第三百八十六話 マカレーナの我が家へ帰る

 朝、目覚めると身体のあちこちでモゾモゾしている。

 ああ…… ルナちゃんか。

 私より早起きしていた彼女が、布団の中で匂いを嗅いだりペロペロとしているのだ。

 これはいくら何でもねえ……


「お、おはよう……」

「――モゴモゴ おはようございます。うふふっ」

「朝から頑張るねえ……」

「だって、マヤ様と二人きりでゆっくり出来るのはしばらくお預けでしょう? マヤ様成分をしっかり吸収しておかなくっちゃ」

「マヤ様成分……」


 結局、今朝もいたしてしまった。

 ヒノモトの国へはルナちゃんを連れて行けないので、求められたら受けなければいけないだろう。

 フローラちゃんが来る前に済ませ、さっさと着替える。

 着替え終わった後一分もしないうちに、見計らったようにフローラちゃんが朝食の時間だと呼びに来た。

 まさかドアの外で待っていたのではあるまいな。


 ---


 朝食を済ませた後、私は女王の執務室へ呼び出された。

 女王は昨日話をすると言っていたのに、エスカランテ家でゆっくりし過ぎてすっぽかしていた。

 その後もルナちゃんとしっぽりしていたし……

 怒られないだろうか―― ブルブル

 執務室にある女王のデスク前に立つと、女王は私を見てニヤニヤしながらこう言う。


「あらマヤさん。ゆうべはゆっくりとお楽しみだったわね」

「え? ああ…… まあ…… はい」


 まさか…… ルナちゃんとのアレを知ってるのか?

 最中に部屋の前の廊下を通りがかっていたら、有り得ないことではない。

 そしてたまたま声が大きかったときだったら…… うわああ。

 そんなに声が廊下まで漏れやすいのか?

 ああ、私が女王の部屋でその世話をしているときも、シルビアさんがドアの外で一人慰めていた時があった。

 執事デスクにいるロシータちゃんと、先に呼ばれて私の横にいヴェロニカの顔をチラッと見ると、何のことだかわからない様子で気にも留めていないようだ。

 ああ、良かった……


「まあいいわ。皇帝イヅモノミカドへの親書はもうヴェロニカに渡してあるから。それから貢ぎ物を飛行機の横へ置いてあるから、それを積んでおいてね」

「その貢ぎ物の内容は?」

「向こうで採れないイスパルの食材が主かしらね。あと服や下着もあるわ。後で自分の目で見て確認してちょうだい」

「わかりました」


 ああ良かった…… 怒られずに済んだ。他の二人がいるせいかもしれないが。

 それから、女王よりヒノモトの国について詳しい説明があった。

 王宮図書館でも文献が無かったので、マカレーナへ帰ってローサさんに聞くしかなかったところだった。


 ――ヒノモト国の概要。イスパルと同じ立憲君主制。人口は一千万人足らず。

 海に囲まれた島国で東西二千キロに及ぶ長い列島になっており、ほとんどが山間部を占めている。

 気候は温暖だが北部はかなり寒い。

 言語体系がイスパルやエトワールと全く違うヒノモト語。

 人の見た目はほぼ私と同じような黒髪で、肌の色もだいたい同じ。

 着ている物は男女ともイスパルのローブのようなもの。多分着物だろうな。

 魔力を持っている人が人口のだいたい二割でイスパル人の倍くらいの割合。

 私たちが使っている魔法とは互換性が無い呪術のようなものを使う。

 家屋は木造ばかり。移動は徒歩または馬車か牛車が中心。

 主食は米で、野菜が多く肉は鶏が中心。酒は米か芋で作った物。


 ――なるほどね。ほぼ日本なんだけれど、女王の話を聞いているだけではどの時代に当たるのかわからないが、文化レベルは平安時代から江戸時代なのか。

 実際自分の目で見てみないとわからないな。

 言語については、エリカさんに頼んでローサさんの頭脳からヒノモト語を抽出して変換する魔法を掛けてもらう。

 ローサさんが使うヒノモト語は聞いたことが無かったけれど、自力で習得したそうだからすごいよな。

 今回は正式な国交を結ぶための準備として、ヴェロニカ王女をおさとした使節団としておもむくことになる。

 使節団といっても決定しているのはヴェロニカ、ローサさん、私だけの三人しかいないが、飛行機にたくさんの荷物を積むのであと二、三人が限界だろう。


「そういうわけで、頑張って行ってきてね。皇帝イヅモノミカドはちょっと気難しいと聞いているけれど、もしヴェロニカの手に余るようであればあなたがサポートしなさい」

「はい、承知しました。――で、ヴェロニカは自信があるの?」

「知らん。その時はその時だ」

「ええ……」


 不安になってきたな。皇帝と面会するときはヴェロニカと付きっきりにしよう。

 皇帝の人物像は他に情報が無くて、若いのか年寄りなのかもわからない。

 気難しいのなら、年寄りと想定しておこう。


---


 出発前に、さっき女王から言われた貢ぎ物の確認と積み込み。

 飛行機の横にはいくつもの木箱が整然と積んであった。

 これ全部積めるのか?

