第3章

第107話 帝国からの刺客! 西方第一騎士団と豪水の聖騎士!! ~煽り散らかすならエルミナさんに任せとけ!!~

 突如として侵攻して来た帝国軍。

 だが、起因となり得る種はすでに撒かれていたとジオ・バッテルグリフは言う。


 帝国の中枢部は腐敗しており、権力者たちが自己の安寧のために政治を私物化している状態がもう数十年続いている事実。

 発端はここである。


 工業都市・バーリッシュは帝国領の中でも重要拠点の1つ。

 そこの領主を任されていたボンスケル・ヒデブラス。

 なにゆえあのような愚物が領主を拝命し、長らく圧政を強いていたにも関わらず、帝国はそれを見過ごしていたのか。


 領主が無能であればあるほど、重要拠点を御しやすいからであった。


 そこに降って湧いたのが、キノコ男を自称する正体不明の人物と、その一団。

 榎木武光が事あるごとに「キノコ男がこれより帝国に向けて反逆します」と吹聴して来た成果もあり、当初は帝国の上層部も「その訳の分からん男を潰せ」と水面下で暗躍するに留まっていた。


 だが、ラジルーニ地方が一体感を増していき、挙句、魔族や亜人とも手を取り合って1つの連邦共和国のような形を成し始めた事が、帝国上層部を刺激する。

 彼らはその中心にある、バーリッシュの調査に入った。


 すると、代理総督に本来は帝国の権利のために存在する聖騎士が就任している事が発覚し、さらにもう1人聖騎士が加担している事もすぐに露見する。

 こうなると、いよいよ帝国としてもバーリッシュ、およびラジルーニ地方を捨て置くことはできない。


 万が一にでも1地方が反逆を企てたならば、現在の政治体制に不満を抱く地域が呼応して、大規模な反乱軍が生まれてしまうのではないかと言う結論に至るのは、そう難しい事ではなかった。


 少し考えれば、バーリッシュを攻める事で「窮鼠が猫を嚙む」事態が起きる可能性にもたどり着くはずなのだが、そこにすら思い至れない点。

 帝国の腐敗が極まっている事の証明でもあった。


 と、色々な情報を並べ立ててみたは良いものの、とどのつまり、現在の状況はシンプル。


 急に攻めて来た帝国軍と事を構えるか。

 それとも無条件降伏をして、帝国の裁きを享受するか。


 既に答えが出ているものを議論する事ほど時間の浪費はないかと思われた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 監視塔にジオを残して、エルミナ団は地上に降りたのち、速やかに外壁に2か所ある門へと手分けをして向かった。

 帝国軍が侵攻してきている北門には、榎木武光とソフィア、リンとエルミナが。

 南門にはルーナとステラ、そしてエリーがそれぞれ馬車を走らせる。


 同時に、ガッテンミュラーの指揮で西方第六騎士団も二手に分かれて北と南に移動を開始した。

 武光は「同じ騎士団で事を荒立てると皆様の立場が危うくなりますので、ここはご自重ください」と申し出たが、クムシソ・ガッテンミュラー団長以下、全ての兵がそれを拒否する。


 彼らにはラジルーニ地方への愛着が生まれており、正義の心は胸の奥で熱を持って燃えているらしく、「我らが従うのは、ジオ総督とエノキ殿です」と言って、勇敢な若者たちは敬礼をした。


 「そのお心意気を否定するのは、失礼に当たりますね」と言った武光に、ガッテンミュラーは「ご配慮に感謝します!」と言って、ニッと笑った。


 30分ののち、住人の避難を完了させたバーリッシュの軍勢は門の外で帝国軍を待ち受ける。

 市街地で戦闘になればせっかく復興した都市に再び被害が出るため、敢えて地の利を捨てて平地で迎え撃つ構えのエルミナ団。


 勝機はあるのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 45分後。

 予想よりも早く、北門で西方第一騎士団とエルミナ団が接触する。


「私はエルミナ団の営業担当を務めております。榎木武光と申します。お客様方には、キノコ男ですと申し上げた方がよろしいでしょうか!!」


 武光の挨拶に兵士たちがざわついた。

 それを「落ち着かんか!!」と言って諫めるのは、40代の中年男性。


 長身であり、逞しい腕と大きな剣は見る者を圧倒する。

 彼は名乗った。


「我は西方第一騎士団を率いる聖騎士! 豪水ごうすいの名を冠する者! 名をレイドル・ボルテックと申す!! 投降せよ! 貴様たちのやっている事は越権行為!! 皇帝陛下のご裁可なしにこれ以上の勢力拡大をすれば、反逆罪に問われると心得るがいい!!」


