第228話 元女騎士達、ロキシーの誘惑に負ける。

その日、引退した女騎士8人が神殿契約を交わして箱庭にやってきた日。

20代の8人は、それぞれ腕や肩を痛めて剣を握れなくなった方々らしく、彼女たちに『破損部位修復ポーション』を使い働いて貰う事になったんですけれど……女騎士とはやはり――腹筋が割れてましたわ!



「という事で、今回インストラクター……ではなく、あなた方に教えるリディアです。教室では教える先生の事をインストラクターと呼ぶことにしていますので、皆さんもそのつもりでお願いしますわね。先立ってこちらにある道具を見てくださると助かりますわ」



そう言って頑丈に作られた運動小屋に案内すると、中にある機材……と言うのかしら。トランポリンやフラフープ、ヨガマットを見て「手に取っても宜しいでしょうか」と聞いてくるあたり、向上心が高い方々なのでしょう。



「此方はトランポリンと言って、体幹を鍛える器具になります。上に立って慣れない間は手すりを掴んでジャンプしてみて下さいませ」



そう告げると8人は各々トランポリンに乗ってジャンプを始めた。

何度も連続して飛んでいると、中心がずれたりと少し慣れない内は大変そうだわ。



「これは確かに、慣れない内は降りる中心がずれますね」

「そこが綺麗に落ちる場所が決まるようになると、こうなりますわ」



そう言ってわたくしは手すりを使わずジャンプしていくと、中止はズレず、多少の運動を入れ込んでジャンプしてもやはり動かず、皆さんは「「「おー!」」」と驚かれていたようです。



「これは確かに室内での体幹を鍛えるのには充分適していますね」

「ただ上に飛ぶだけなのに案外奥深い」

「我々も慣れるのに少し時間が掛りそうです」

「オープンまでに三カ月はありますから、その間にシッカリと覚えて頂けると助かりますわ。ちなみにこの道具は全てわたくしが使っている物でもあるんですが、朝と夜、箱庭の希望者には此処での運動が認められています。その内の一人をスタイル的な広告塔にしつつ、あなた方の美しい体も広告にしたいのです」

「美しいなど、言われたこともありませんよ」

「女騎士とは聞こえはいいが、気が強い者が多くて男性には不人気なんです」

「傷は作るし、嫁にいけぬ職業としても上位に入りますよ」

「その様な事を言う脆弱な男性等放っておけば良いのです! あなた方の身体は魅力的ですわ。鍛え抜かれた身体にシッカリとした筋肉。硬いようで柔らかい筋肉こそ理想の筋肉なのですわ!」

「そう……なのでしょうか?」

「世の女性とはダイエットしたい、痩せたいと言う思いがとても強いのですが、ただ痩せるだけでは不健康極まりないのです。食べて運動して、それで柔らかい筋肉を得ることがもっとも重要なのです。そう……おっぱいと同じですわ!」

「「「「おっぱい」」」」

「程よく張りのある胸と同じくらい、あなた方はとても魅力的なのです!」



そう力説すると、女騎士の一人が「おっぱいと例えられたのは生まれて初めてです」と口にしましたが、それ位魅力的な女性達なんですもの!!



「さて、運動する際にはまず着替えて貰いたいものがありますの。箱庭で作った運動着ですけれど、着て貰えますかしら?」

「これは、体のラインにかなりピッタリとした服装ですが」

「伸縮性はとてもありますわ。動きやすいように作っていますので」

「では、着替えさせて頂きます」



こうして5分後、着替えの終わった彼女たちは前世で言うスポーツウェアに着替え、伸縮性を確かめるべく動いていらっしゃいますがどうでしょう。



「意外と動きやすい」

「想像以上に動きやすい服装ですね」

「運動とは動きやすい服装を着て、尚且つできるだけ体にフィットしたモノが良いですわ。それは汗もよく吸いますし乾きやすい素材で作っていますの。後は汗を掻いた時にタオルがあれば問題ありませんわね。水分補給も大事ですけれど、それらはこちらで用意してますから、まずは一つずつ教えていきますわ。そして今回教えるのにわたくしは一人紹介したい方もいらっしゃいますの。ロキシーお姉ちゃん入ってきてくださる?」



そう言うと、スポーツウェアに身を包んだロキシーお姉ちゃんが登場し、皆さん驚いているようですわ。

何と言ってもロキシーお姉ちゃんのスタイル!

元Sランク冒険者に相応しい柔軟な体に、出るところは出て引っ込むべきところは引っ込んだ素晴らしいボディは、ロキシーお姉ちゃんが一番ですわ!



「わたくしのとっても大好きなロキシーお姉ちゃんで、元Sランク冒険者ですわ」

「初めまして、紹介があったようにアタシはロキシー。今回リディアと二人であなた方の指導をする為に休暇を貰ってきましたので、徹底的に覚えて貰うよ」

「ロキシーお姉ちゃんは現在、ダンノージュ侯爵領の道具店で護衛兼店員として働いてますの。それと、婚約者は現在11歳のダンノージュ侯爵家の二人目の孫ですわ。将来わたくしとは義理の姉妹となりますの」

「「「それはまた……」」」

「「是非年下を落とす術を教えて頂きたく」」



おお――っと、ここで二人ほど自分の好みのタイプを暴露しましたわね。

年下好きと……確かに年下男性の可愛さと言うものは破壊力がありますものね。



「ンンッ 年下男性の事は今は置いておくとして、次にフラフープであってるかい?」

「ええ、あってますわ」

「では、一人ずつ大きい方のフラフープを手に取って上からでも下からでも潜って腰元へ」



そうロキシーお姉ちゃんが指示を出すと、女騎士さん達は「こんな輪っかが効果あるのか?」と不思議そうにしてましたけれど、案外フラフープって慣れるまでは難しいんですのよ?