 うーん…… 私たちの着替えなどを入れたら、本当にギリギリかも知れない。

 どれ。手前の一つを開けて見よう。

 ――オレンジがいっぱい入っている。ヒノモトにも柑橘類があるだろうけれど、この品種はイスパルにしかないので、お土産にはきっと喜ばれるだろう。

 ――こっちの箱は服か。男性上下スーツにYシャツが何セットか。

 文明開化になりそうだな。

 ――もう一つは女性ものの衣服。

 胸が大きくカットされていない大人しめなドレスや、ブラウスなどが入っていた。

 となると、さっき女王は下着も入ってるって言っていたから……

 この箱―― わっ 全部ぱんつとブラ。私のロベルタ・ロサリタブランドばかりではないか。

 ふんどしショーツはウケそうだけれど、Tバックなんか履いてくれるのか?

 しかもこんな透け透けを。

 別の箱は男物の下着がいっぱい。トランクス、ノーマルのブリーフ、ボクサーブリーフ、Tバックもある。さすがに象さんぱんつみたいなジョーク系は無かった。

 この選定、きっと女王がロレナさんに頼んで見繕ったものだろう。

 そのまま皇帝のところまでこれを持って行くべきか、情報が足りないので向こうでいろいろ聞いてみないことには、かえって失礼になるかも知れないからな。

 他の箱はマカレーナへ帰ってから検品しよう。

 私は荷物をグラヴィティで持ち上げて、どんどんと積み込んだ。


---


 出発。私とヴェロニカの見送りは特にないが、モニカちゃんが王宮から発(た)つのでフローラちゃんとロシータちゃんが来ていた。

 ヴェロニカはさっさと飛行機に乗り込んでドカッと座っている。

 特に不機嫌というわけではなく、普段はこのスタイルである。


「モニカちゃん、向こうでも頑張ってねっ」

「ううっ モニカ…… 元気でね」

「ロシータったら、泣くほどのことじゃないってば。またマヤ様が連れて来てくれるってさ」


 と、モニカちゃんはメソメソと泣いているロシータちゃんを抱いてヨシヨシしていた。

 根は良い子なんだよね。

 女の子同士の仲良しってイイよな。男同士じゃこうベタベタしないし。

 ルナちゃんもその横でジワッともらい泣きをしていた。


「じゃあ、名残惜しいところだけれどそろそろ出発しようか」

「はーい!」

「フローラちゃん! ロシータちゃん! またね!」


 お別れは寂しいけれど、モニカちゃんにとっては新天地へ行くことが楽しみで仕方が無いのだろう。

 ルナちゃん共々、笑って元気よく二人へ手を振っていた。


---


 順調に巡航し、お昼前にはマカレーナの我が家へ到着した。

 積み込んだ貢ぎ物は一旦外へ出して、飛行機を点検に出すため後でラウテンバッハへ持って行く。

 三日ぐらいで点検が終わり、それからヒノモトの国へ向かうのだ。


 ジュリアさんたちへモニカちゃんを紹介するため、ルナちゃんが彼女を厨房へ連れて行った。

 食事をする前に、パティには大事な報告がある。

 飛行機着陸で出迎えてくれた後、パティの部屋へ一緒に行く。

 パティがお茶を入れてくれたので、一息ついてから話した。


「で、大事な話なんだけれど……」

「はい。何でしょう?」

「ルナちゃんとも結婚することにしたんだよ」

「――まあ。おめでとうございます!」


 パティはびっくりする様子もなく、笑顔で祝いの言葉を述べた。

 呆れられるか、ちょっと怒られるかと思っていたが。


「――ありがとう。あまり驚かないんだね」

「ルナさんがマヤ様と結婚なさることは予想していましたからね。と言いますか、ここで一緒に住んでいるとマヤ様以外の男性と結婚しようという気が起きませんよ」

「ええっ!? それは買いかぶりすぎでは? 買い物で街へ出掛ければ男性がたくさんいるし、もしかしたら彼女たちの気が変わってしまうんじゃないかと震えているんだけど」

「いいですかマヤ様。女は強く優しい男性にかれるんです。マヤ様ほどの男性が他に、どこにおりましょう」

