第六話 ガルシア侯爵家
夕食の時間になった。
夕食と言ってもすっかり暗くなり、午後八時くらいだろうか。
時間が少し遅いのはこの国の習慣らしい。
毎日の夕食は屋敷のダイニングルームで侯爵家の家族皆が集まるように決まっており、そこへ私も招待された。
食卓にはガルシア侯爵、アマリアさん、パティ。
それから応接室にはいなかった、貴族のドレスを着ていて赤子を抱いた若い女性が一人。
もう一人、乳母に抱かれた小さな子もいる。
あとフェルナンドさんとおばちゃんメイドさん三人が脇に並んでいる。
最初に出迎えてくれたスサナさんたち二人は不在で、別の役割のようだ。
「紹介しよう。
私の第二夫人のローサと息子のアベル、もう一人アマリアの息子はカルロス。
ローサ、彼がパティ達の命の恩人、マヤ・モーリ殿だ」
「初めまして。マヤ・モーリです。よろしくお願いします」
「ローサです。こちらこそよろしくお願いします」
ひえぇぇ、この国って一夫多妻制なの?
ローサさんは二十代前半くらいで、色が濃いめの金髪にくせ毛のボブヘアー。
吸い込まれそうな美しい碧い瞳だ。
姿こそ高貴だが、どこか貴族らしからぬ初々しさがあって親しみやすそう。
アマリアさんのようにドレスから胸の谷間がぱっくり覗いていて、恐らくFカップだろうか。
ガルシア侯爵は巨乳好きなんだなあ。
アマリアさんの息子が二歳くらい、ローサさんの息子は一歳くらいかな。
息子になっておっぱいを吸ってみたい。
私の隣の席にいるパティが小声で話す。
「この国の貴族は一夫多妻制が認められているのですよ。
マヤ様は平民のようですが、このまま住んで国や地域に多大な貢献したことが認められれば爵位が頂けることもあるんです。
マヤ様ならきっと偉業を成し遂げて貴族になれますわ。うふふ」
パティがまた意味深げな言いようをしている。
確かにサリ様から頂いたであろう力で何か出来るかも知れないが、大して強くもない魔物を幾らか倒しただけでは不透明だ。
私にお嫁さんが出来るとでも?
この世界に来たばかりだから誰と結婚するのも想像出来ないが、まさかパティと……
いやいや、中身五十歳のおっさん相手に十二歳の娘だと抵抗がある。
アマリアさんですら、私から見たらピチピチギャルみたいなものだからなあ。
メイドのスサナさんみたいな女の子がお嫁さんになってくれたら嬉しい。むふふ
この世界に住むことになるなら食事の内容を心配していたが、スペイン料理に近くてとても美味しく、日本人の私の口でも合う物が多い。
スペイン風オムレツのトルティージャ、アヒージョ、ガスパチョなど日本でもよく食べられていて私も知っているメニューがあった。
スペイン風コロッケのクロケッタ、生ハムがとても気に入った。
侯爵家にしては意外に庶民的なメニューもいくつかあるが、クロケッタは侯爵の好物らしく今日もうまいと言いニコニコしながら食べていた。
ふぅ…… かなりお腹が空いていたので、調子に乗って食べ過ぎてしまった。
四十代になってから食が細くなっていたので、こんなに食べたのは久しぶりだ。
侯爵にビールを飲まされてしまい、よく考えたら五十歳から十八歳に戻った身体が酒に慣れているはずもなく、目が回りふらふらになってしまった。
いろいろあって疲れたし、今晩は早めに休ませてもらおう。
ちなみにこの国では十八歳から飲酒が可能らしい。
「いやー、久しぶりにとても楽しい食事が出来たよ。
何だか急に息子が出来た気分になった!
では今晩ゆっくり休んでくれたまえ。ハッハッハッ」
「はい…… ありがとうございます……」
そう言いながらガルシア侯爵はダイニングルームを退出し、その後に続いてアマリアさんとローサさんたちがニコッと会釈をして退出していった。
「もう…… お父様がお酒をたくさん勧められるからだいぶん酔われましたね。
係にお部屋を準備させていますから、早めにお休み下さいませ」
「ありがとう、パティ。お世話になるよ」
残ったのは私たち二人と片付けのメイドさんだけ。
係が来るまでパティがしばらく付き添ってくれた。
優しい子なんだなあ。
しばらくすると係のおばちゃんメイドさんがやってきて、パティも一緒にダイニングルームを退出した。
「それではマヤ様、おやすみなさいませ。
また明日の朝お会いしましょう」
「おやすみ、パティ」
パティに挨拶をして分かれた後、おばちゃんに案内してもらったのが来客用の十二畳くらいある広い部屋だ。
ベッドは一人で寝るのは寂しいくらいのキングサイズで、とても良い部屋だというのは一目瞭然である。
ベッドのシーツもホテルのようにきちんと張ってある。
お風呂は無いがトイレと洗面室はあった。
基本的に交通が馬車なのに、水道が整っているのは思っていたより先進的な世界だ。
顔が火照り、酔いはまだ覚めない。
私はふらっとベッドに寝転がると、疲れもあったのかいつの間にか眠っていた。
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翌朝、早めに寝たのでかなり早く起きてしまった。
明るくなるまでベッドに寝転びながら今後のことについていろいろ考えてみた。
まだこの世界のことについてわからないことだらけだし、私の身体がどうなっているのかもわからない。
まずこの世界の知識を得るために、マカレーナにしばらく滞在してみるか……
朝食の時間になり、食卓では再びガルシア家の皆と食事を共にする。
内容は意外に軽いもので、トーストとサラダだけだった。
一応客扱いらしいが、こうも親身にされると恐縮してしまう。
パティはこの後学校へ登校する。十二歳だから当然だろう。
なんと秀才飛び級で、本来十八歳で卒業のところ今年にはもう卒業だそうだ。
卒業後はキャリアを積むために侯爵の仕事を手伝うことになっているとのこと。
そうだ。侯爵に私の今後のことをお話しなければ。
「閣下、今後のことについて考えがまとまりました」
「ふむ、聞こうか」
「私はまだこの国のことについてよく知りませんし、私自身の力もよくわかっておりません。
それを知るためにもしばらくの間、少なくとも何ヶ月かはこの街に滞在したいと思っております。
魔物が増えていることなので、討伐業もさせてもらえますか?」
「あい分かった。
好きなだけこの屋敷に滞在するといいだろう。
討伐はスサナたちと同じく私の直属兵としてやってもらおうかな。
もちろん別に給金は出すぞ」
「ありがとうございます、閣下。お言葉に甘えてお世話になります」
「その後はどうするのかな?」
「ある方に告げられた目的を成し遂げるために、また旅に出るつもりです」
それを聞いたパティが、少し悲しい顔をした。
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