんなに痛くても出血しても死ねないように…。


「やめろ…頼むから…やめてくれ…もう…十分だろう…?」


俺はいつしか泣きながら懇願していた。


今や映像の中のフィーネは生首だけになっていた。にも関わらず、彼女はボロボロ泣きながら痛みで叫び続けている。


そして…ついに怨霊はフィーネの顔に喰らいついた。


「!!」


もう、そこから先は…見るに堪えなかった。俺は視線をそらし…フィーネの最期を見届ける事が出来なかった―。




****


 その日の夜―


 俺は昔の夢を見た。まだ、フィーネが魔女になる前の…ただのフィーネ・アドラーだった頃の夢を…。


そんな彼女に恋い焦がれるかつての自分を。


そして夢の中の彼女は言う。


『ユリアン、貴方を愛しているわ』


と―。




****



「お客様、本日でお帰りになるのですね」


501号室の鍵をフロントに返すと、ホテルマンが声を掛けてきた。


「ええ、今までお世話になりました」


「それで、アドラー城について取材は終わったのですか?」


「ええ、終わりましたよ」


「何か新たな情報がありましたか?」


「…」


フロントマンの言葉に一瞬、思考が止まる。


「その反応…何かあったのですね?」


妙にワクワクした様子でホテルマンが尋ねてくる。そこで俺は言った。


「いいえ、何も無かったですよ。ただ、あんな素敵なロケーションは観光地として開発すべきだと思いました。ただ、それだけですよ。それでは失礼します」


「え…?あ、ありがとうございました」


俺はホテルマンの声を背中に聞きながら、ホテルを後にした。



今、俺は飛行機に乗っていた。

飛行機は高度を上げ、やがてアドラー城跡地が見えてきた。


…もう二度と、この国に来ることは無いだろう…。


フィーネ…。もう一度、生まれ変われたら今度こそ君と添い遂げたい…。


そして、俺は目を閉じた―。













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