「強いはともかく、そんなに優しいかなあ?」

「私だけでなく、皆さんにも気配りなさっていることは知っていますよ。マヤ様と接しているときはみんな自然と笑顔になっているじゃないですか。うふふっ」

「そ、そうかあ。ハッハッハッ」


 気配りはしているつもりだったけれど、パティがそう見てくれるのであれば頑張った甲斐があったものだ。

 まあ、食べ物に釣られてしまう女の子も多いから楽ではあるか。

 ベッドのほうは、ヒノモトへ出掛ける前にエリカさんとジュリアさん、可能であればビビアナとガルシア家のエルミラさんもケアをしておきたい。

 分身君よ。三日間、忙しくなるぞ。



(ルナ視点)


 モニカちゃんをみんなに紹介するため、我が家の厨房へやって来ました。

 もうお昼前になっちゃったから、忙しいかなあ。


「ただいまみんな!」

「おー、ルナおかえりニャ!」

「おかえりなさいルナちゃん」

「おかえり、ルナさん」

「あらっ ルナさんおかえりなさい」


 厨房では、ビビアナちゃん、ジュリアさん、マルヤッタさん、セシリア様が調理をしている最中でした。

 うーん、イイ匂いがするぅ。

 今日のお昼はソパ・デ・アホ(ニンニクスープ)だ!

 私の大好物なんだよなー!


「ん? ルナ。誰だニャそニョ女は?」

「彼女はモニカちゃん。私と同じで、王宮からマヤ様の従者として転職したんだよ」

「皆さん! よろしくお願いしまあす!」


 モニカちゃんはペコリと頭を下げて挨拶をしました。

 この子は明るい性格だから、みんなも受け入れやすそう。


「あてしビビアナにゃ!」

「わ、わたスはジュリアでスっ」

『マルヤッタです。エルフ族です』

「ラミレス侯爵家の長女、セシリア・ラミレスです」


 みんなが挨拶を終えると、モニカちゃんは目をキラキラさせています。

 そんなに嬉しいのかな?


「ふぉぉぉ! さすがマヤ様! 個性的な女の子が揃ってるなあ」

「マヤさんは魔族でも何でも手当たり次第だからニャー ニャッハッハッ」

「ああ…… ビビアナちゃん…… でも本当のことでスよね……」


 マヤ様がそれを聞いたらちょっと凹むかもね。ぷぷぷっ


「あたし、耳族の女の子と話すの初めて! しっぽモフモフじゃーん!」

「ギニャー! なんだニャこの女! まるでエリカみたいだニャ!」

「ああっ モニカちゃんってエリカ様と仲良しなんだよ」

「うぉっふっふっ 気持ち良いしっぽー!」


 モニカちゃん、ビビアナちゃんのしっぽをほっぺたにスリスリしてる。

 ビビアナちゃんが寝てるときに私もやったことあるよ。

 寝てても動くから面白いだよねー


「ビビアナちゃん、もうモニカさんと仲良しなんでスね。うふふっ」

『ジュリアさん、そろそろお腹がすいたのです』

「わかりまスた。さっ 準備をしましょう。ルナさんたちは着いたばかりだからお疲れでしょう。先に私たちの食堂へ行ってて下さい」

「「はーい!」」


 ジュリアさんは優しーい!

 先に食べさせてくれるみたい。ニンニクスープが楽しみだなあ。



(マヤ視点)


 今晩はエリカさんのケアをしてあげないとねー

 彼女の部屋がある地下室へ向かうと――

 ドア向こうから何か声が聞こえる。珍しいな……

 そっと開けて見るか。


「ぁ…… ィィ…… エリカさまぁ……」

「モニカちゃん…… ここ、すごく美味しい…… いいわっ もっとっ」


 ど、どひぇぇぇぇっぇ!

 ベッドで裸になってる二人!

 エリカさんが上、モニカちゃんが下になってウロボロスの輪になってるぅぅ!

 夢中になっててエリカさんは私の魔力に気づいていないようだ。

 仲間に入ってみたいけれど、久しぶりの再会プレイだからここは野暮ってものだ。

 今晩はジュリアさんの相手をしようかな。むふふっ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る