第20話 騎士団を味方につけて! 社員を増やして! エルミナ団、帝国領より撤収!!

 ガッテンミュラー騎士団長が榎木武光に伝えておきたいことがあると言う。

 武光は「伺いましょう」と応じた。


 営業マンにとって情報は金よりも価値のある商品である。


「自分で言うのは憚られますが、小官は帝国軍西方第六騎士団の団長を務めております。これは、その気になれば100人単位の兵を動かすことができる地位です」

「若いのにご立派です。さぞかしご苦労もあったでしょう」


「いえ! 小官の事はどうでもいいのです。エノキ殿! 貴殿はこれから、恐らく帝国軍に追われる事になるかと思われます。既に貴殿が黒眼の者であると言う情報は、少なくとも西方騎士団の上層部に上がってしまっているかと」

「そうでしたか。これはご忠告、ありがとうございます」


 ガッテンミュラーは傷が癒えた部下に対して「全兵、敬礼せよ!!」と号令をかける。

 続けて、彼自身も美しい所作で敬礼した。


「我々、西方第六騎士団は、貴殿が危機に際した場合、何を置いてもお味方する事を誓います!! 部下たちも納得しているはずです! 貴官ら! そうだろう!?」


「もちろんです! 失礼な態度を取ってすみませんでした!!」

「あんたたちがいなかったら、オレぁ死んでました! 命の恩人です!」


 だが、武光は慎重に言葉を選ぶ。


「お気持ちは大変うれしいのですが。ガッテンミュラー様。あなたも志を持って騎士団に入られたはず。私ごときのために、そのキャリアを捨てられるのはいささか得られるものとの釣り合いが取れないかと愚考しますが」


 ガッテンミュラーは「はははっ」と笑い、「お恥ずかしい限りですが」と続けた。


「帝国軍はこの数年で明らかに腐敗が進みました。新しく着任した帝国宰相の影響などと噂はありますが、真実は見えず。ゆえに、同じく無辜の民を守るのであれば我々はあなた方、エルミナ団と共にありたい!!」


 敏腕営業マンは自分の狙い以上の成果が上がったことに少々難色を示す。

 差し出されたものをどこまでも強欲に拾っていては、身動きが鈍くなり別の商機を失う事にもなりかねない。

 熟考したいが、その時間もなかった。


 代わりにひょっこりと顔を出したのは、エルミナ団の代表取締役。


「いいじゃないですかー。武光さん。ここまで言ってくださっているんですから、お言葉に甘えましょう! ガッテンミュラーさん! わたしたちはヘルケ村を拠点にしてます! 何かあれば来てください! 5分以内で!! ダッシュですよ!!」

「はっ! 承知いたしました!! 全兵! 女神、エルミナ様に敬礼!!」


 一見、女神として正しい態度を取ったように見えるが、武光は見抜いていた。

 エルミナの肩を叩いて、小声で確認する。


「あなた……。信徒が増えて嬉しいだけではありませんか?」

「うへへへ。いいじゃないですかぁ! わたしの事を崇め奉り、手足となって働きたいだなんて! 見どころありますねぇ!! ぐふふふっ!」


 武光は「まあ、代表の意向を尊重しますか」と諦めて、「では、お力を遠慮なくお借りします」とガッテンミュラーに伝えた。

 熱い握手を交わした2人。


 最後に彼は「東の門の守護兵に話を通しておきますので、そちらから急ぎ脱出されるとよろしいかと!」と言って、屯所に戻って行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 まずスラム街に引き返し、馬車をザーナル老人から回収した。


「この度は私どもが知らぬうちに便宜を図って頂いたようで。御礼申し上げます」

「なに、気にしなくていい。私が望んでやったことだよ。エリーゼ。君は彼らについて行くんだね?」


 エリーはザーナル老人に深くお辞儀をした。


「ワシにも良くしてくれて、感謝しておる。これからはこのエルミナ団の役に立ちたいのじゃ。勝手を許しておくれ。店はそのままにしていくから、薬が必要な時は持って行って良いぞ」

「そりゃあ助かる。だが、寂しくなるな。スラム街の花だったからな、ラブリアンは」


「うぐっ。あまりその名で呼ばないでほしいのじゃ」


 ザーナル老人は「はっはっは!」と笑って、最後に悪い顔をした。



「エリーゼ・ラブリアン! 君のこれからに幸多からんことを!!」

「やぁぁぁ!! ちょっといいセリフ風にわたしの名前を大声で呼ぶなぁぁ!! 恥ずかしいって言ってるでしょぉぉぉ!! もぉぉぉ!! 元気で長生きして最後は幸せに死ねぇっ!!」



