第212話 休日が休日ではなくなるのが引き籠り激務職。

――カイルside――



城からのリース依頼はその後も続いた。

納品しては次の物、納品しては次の物と、兎に角量も数も多く、リディアとフォルは日々疲れでふやけそうになりながらも温泉に入っては回復してアイテムを作る事を続けている。


やっと最後の納品が終わると、依頼は途切れた。

泣きながら喜ぶ二人に拍手喝采が贈れたのは言うまでもなく。


だが次に届いたのは、王太子領とダンノージュ侯爵領での炬燵等の依頼だった。

子供やお年寄りの多い家庭ではオイルヒーターと加湿器が特に人気が高く、冒険者は温熱ヒーターと炬燵が、人気が高かった。

一日の休みを入れてから二人はせっせと炬燵等の依頼の品をドンドン作り、それらをリースしていったのは言うまでもなく、アイテムボックスはレンタルではトップクラスで人気が高く、同じく人気が高いのがキーパージャグだった。

それでも、道具店サルビアで売っている水筒も人気商品の一つなのは言うまでも無い。



そんなリディアが忙しくしている間、俺はと言うと――新たに雇った調理師20人を、10人ずつに分けて王太子領にある焼肉店での研修に行って貰った。

「即戦力となる為に鍛えて欲しい」と言うと、調理師たちは笑顔で鍛えてくれることを約束してくれた。

更にダンノージュ侯爵領の焼肉店で働いて貰う為のウエイトレスやウエイター60人も、同じように30人ずつ分けてお願いすると、キッチリ鍛え上げてくれる約束をしてくれた。

是非頑張って貰いたい。


一週間後には焼肉店が完成すると言う連絡があってから、急いで雇った人数だが、一階と二階で働いて貰う為の人数だ。これで足りない場合は追加で雇おうと思っている。

更に丼物屋がオープンして、連日行列が出来ている。

冒険者がよく頼むのは特盛牛丼で、ギルド職員が頼むのは並盛が多いと言う結果が出ているが、体が資本の冒険者ならばそれは仕方のない事だろう。

また、若い冒険者や駆け出し冒険者の間でも牛丼は人気らしく、早い、旨い、安いは伊達ではなかった。


焼肉屋がオープンすればそっちに人は流れるだろうが、それでも食と言う娯楽は大きい。

リディアが考えていたイベントは、結局忙しさからすることが出来なかったが、忙しさが落ち着けば託児所でのお泊り保育をしたいとリディアは意気込んでいる。

それが終わってから、王都に行きたいそうだ。

また、箱庭師も雇いたいそうだが、現在探していても中々見つからない。

王都に行けば見つかるかもしれないが、取り敢えずは我慢して貰う事になった。

そして本日は休日。


休日こそゆっくり休んで欲しいが――リディアとフォルに休日は無さそうだ……。



「リディア姉! 僕はビールを大量に作っておきますね!」

「わたくしは足りない粉ミルクやオムツを作り貯めしておきますわ! 後は長時間持つ炭も作らねば……どなたか炭小屋から炭を頂いてきて! アイテムボックス一つ分で構いませんわ!」