 レイドルは聖騎士の中でもかなり帝国の上層部寄りの思考を持っており、「間違いなく交渉の余地はない」とジオが断言するほどであった。

 なお、ソフィアも同調している。


 「あの男は、私の体を舐め回すように見るのだ!! とんでもない変態だ!! 性騎士だ!! よし、エノキ! 殺してしまえ!! 私は視線に耐えられんから無理だ!!」との事である。


「念のためお聞きしますが。こちらはお客様が何もしないで頂けるのであれば、攻撃の意思はございません!! どうか、お引き取り願えませんでしょうか!!」

「ふははっ! 愚かなり!! この期に及んで命乞いか!! 聞いていたほどでもないな! キノコ男とやら!!」


 エルミナさんが珍しく武光の隣に立った。

 彼女は言う。


「ちょっとぉ! 意味の分からない事ばっかり言わないでくださいよぉ!! そんな筋肉ばっかり付けてるから、円滑なコミュニケーションが取れないんですよぉ!! せめて、わたしにも分かるように説明してください!! ……皆さん、何しに来たんですか? あの、わたしの言葉、理解できます? そして公用語は話せますかぁ?」



 そう言って、小首をかしげるキノコさん。ちょっと可愛いのが腹立たしい。

 この上ない煽り文句であった。



「この女ぁぁぁ!! 聖騎士を侮辱するか!!」

「ええええっ!? 今のどこに侮辱の要素があったんですかぁ!?」


 リンが笑顔で応じる。


「あいさー。エルミナ様のセリフの9割くらいが挑発だったさー。でも、開戦を促すつもりだったら素晴らしい発言さー。さすがはエルミナ様さー」

「え゛っ!? …………。ええとぉー」


 エルミナさんのキノコ脳が高速回転を始める。

 数秒ののち、結論が出たらしい。


「ふ、ふーはっはっははぁー!! わたしたちに歯向かうとは、良い度胸ですねぇ!! 言っておきますが、わたしの配下には魔族や亜人が大勢いるんですよぉ? 皆さん、勝てますかぁ? 見たところ、あんまり強そうじゃないですけどぉ? 帝国の首都に戻って、やっすいお酒でも飲んだらいかがですかぁ? ぐへへっ」



 迷いを捨てて、マウントを取ったエルミナさんである。



「……是非もなし!! 相手はたったの4人だ!! 200人ほどで制圧しろ!! 殺すなとの命令だが! ははっ! まあ弾みで死ぬこともあるだろう! 戦場ではな!!」


「え゛っ!? あ、あれぇー? もしかしてですけどぉ。わたしも戦闘員の数に入ってますかぁ?」

「あいさー。ボクも入ってるさー。実質、こっちは2人しか戦える人はいないさー。大ピンチさー」


 戦端が開かれる。

 今回は武光も「交渉のテーブルは遠そうですね」と、迎撃の構え。


「ソフィアさん。半分ほどお任せしてもよろしいですか?」

「よし。任せろ。進化した私をお前には特別に見せてやる!! お前だから特別なんだぞ、エノキ!! エロい中年以外はどうにかしよう!! だが、あのエロ騎士はエノキに任せるぞ!! もう見られただけで屈服しそうになる!! 私の純潔を守ってくれ!! お前にしかできん!!」


 なんだか熱烈な告白みたいになっている、戦意高揚でいつも以上にコミュ症なソフィアさん。


 武光は「かしこまりました」と答えて、手からキノコを生やした。

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