蝶は羽ばたいていた。

その羽ばたきが、やがて竜巻に変わることなど知る由もなく。

竜巻は巻き起こった。

何処からともなく、小さな羽ばたきを寄せ集めて。

竜巻はなぎ倒した。

何処から何処までも、小さな街の隅から隅までも。

竜巻は奪い去った。

何処か遠くの場所へ、分け隔て無く命を連れて行った。

女は泣いていた。

失ったモノを、思い出になったモノを見て涙を流した。

男は怒っていた。

失ったモノを、消し去った存在を求めて怒りを飲み込んでいた。

子供は呆けていた。

失ったモノを、帰って来ない事など理解すらできず立ち尽くしていた。

蝶は羽ばたいていた。

その羽ばたきが、やがて不幸に変わることを願いながら。

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