残骸からの通達

「見つけた!!!」


タバコが三本目に差し掛かろうとしていた時だった。男が挿し込んでいたプラグを抜き取りつつ、様々なデバイスを操作して、横に置いていた箱型の機械にさっきまで挿していたプラグを挿し込むと、デスクの上にあったプロジェクターから立体映像が浮き上がった。

加えていたタバコをポケットにしまい、男のすぐ隣まで近づいて映像を見ると、そこには山となって積まれた鉄の残骸。そしてその前にポツンと置かれている椅子。


「これはどこの映像だ?」


「それが・・・他の方々に冬美さんについて聞いてみたんですが、誰も知っている人はいませんでした。諦めて通信を切ろうとした時、僕のメールボックスに一通のメールが届いたんです。開いてみると、『夏樹へ』と書いてあって、この映像が届いていました。」


「冬美から来たのか?けどどうしてあんたのデバイスに・・・?」


「僕は冬美さんには会った事も話した事もありません。ネストの居住者の個人情報は外部には漏れないようになっているはずなんですが・・・。」


「・・・とにかく、再生してみてくれ。」


男がボタンを押すと、映像が動き出した。3秒程同じ景色が流れていると、画面端から見知った女性が姿を現した。


冬美だ。


「あいつ・・・。」


「この人が、冬美さん・・・確かに、美人ですけど・・・なんだか、その・・・。」


「ああ、様子がおかしい。」


映像に映る冬美は、姿形・着ている服は最後に冬美と会った16歳の時から変わっていない。まるであの時から時間が止まっているかのように。

冬美は虚ろな瞳をしたまま椅子に座り、ニッコリと笑みを浮かべて話し始めた。


『夏樹、久しぶりね。どう?今のこの世界は。』


冬美は手を広げながら堂々とした表情で周囲を見渡している。その様子に、私は戸惑ていた。

明らかに私の知っている冬美ではない。まるで別人が乗り移っているかのようだ。


『人は度重なる非現実な現象を病と断定し、偽りの対策を取り続け、遂には孤独を望んだ。ネストと名付けた巣穴に居場所を作り、静かに死を待つ・・・失いたくない物も大切な人も忘れてね。』


「何言ってるんだ・・・冬美・・・。」


『何って・・・私は言ったはずよ、夏樹。』


思わず呟いた私の言葉に反応するように冬美がニヤリと笑みを浮かべたまま話す。まるで私が言う事があらかじめ分かっていたかのように。


『人は居場所を欲しがる・・・その為なら、多少の痛みや悲しみを抱える程ね。だから私は居場所自体を与えた。変わる事も無い、孤独という居場所を。誰を想う事も、誰を羨む必要も無い環境を。』


「・・・間違っている。冬美、お前は間違っているぞ!」


『あぁ・・・けどあなたは・・・あなただけは違う。居場所など求めていない。誰に依存する訳でも無く、誰を羨む事も無く、ただ自分自身の存在を持ち続けている。私はそんなあなたが好きだったわ。』


「私も同じだ!他の連中と同じだ!お前が思っている特別な人間なんかじゃない!」


『ふふ・・・ねぇ?私に会いに来て。久しぶりにあなたに会いたいわ・・・。』


「ああ!会ってやる!ただし覚悟しろよ!」


『嬉しい!それじゃあ、贈り物を準備して待っているわ!あなたが来るのを待っているわ。それじゃあ、バイバイ。』


そこで映像は終わってしまった。私の心には怒りと同時に困惑が渦巻いていた。さっきまでの冬美の言動を察するに、一連のネモによる突然死の原因は冬美によるものだろう。

だが肝心な事が分からずじまいだ。どうやって他者を突然死に陥れるのか・・・彼女が今までどこに隠れていたのか。

このイライラを解消するためにさっきポケットにつっこんだタバコを取り出すが、タバコはぐちゃぐちゃに折れ曲がっており、中に詰められていた葉っぱがフィルターを飛び出して床に落ちていく。

