第二十一話 『誕生日を祝おう④』
俺が風呂から上がった後は、高瀬さんと母さんのテンションが高かったり、父さんが隅っこでいじけていたりして若干カオス気味だったのだが、結局俺が風呂に入っている間何を話していたのかは教えてくれなかった。
そしてそこからは、母さんが張り切りすぎて料理を作りすぎて男二人俺と父さんで死ぬ気で食べたりしたことはあったが、特段目立ったことは起きず気づいたら8時を過ぎていた。
「魅依ちゃんはそろそろ帰らなくて大丈夫?」
「……そうですね。大変惜しい気持ちはありますが、帰宅した方が良い時間になってしまいまし」
「……うぷっ、大輔、彼女を、送ってきなさい」
「そうね〜こんな夜道を女の子一人で歩かせるなんて〜大輔ならしないわよね〜?」
「……わかってる。高瀬さ」
「(ニコッ)」
「魅依さん…を送っていくよ」
さりげなく苗字呼びでも大丈夫かなって思ったけど普通にバレましたねはい。
名前呼び、やっぱり続けないとダメなんですね。
「ふふ、ではお願いしましょうか」
それに比べて高瀬さんは機嫌が良さそうで…嫌ってわけじゃないんだがどうしても恥ずかしさが勝ってしまうんだよなぁ…
二人で玄関に移動し、外に出る。
5月のこの時間帯は流石にまだ暑いなんてことはなく、さっきまでのパーティーで盛り上がっていた俺たちにとっては涼しいくらいだった。
「行きましょうか…魅依さん」
「はい、大輔くん」
二人とも特に会話はなく、かと言って気まずい空気感ではなくむしろどちらかと言えば居心地の良い、互いに言葉にしなくとも通じ合っているような、不思議な感覚だった。
今日は色々なことがあった。
朝からお腹を崩してしまったり、ショッピングモールについたと思ったら高瀬さんがナンパされていて、そのDQNから助けるために高瀬さんを俺の彼女だと言ってしまったり、高瀬さんから悪魔の二択を迫られたし。
挙げ句の果てには互いに名前呼びまでするようになってしまった。
本当に心が休まる時がなかったが、かと言って不快に思ったことは一度もなかった。
むしろ高瀬さんと丸一日いられて、本当に楽しかったし、可愛い高瀬さんも見ることができて何というか眼福だったというかご馳走様でした。
……ていうのは冗談、ていうわけではないのだが、それでも一生の記憶になるようなそんな一日だった。
お互いに無言ながらも心地よい空気が続く中、それでも永遠というものはないように、この状態も終わりを告げた。
「……着いちゃいましたね」
「……そうっすね」
以前最初に彼女と出会い、助け、そして今の関係が始まった最初の日。
高瀬さんの家にくるのは、その時に彼女を送るために来た時以来だ。
そうして、あの日と同じように互いに向き合い…
「魅依さんのおかげで、今日一日本当に楽しかったです。何て言えばいいのかよく分かってないけど、俺と仲良くしてくれてありがとうございました!」
「いえいえ。こちらの方こそ、大輔くんと丸一日いられてとても幸せでした。それと…」
「…え?」
「渡すタイミングがなかったのですが、今なら渡せますよね?」
その手には小さな、けどしっかり梱包された高級そうな箱。
中身は、腕時計だった。
「こ、これ、いくらしたんですか…?」
「プレゼントはお金をあまりかける必要は無く気持ちが重要だ、と以前マスターに言われたのでそんなに高価なものではありませんよ。普段使いできるように、かと言って安すぎないようにしっかりと選びました」
「そんな、俺は別に、今日一日一緒にいられただけで嬉しくて…」
「いいえ、それはプレゼントではないのですが…もし気遅れするのであれば、今日のお礼だと思ってください」
「お礼?」
俺、今日何か高瀬さんから感謝されるようなことしたか?
いやむしろ感謝するべきなのは俺の方なんだが…
「ショッピングモールで、私をナンパから助けてくれた、それにもっと言えば今日一日、私の我儘に付き合ってくれたじゃないですか」
「え、いや、そんな…」
「大輔くんは自己評価が低すぎます。もっと自信を持って下さい!」
「……」
俺は、そんなに褒められるべき人ではないのに…
「今はまだ自信を持てないかもしれません。だから、これからも一緒に頑張りましょう?」
「え?」
これからも…?
「そう、これからもです。二人で頑張っていけば、何とかなりますよ!」
「……」
「もし自信を持てたなら…その時は」
「その時は…?」
「……いえ、何でもありませんよ。ではそろそろお別れです。気を付けて帰って下さいね?」
「……はい。分かりました」
「ふふ、大輔くん。また学校で会いましょう。あと、連絡もして下さいね!」
「ぜ、善処します」
え、俺からメッセージ送るの?
マジで?無理じゃね?
「では大輔くんさようなら!」
「…さようなら、魅依さん」
そうして高瀬さんは家に入っていった。
スマホを確認すると、そろそろ夜の9時になろうとしていた。
今日一日で疲れていて、いつも早めに眠気が来るのに、何故か今、俺は全く眠くなかった。
「…帰るか」
その声に応えるものは誰もいなかった。
「……なあ母さん。今時の女子というのはあんなにグイグイ来るものなのだろうか?」
「恋する女子の勢いなんて〜今も昔も変わってないわよ〜?」
「そうか……そうか?」
「そうよ〜?私がそうだったもの〜」
「……そういえばそうだったな。君は」
「ふふ〜」
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