 荒っぽい挨拶をして、エリーは自分の店と走る。

 すぐに大きく膨らんだリュックを背負って戻って来た。


「実に用意が良いですね。驚きました」

「なぁに。ワシもいつかはお師匠様を探しに旅でもしようと思っておったのじゃ。予定より数年早くなったが。お主たちと一緒ならば、お師匠様とも会える気がするしの」


「なるほど。では、さっさと撤収いたしましょう。営業マンが取引先に長居をするのはマナー違反ですので。みなさん、もう全員乗っていますね?」


 馬車の中から元気な声が返って来る。


「オッケー! あたしもステラちゃんもいるよ!!」

「あ。わたしは最初からずっと乗ってました。スラム街って怖いので。ほら、わたし顔は可愛いしスタイルも良いし、欲望に飢えた荒くれ者に襲われたら困りますし」


「はい。全員いますね。では、エリーさん。どうぞ中へ」

「お主、女神の扱いに慣れすぎではないか? 営業マンと言うのはすごいんじゃな」


 こうして、エルミナ団は貿易都市・フロラリアを無事に出ることが叶った。

 東門の守備兵たちは「キノコ男さん! お気を付けて!!」と手を振っていた。


 これは、武光がガッテンミュラーに「私の事はキノコ男とでも報告しておいてください、本名まで広まってしまうと営業活動に支障が出ますので」と言い含めておいたことによる。

 こののち、キノコ男の名は帝国軍の中でも瞬く間に広がっていく。


 大多数は「黒眼のお尋ね者」として。

 ごく少数は「正義の救世主」として。


 良くも悪くもキノコ男の名はどんどん有名になっていくのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 来た時と同じ時間をかけて、馬車はヘルケ村へ戻って来た。


「到着!! 帰って来たー!! ラブちゃん! ここがあたしの村だよっ!」

「おお。なかなかのどかなところじゃ。居心地も良いし。これなら調合も落ち着いてできそ……ラブちゃんとは?」


「エリーちゃんの2つ目のあだ名! 気分によって使い分けていくのだ!!」

「いや、それはちょっとヤメて欲しいのじゃ」


 ルーナは大きな声でエルミナ団の帰還を村に伝えて走り回る。

 続けて、新しい仲間の紹介も忘れない。



「みんなー!! すっごい薬師のラブちゃんが来てくれたよぉ!! これで病気も怖くない!! ラブちゃん、変なキャラ作ってるけどいい子だから! 仲良くしたげてねっ!!」

「にゃああああ!! ヤメてよぉぉぉぉ!! もう居心地良くなくなったぁぁ!! やだぁぁぁ!! 待ってよぉ! ルーナ、ヤメてぇぇぇぇ!!」



 ルーナさんによって、エリーの紹介はあっという間に済んだ。


「う、ゔゔ……。酔いました……。もうわたし、馬車で遠出はしませんからね……」

「エルミナ様、しっかりしやがれですわ! エルミナ団がまた大きくなったんですのよ!!」


「そうですね。代表にはしっかりと責任を持っていただかなければ」

「代表ですかぁ。うへへ。その響きはちょっとずつ気持ち良くなってきましたよぉ。こんなに有能な人材が、全てわたしの部下なんですねぇ。ふへへっ」


「エルミナ様がどんどんくそったれになられてますわ。武光様、よろしんですの?」

「ステラさん。代表の人間性まで気にしていては、営業職は務まりません。世の中には社長がクソみたいな会社でも成功しているところは多くあるのです。我が社もそうありたいと思っております」


 ステラが「さっすがですわ!!」と歓声を上げる。

 その後、家に帰ったエルミナは部屋着に着替えてベッドでゴロゴロしていると気付く。


 「あれ? わたし、クソみたいな代表って言われました?」と。


 そのクソみたいな女神様が発端になってエルミナ団は次のトラブルに巻き込まれることになるのだが、まずは少しばかりの休息で体と心を休めて欲しいものである。




~~~~~~~~~

 読者様には「おい、この長さの話を1日に2話も読ませんなよ!!」とお叱りを頂いているような気がいたします。

 ですが、お許しください。


 再編集が面倒なんです!!


 と言うわけで、今日もヨロヨロと2話更新!

 次話は18時!! よろしければ☆やろフォローやら、お気が向いた際にポチっとお願いします!!

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