落ち着こうと思ったが、更にイライラがつのってしまう。


「大丈夫か?」


男はまるで宝石類を扱うように慎重に私に話しかけてきた。私は部屋の中を2周回り、多少は冷静さを取り戻し、男の傍に近寄る。


「・・・ああ、大丈夫。」


「そうか・・・なぁ、さっき冬美さんが言っていた会いに来てって話だが、場所は特定できてるんだ。」


「どこだ?」


「ここから西にあるネストだ。けど、あそこの連中とは最近連絡がつかない。ひょっとすると―――」


「みんなやられた?」


「映像の後ろにあった鉄屑の残骸を見るに、そう考えるのが妥当だろう。」


「・・・分かった。ありがとう。」


「ちょっと待て!分かってるのか!?」


「何がだ?」


「ネストには少なくとも100万人は保護されていた。それをたった一人で皆殺しにしたんだぞ!?君とあの子がどんな関係か知らないが、もう君の知る彼女じゃない!」


それは重々承知している。映像だけでも彼女の異常さには背筋が凍る程だ。けど、私は生きながらえるためにこの世界を歩いてきたんじゃない。冬美ともう一度会うために、諦めずに今日まで旅を続けてきた。

例え彼女と会って死んだとしても、それも本望だ。


「たとえ別人に変わっていたとしても、私は会いに行く。」


「どうしてそこまで・・・。」


「冬美は私にとって大切な存在だからだ。」


そう言って部屋を出ようとすると、突然扉を叩く音が鳴り響いた。


「すみません!ここに女が入ってきていませんか!?その女は危険人物です!速やかに身柄を明け渡してください!」


ネストの係員の連中か。何人いるかは知らんが、恐らくさっきのように強行突破は難かしいだろう。


「おいおい・・・君、何したんだい?」


「悪い、部屋のネットが使えなくなったってのは嘘だ。私は外から来た人間。ネストのネットを使うために少々荒い事をしてここに来た。」


このまま騙し続けるのも悪いと思い、思い切って男に真実を打ち明けた。すると、予想外の反応で返ってくる。


「・・・マジ最高じゃん!!!」


「はぁ?」


「つまり、君は大切な人を見つけるために危険な場面を恐れる事なく進み続け、ようやく見つけた彼女は以前とは様子が違う特殊な人間になっていた!そうだろ!?」


「まぁ・・・そうかもな。」


「かっこいい!まるでダークファンタジーの主人公みたいだ!」


男は何度もガッツポーズを決めた後、机の上に置いてあった箱の中から通信機と思わしき小型の機械を手に近づいてくる。


「これ!小型の通信機だ!これがあればどれだけ離れていてもネストのネット上に繋がっている状態になっていつでも僕と通信できる!君は冬美さんを助けに行き、僕はここのネットを使って君をサポートするよ!」


「あ、ああ・・・ありがたいが、今はどうやって抜け出すかが重要だ。」


「僕を人質に!!!」


「はぁ!?」


「僕を脅してたって事にして盾に使ってエレベーターに向かうんだ!ここの係員は居住者に暴力を振るえない!そう規約されているんだ!」


この男は酷く興奮状態にあるようだ。自分から乗り気で人質役を買って出るなんて・・・だが、この男の言う事が正しければ、確かに何とかなりそうだ。

置いていたリュックを背負い、腰に携帯していた拳銃を抜き取る。

その拳銃を見て、男はより一層目の輝きが増した。変な奴だが、乗り気な分、上手くいきそうだ。

私は男の首を左腕で軽く絞め、右手で握っている拳銃をこめかみに当てたまま扉を開いた。


「動くな!こいつがどうなってもいいのか!」


ありきたりなセリフで脅してみたが、係員達は素早く身を引き、私達と一定の距離を保ったままの状態になった。


「変な真似してみろ?こいつの頭が吹っ飛ぶぞ!」


「うぁーやめてー!おうちにかえしてー!しにたくないよー!」


演技は迫真だが、これはあまりにも演技が過ぎる。だが幸運な事に係員達はこの男が本当に人質に取られていると勘違いしているらしく、うろたえていた。

そうして、地上に続くエレベーターの前まで来て、エレベーターのボタンを押し、扉が開いたと同時に男を開放し、中に飛び込んだ。

急いでボタンを押し、エレベーターを上に上昇させていく。上手く切り抜けられた。安堵のため息を吐きながら、弾丸の入っていない拳銃を腰に戻す。

確かな収穫はあった。ようやく冬美と再会できる。心の奥から芽生えた希望と、その陰で募る嫌な予感を抱えながら、私は地上の世界に戻ってきた。

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