第219話 新たな保護。
王都を見て回る際、カイルだけではなくライトさんとロキシーお姉ちゃんも着いてこられましたわ。
ミーヤ様は初めて見たライトさんとロキシーお姉ちゃんに心よく挨拶なさり、ライトさんに「あなたはお爺様に似たのね」と嬉しそうに笑っていた。
ロキシーお姉ちゃんもミーヤさんと自分が似ている見た目に驚きつつも、将来嫁ぐことへの挨拶をしてらっしゃいましたわ。
こうして馬車に乗り込み向かう中、窓から王都を見させて貰いましたが、洗練されたお店が多い事や、菓子類のお店も多い事に気が付きましたの。
ダンノージュ侯爵家が出す店となると、それなりに色々考えねばなりませんわね。
庶民向けはまずはおいて、貴族向けからスタートかしら?
そんな事を思いつつサルビアの紋章がついた馬車は庶民が住むエリアにも回ってくれて、こちらも賑わっている様子が伺えましたわ。
しかし、貧困層に向かうと辺りは一変し、やはり表があるところには裏があるのだと感じましたの。
取り敢えず庶民向けなら牛丼屋が一番かしら?
そんな事を思いつつ馬車は止まり、既に簡易テントの前には沢山の方々が薬を貰う為に集まっていましたわ。
基本的に薬が必要な程の方々しか集まらないらしく、たまに没落貴族が雇って欲しいとやってくるくらいで、後は何とかなっているのだとか。
ミーヤ様が馬車から降りると、咳をしている方や熱のある方、また、腕や足のない方々も集まっていらっしゃいました。
外では雪が降り始め、凍える寒さだと言うのに、薬をタダでもらえるこの機会を逃すまいとやってきている方々を何とかしたいと思うのは、わたくしの奢りなのかしら。
「皆さん、今日は孫夫婦たちも来ているんです。薬師ではありませんが後で赤い札を貰った方は隣のテントでお待ちくださいね」
そうミーヤさんが言うと、皆さんは頷きながら診察をしていく。
風邪症状が出ている方がとても多く、子供もお年寄りも例外ではない。
特に小さいお子さんを連れている方々は多くいらっしゃるし、次の番を待つ方々もどんどん増えていったわ。
そして、赤札を貰った方々は隣のテントに向かい、今の暮らしはどうなのかと言う話をカイルとライトさんがしていかれますの。
その中で、問題なしと言う方は赤札から白札に代わり、赤札だけの方は――問題ありと言う結果となりましたわ。
ライトさんは鑑定師でもある為、その人に問題があるかどうかを確認することは可能なのだとか。
白札を貰った方は別のテントへ。赤札だけの方はお帰り頂き、更に話は進んでいきますわ。
よくよく見ると、赤札と白札の方とでは、確かに違いがあることが分かる。
赤札だけの方は、どことなく傲慢な感じがしましたし、白札の方は本当に困っていると言う様子が伺えましたの。
白札の方々が入ったテントは二つ既に満員状態でしたけれど、ざっと見た感じ家族連れで特に手足がない方々が多かったですわ。
また、白札の方々がいるテントには防音付与をしている為、皆さんが最後の白札の方が入られると、わたくしたちは二手に分かれ説明を始めました。
「白札を持っている方々は、これより魔法契約を結んで頂き、皆さんをわたくしの箱庭で一時保護を行います。しっかりと契約書を読んでからサインをお願いしますね」
「箱庭で、一時保護ですか?」
「ええ、手足がないのは仕事上で失ったものが多いと聞いています。元は冒険者で家族を持っている方もいらっしゃいますわよね。でも王都での生活はこのままでは苦しい。それに、お子さんをお持ちの方は今の暮らしにとても不安を感じていると思います。そこで、一時保護して、あなた方を治してから、今後の身の振り方を考えて頂いて結構ですわ」
「治る……んですか?」
「治しますわ」
「手足だぞ? 無くなったものはもう戻ってこない」
「戻りますわ」
「本当なんですか?」
「嘘はつきません。もし信用できないと言うのであれば帰って頂いて結構です。それでも信用して保護をと言う方は魔法契約書をよく読み、サインをお願いしますわ。お子さんは名前を書けない子供も多いでしょうから省きますが、大人の方々はサインをお願いします」
そうハッキリと言うと、皆さん疑心暗鬼でしたがサインをして下さいましたわ。
魔法契約書の内容は――箱庭で問題行動を起こさない事、規律を守る事、そして、王都ではなく別の場所で仕事を探すか、箱庭での仕事を探すかを決めて頂く事。わたくしの事や箱庭での事を外では絶対に漏らさない事が含まれていますの。
それらのサインが終わると、わたくしはサインをした方々で身動きが取れる方には、家に帰ってこれだけは必要だと思う物だけを持ってきて欲しいと伝えると、身動きが取れる女性が家に戻って行かれましたわ。
それから一時間くらい経ったかしら?
