昔酷いことをした姉はやっぱり今も酷かった。

江戸川ばた散歩

1 荒らされた店 

「店長大変です!」


 ある朝、私が自分の店に出勤すると、店員のマリアが真っ青な顔をして飛び出してきた。


「どうしたっていうの?」

「ああもう、すみません私どうしていいのか」

「だから落ち着いて」

「ええと、ともかく、こっちへ」


 いつものように裏口から入ってきた私に、マリアは黙って私の手を引っ張ると表のショウウインドウの前まで引っ張っていった。


「!」 


 何ってこと。

 ショウウインドウは叩き壊され、中のものが滅茶苦茶になっていた。

 ガラスの破片が道に散らばっている。


「……店長…… ゾーヤ様、一体どう致しましょう……」

「ともかく警察に連絡を」


 はい、とマリアは慌てて最寄りの出張所へと駆け込んでいった。

 まあ、この分だとそのうち周囲の店や家からも野次馬が湧いてくるだろう。

 とりあえず「ガラス注意」の貼り紙をつけたロープを張っておかなくてはな、と思った。



 私の店は、服飾小物を扱っている。

 大きくはない。

 扱っているものも、女学校の生徒の普段用のリボン、小さなアクセサリー、コサージュ用のレースリボンやチュールといった素材、部屋に置く飾り物、ガラスの造花、飾りピンといった様な小さなものが様々。

 やってくるお客は街の様々な階層の、様々な年齢の女性。

 お値段は素材によって。

 お客様のご予算と用途に合ったものをおすすめする。

 高価なものをそのまま使うことができる方にはそのままで。

 宝石にしてもジャンクを効果的に沢山使うことで、安上がりでも豪奢なものに見せることができる。

 お金は無い。

 でも一つ、素敵なものが欲しい。

 誰にでもそんなものが手に入る様に。 少女の頃からそんな店を出したかったのだ。

 男爵家の老嬢の道楽、と言われても仕方がない。

 そう、私、ゾーヤ・エリチェクは現在三十近い独身の男爵令嬢だ。

 両親――特に父は幾度も結婚を勧めてきたが、私の断固とした拒絶と男嫌いに母と兄が味方してくれて、現在何とかここまでやってこれている。

 店の最初の資金は母が援助してくれた。

 それから五年。

 最初の資金は既に返している。

 その上で、私は何とかこの店を切り盛りしていた。

 私にとってはそこでお客様と接している時が何よりの楽しみなのだ。

 男爵令嬢としての肩書きも時々は利用する。

 売り込みのためだ。

 そんな、大口と、店の小口のお客様両方で収支を合わせつつ、楽しくやっていた。

 なのに。

 ウインドウだけではない。

 お客様に分かり易くみせるために自由に歩くことができる通路に置いたガラスケースは真上から叩き割られ。

 壁に並べた小さなきらきらしたプローチや髪留めは振り払われ落とされ踏みつけられ。


「それだけじゃないんです!」


 マリアは半泣きで私を倉庫部屋へと連れていった。

 そちらには鍵のかかった小さな金庫が置いてある。

 街の庶民の女性達には外に出してあるだけでもいいのだが、時々私の友人や、その紹介でやってくる貴族の女性も居る。

 その方々にはさすがにジャンク宝石では失礼なので、それ相応のものを見本として用意している。

 時にはそれらを持ってご自宅までうかがうこともある。

 その金庫の扉が無理矢理壊され、中身が空になっている。


「……何ってこと!」

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