ロキシーお姉ちゃんがフラフープを回し始めると、上からお尻、お尻からまた上にと移動までさせてみせると、女騎士さん達は「簡単じゃないか」と言いながら始めましたわ。


け、れ、ど。

そう上手くいくはずはありませんわね。



「なにこれ」

「ちょっ……難しい」

「あはははは! アタシも慣れるまでは随分と落としたもんだよ。ただ、このフラフープの作りもだけど、体に程よい刺激を与えてウエストやお尻を小さくすることも出来る。つまり、理想のくびれを手に入れる事も可能なのがフラフープの利点さ。それに体幹も無ければちゃんと回らない。せめて3回、回せるようになるまでは頑張って見な」

「三回でもキツイ!」

「アタシはまだ二回だけど……あと一回が難しい」

「あ! 三回いけた!!」

「これを続けるのは至難の業だな……」

「アタシは朝晩の二回の練習で、今は30分なら回し続けることが出来るようになってるよ。そこまでいくと今まで自分が怠けていたのが分るくらいに腹筋が痛くてねぇ……。無論、こんなことも出来るようになる」



そう言うと腕でフラフープを回し始めたロキシーお姉ちゃんに、女騎士達は呆然としてますわ。



「二の腕の肉、落としたいとは思わないかい?」

「「「「「思う!」」」」」

「フラフープなら落とせるんだよ、コレが」



悪魔のささやき。

踊るように動きながらフラフープを操るロキシーお姉ちゃんに、女騎士たちの目が鋭く光ったのが分かりましたわ。



「どうやっても落とせない二の腕の肉が落ちるだって?」

「腹筋よりも難しい二の腕をっ!」

「そうともさ! 広い場所が必要にはなるが、二の腕を細くすることも出来る! さぁ、止まっている暇はないよ!」



どうやらロキシーお姉ちゃんと女騎士さん達、相性がいいのかしら?

わたくしが指導するよりスムーズに皆さん言う事を聞いてらっしゃいますわ!



「身体を動かすのはとっても大事な事なのはアンタ達も知っての通りさ。取り敢えず三回回せたら休憩して中にある水でも飲みな。リディアちゃん、使い方を教えてあげておくれ」

「はーい! 終わった方はこちらにどうぞー!」



そう言いつつウォーターサーバー完備の運動小屋で、女騎士さん達は既に汗だくになってますわ。

タオルを一人ずつに手渡しつつお水の出し方も教えると、汗を拭いながら何やら考え事をしてらっしゃるようす。

そして最後の一人が水をグイッと飲みほしたその瞬間。



「舐めてた……。貴族女性の運動なんてと、舐めていたわ」

「ええ、アタシたち全員貴族女性以下よ!」

「リディア様は、このフラフープだったらどれくらいの時間出来るんですか?」

「一時間かしら」

「「「「「一時間……」」」」」

「商売のアレコレを考えながら只管回しますの。気が付けば一時間経ってる事はざらにありますわ」

「「「「それでそのウエスト……理解しました」」」」」

「ありがとうございます?」



何やら納得された様子? なのかしら……。

その次にヨガやピラティス、太極拳等の指導をロキシーお姉ちゃんがしていると、ピラティスは別として、ヨガと太極拳は思わぬ疲れがあった様子。



「アンタたち! 身体が硬いよ!!」

「ひいいい!!」

「呼吸を乱さない!」

「はいいいいいいい!!」



全てが終わるころ、彼女たちのスポーツウェアにはジットリと汗が滲み出ていて、滝のように汗が流れ落ちていましたわ。

ロキシーお姉ちゃんもしっとりと汗を掻いてますし、良い運動になったかしら?



「これらの運動を、毎週教室としてやる予定ですの。トランポリン教室、フラフープ教室、ヨガ教室みたいな形でなんですけれど」

「確かにこれは……ふぅ……元女騎士のアタシたちですらキツですね!」

「フラフープや……はぁ……ヨガは……ふぅ……上級者向けが良いと思います」

「でも、インストラクターであるあなた方は全てが出来ないと話になりませんから」

「「「「体力つけます!!」」」」

「頑張ってくださいませ!!」

「元女騎士だろう? だったら三カ月もあれば余裕だよ余裕。アタシだって二週間でやっとこさってところだからね」

「流石元Sランク冒険者……」

「御見それしました……」

「ははは! よしとくれよ、アタシは今では護衛兼店員なんだからさ! でもアンタ達が物になるまではシッカリと教えてくつもりだから覚悟するように! 無論鞭ばかりじゃないよ、ねぇ? リディアちゃん?」

「ええ! 疲れたら是非温泉に入ってリフレッシュを! 疲労回復効果の高い温泉がありますから、そちらで身体を解してくださいませ! スポーツウェアは差し上げますわ! 替えも含めて三枚ほど!」

「「「「「有難うございます!」」」」」



こうして、明日からロキシーお姉ちゃんが元女騎士さん達を扱いていく事が決まり、皆さんは温泉に入ってから箱庭を後にしましたけれど、初日であそこまで疲れ果てるなんて……商売として大丈夫かしら?



「まぁ、女騎士ですら辛いって言うフラフープにヨガは上級者用でやっていいかも知れないね。体験だけなら誰でもOKみたにすれば、入りやすいだろうし」

「そうですわね」



こうして、翌日から運動小屋からはロキシーお姉ちゃんの厳しい声と、女性達の悲鳴が響き渡る事となる――。







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本日二回目の更新です。

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