夫の仕事道具や自分の仕事道具、子供の大事な物などを簡単な鞄に詰めてやってきた女性達を含めて、箱庭の扉を作り中に入って頂きましたわ。
最期の方が箱庭に入ったのを見計らうと、ライトさんの所にいたテントの方々もわたくしのいるテントに入ってきて、一人一人中へと入って行かれましたの。
中ではカイルが対応してくれていますわ。
全員が入ると、わたくしはミーヤ様にご挨拶してから先に帰る事を告げ、ミーヤ様は「お願いしますよ」とだけ言って他の方々の診察をしていらっしゃいました。
わたくしも箱庭に戻り扉を閉めると、集まった家族――計25組は、広い箱庭を見つめながら呆然としていらっしゃいますわね。
「では、改めてご挨拶しますわ。ようこそ、わたくしの箱庭へ。ここでの生活は保護と言う形ですが、皆さんには早めに身体を治してもらい、王都以外――ダンノージュ侯爵領か、王太子領で仕事を探して貰う為に、簡易の住処であるテントを用意しておりますわ。無論、スキル次第では箱庭で生活するのもアリでしょう。それでも、一週間はこちらの箱庭で静養して頂きます。宜しいですね?」
「一週間後には追い出されるとかではなく?」
「追い出したりはしませんわ。無論、問題行動を起せば追い出す事はしますが」
「「「気を付けます」」」
「ええ、気を付けて頂けたら嬉しいですわ。この箱庭には多くの住民が住んでいらっしゃいますので、喧嘩や問題行動を起さぬようお願いしますわね。ライトさん、今回の人選についてご説明頂けます?」
そう言うと、ライトさんが前に出て今回選んだ人選について話を始めましたわ。
「はい、今回赤札から白札に変わった方々は、人を騙すような真似をすることもなく、本当に困っている状況であることと、仕事に復帰したいと言う願いが強かった方を選んでいます。仕事に意欲のない者は赤札のままお帰り頂きました」
「有難うございます。ライトさんは鑑定師と言うスキルを持っていらっしゃいますので、あなた方の真の気持ちを読み取ってくださいました。もし本当に困っていない方や、仕事への意欲が無ければ赤札のままお帰り頂くことになっていたと言う事です」
「鑑定師と言うと……とてもレアだとお聞きしています」
「ええ、とってもレアですわ。次に、あなた方の無くなった手足についてですが、この事も他言無用です。わたくしに関わる事となりますので、外で話す事だけは為さらないでくださいね」
そう注意をすると、皆さん強く頷かれていましたわ。
そして、カイルが鞄から取り出したポーションに眉を顰めていらっしゃいますけれど――。
「これは、作るのも結構大変なポーションで『破損部位修復ポーション』と言います。取り敢えず誰か試したい方はいらっしゃいます? 無くなった腕や足を早く取り戻したい方は前へ」
「俺が行く」
そう言うと一人の男性が妻に支えらえながらやってこられましたわ。
右腕と右足のない方でしたが、落石事故に巻き込まれて無くなったのだそうです。
「本当に手足が戻るのなら、俺は生まれてきた息子を両手で抱きしめたい」
「分かりましたわ。ではまずは貴方から始めましょう。と言っても使い方は簡単なのですけれどね」
そう言うと、彼の失った右腕と右足に『破損部位修復ポーション』をかけると、淡く光りを放ち、光が手や足の形をかたどると、パン! と言う音を最後に立てて見事に戻りましたわ。
それを見ていた他の方々は驚き、体から未だに光が飛び交うご自分に驚いているのか、戻った手足を動かすと暫く呆然とした後、支えていた奥様を抱きしめましたわ。
「あなた……あなた!!!」
「戻った、戻ったぞ!!!」
「これが『破損部位修復ポーション』の力ですわ。どうでしょう? 皆様も御使いになり、元の身体に戻りたくはありませんこと?」
この一言を皮切りに、一列に並び『破損部位修復ポーション』を使って治療を行うと、泣きながら感謝を告げる方。奥様に今までの苦労を謝罪する方、子供を抱きしめる方と沢山の嬉しい涙が溢れていますわ。
全員に使い終わる頃には、絶望に染まりかけていた顔から一変して希望に満ち溢れた表情に変わっていて、皆さんが整列するとわたくしに感謝の言葉を伝えられました。
その言葉を素直に受け取り、今度はカイルが箱庭の過ごし方について説明を始めましたの。
もう杖など必要もなく。
今まで抱くことも出来なかった我が子を抱っこする男性もいらっしゃって、わたくしとしてはこれだけでも満足なんですが、兎に角一週間は、彼らには静養して貰うべく、カイルの説明を聞いて驚くご家庭が多かったですが、皆さんは納得して頷かれていましたわ。
「――と、箱庭には沢山の方々が働きに来ており、また託児所の子供達もご飯を食べにきます。箱庭での最初の一週間は、まずは温泉等で身体を癒しながら、自由に過ごして頂いて構いません。また、仕事についても、もし箱庭での仕事を望む場合は俺とリディアに相談しに来てください。内容次第では箱庭での仕事を斡旋します」
「温泉は男女別になっておりますから、くれぐれも男性はウッカリ女性の温泉に入らないようにして下さいませ。小さいお子さんでしたら大丈夫ですわ」
「次に、簡易テントでの生活についてですが、あちらに建っているテントでの生活となります。4人家族用のテントを用意していますので、十分に使えるかと思います。また、水分等は我慢せずいつでもアチラの休憩所で声を掛けて貰えれば貰えると思いますので安心してください」
「何からなにまで……」
「有難うございます」
「体調が優れない方は、箱庭には薬師が居ます。直ぐに薬師に見て貰う事も可能ですので、遠慮なく行ってくださいね」
こうして、計25組の家族はテントに案内され、一家族ずつテントでの生活がスタートしましたわ。
さて、一週間後彼らはどうなっているのか楽しみですが、箱庭で生活をと言う方もいらっしゃったら助かりますわね。
その間にわたくし達がしなくてはならない事も多いですけれど、そうね、まずは――。
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本日二回目の更新です。
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