「はい!」



休みが休みでないのがロストテクノロジー持ちの宿命なんだろうか……。

だが二人ともいい笑顔で仕事をしているし、ファビーも現在温泉に王様と王妃様が来ているらしく、夫婦仲良く温泉に入っていらっしゃると言う事で緊張しているようだ。


ファビーの温泉は、あっという間に浸透し、来週からは王太子領での一カ月運営になるのだが、最終日は長蛇の列だったらしい。

閉店時間を2時間遅らせてまで入って貰ったが、店員から「来月は王太子領で、再来月は行軍の為、その次となります」と言われた時、多くの者たちが泣き崩れたとか。

これは、行軍が終わった後の出入りは凄い事になりそうだとリディアと語ったのは言うまでもないが、問題はライトを何時も護衛してくれている鳥の瞳のメンバーだった。



「温泉がない生活など耐えられない! 頼む、これからもライトくんを護衛しよう! リディア嬢の箱庭の温泉に入る許可をくれ! 冒険譚もタダで引き受けよう!」



そう泣きつかれたライトは相談し、鳥の瞳メンバーにリディアがブレスレットを作り、温泉に入る許可が下りる事となった。

ライトを長い間護衛してくれていたお礼も兼ねているそうだ。

確かにずっと王太子領とダンノージュ侯爵領を行き来していた俺より、ライトの方がずっと長くダンノージュ侯爵領で活動してくれていたので、俺も異存はない。

彼らが今後どんな活動をするかは分からないが、ライトの護衛をしつつ、冒険にも出かけ、無事に帰ってきてくれるのならそれが一番だと思った。



そして、子供達だが――。

ロックを含めた勉強が必要な子供達に関して、祖父がダンノージュ侯爵家で家庭教師を雇ってくれた。

お陰でもっと勉強がしたい子供達や、礼儀作法を習いたい子供達は挙ってダンノージュ侯爵家で勉学や礼儀作法を学んでいる。

無論ロックもそうだ。

絵師の子は、勉強は苦手だったが、やっと箱庭での授業を終わらせたらしく、リディアから画材一式を貰って絵を描いて過ごしている。

絵は月に一度王太子領のネイルサロンと、ダンノージュ侯爵領のネイルサロンに飾られ、人気を博しているらしい。


何度か絵が売れたこともあり、絵師の女の子は貰ったお金を大事に貯めているそうだ。


――と言うのがここ最近の流れだが、リディアとフォルは、今まで大量受注があった事もあり、ロストテクノロジーレベルも上がってMPも増えた為、現在ビールがアイテムボックス4つ分でき、リディアも粉ミルクがアイテムボックス一つ分、オムツはアイテムボックス三つ分作れている。


余程過酷な毎日だったのが此れだけでも伺えるわけだが――。



「リディア、フォル、余り無理はするなよ?」

「これ位平気ですよ。今までが地獄でしたから」

「本当ね、まだまだ作っておかねばならないアイテムもありますし」

「ですよね」

「後はわたくし、ネイルサロン用のネイルを大量に作っておきますわ。フォルはどうしますの?」

「来週オープンの焼肉店に向けて、まだまだビールを作ろうと思います。在庫がもう残り少なかったですし、他の店でも使うでしょう?」

「それもそうね」

「ですので、15時まではビールを作って、後の時間は自由時間にしようと思います」

「それが良いわ。わたくしもその時間くらいから自由時間にするわ」

「じゃあ自由時間になったらリディアと俺はデートだな」

「ええ、そうね!」



夫婦になってもデートは欠かせない。

リディアがもし妊娠すれば、流石にデートは出来なくなるが……それまでは二人だけの時間を満喫したい。

せっせと二人が作る隣には、いつの間にかファビーも来ている。

どうやら王様達が温泉から出て行ったようだ。



「休みを欲しているフォルに悲報です。ボディーソープとシャンプーとか化粧水とかが無くなりそうだから作って下さいね!」

「了解! 女性用も今回はボクが作りますね。どれくらい必要です?」

「んと、温泉に並べる用と、販売用かな。明日から王太子領だから多めに欲しい」

「じゃあアイテムボックスを4つ持ってきてください」

「わかったわ」



こちらも、なんだかんだ言いつつ結局仲が良い二人だ。

そう遠くない内に付き合い始めるんじゃないかとは思うが、大人しく見守る事にしよう。



――箱庭に来た元スラムの子供達は、それぞれ良い方向に歩み始めている。

親を得たことでの安心感もあるだろうし、皆がダンノージュと名乗れる一つの家族となった事も大きいのだろう。

その喜びは大きい物だったようで、リディアの箱庭も進化した。

畑は更に増えたし、山も大きくなった。

住宅エリアも更に広くなって、また人が増えても全く問題がない程に広くなり、温泉も一つ一つが大きくなった。

建築師たちは待ってましたと言わんばかりに独身用の三つ目のアパート建設に入っている。

中央には程よい冷たさの大きな滝も出来て、浅瀬の川ができ、幾つかの橋も出来ていた。

子供達はもう靴を履いていない。

砂浜を走り回り、浅瀬の川で遊び、畑や採掘所には入らないが、池鏡の間も裸足で行っては御祈りを欠かさない。

老いた爺様婆様達は、そんな子供達から「お爺ちゃん」「お婆ちゃん」と呼ばれ、親しまれているし、託児所の子供達もお年寄りが大好きだ。



そう言えば話していなかった。

屋台組のお年寄り達の子供達だが、無事牢屋から解放されたが、我が子を育てるだけの余裕がないと言う事で、現在18人の子供達が箱庭にて育てられている。

彼らは最近来たばかりなのでまだスキルチェックもしてないが、今は環境に慣れる為に頑張っているようだ。

勉強も、人付き合いも、全ては生きる為に必要な事。

それでもリディアのように人付き合いが苦手な場合は、引き籠りながらでもやれることを探すのが大事なんだろう。

18人の子供の中には、やはり人付き合いが苦手な子もいる。

彼らのスキルを見るのが楽しみではあるが、その辺りは追々だろう。



そして時計は現在15時。

リディアはフォルより先に仕事を終え、俺との箱庭デートを楽しむべく片づけを始めたので手伝ったのだが――。



「ねぇカイル。今日は海辺でゆっくり過ごさない?」

「そうだな、二人でゆっくりと過ごそう」

「ファビーも終わったら……」

「あ、終わったら温泉に行って足りないシャンプーとかボディーソープの補充とかしないと」

「……ボクも手伝うよ」

「ありがとうフォル!!」



――頑張れフォル!! お前だって春が来るさ!!!

ラブラブな俺達の隣で繰り広げられたファビーの天然に、フォルが肩を落としつつ付き添って行ったのを後で見ることになるが……意外とフォルはMかもしれないと言う考えに落ち着いた、そんな休日だった。






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