第194話 リディアの覚悟とアラーシュ。
カイル達が走り回っている中、わたくしは幾つかの商品をアイテムボックスに入れてアラーシュ様の元へと向かいましたの。
話すことは多いけれど、逃げてばかりもいられないような商品が出来たこともあり、これを大きな一手として、わたくしは挑むことに決めましたわ。
アラーシュ様との話し合いは恙なく最初は終わりましたの。
領の事、現在している商売の事を此方は話し、アラーシュ様からは王太子領が改革に動き出したことなどもお聞きしましたわ。
では、此処からが本番。
わたくしの根性と覚悟の見せ所かしら?
「恙なく進んでいるようで安心しましたわ。……所で、ダンノージュ侯爵領の冒険者からあるお話をお聞きしましたの。なんでもナカース王国の防衛費が嵩んでいるそうですわね」
「……ああ、テントや備品と言った物の値段が高騰していると聞いている。ナカース王も渋ってはいるが、作っている領がな」
「ええ、わたくしの、元実家ですものね。元実家の金回りが良くなったのは、作っているテント等の備品関連の値上げ、といったところでしょうか」
「かといって、アレだけの量のテントや備品を作れるところは難しい。もし仮に、100人規模の人数を収納できるような箱庭や、今あるテントに変わる品があると言うのなら、ワシが是非とも王に売りたい所だ」
「それを聞いて安心しましたわ」
そう言うと、わたくしの弟子の一人が100人規模なら余裕で入れる箱庭を持ち、尚且つ、日帰り温泉宿としてそこを売り出すことになっている事を伝えると、アラーシュ様の目が変わりましたわ。
そうでしょうね。
ファビーの人として、箱庭師としての価値は一気に上がり、彼女だけで億単位の金貨が動いても可笑しくない状態ですもの。
「ですが、ファビーはわたくしの大事な弟子。いくらお金を積まれようとも、寄こせと言われて寄こせるものではありませんわ。それに、今のテントって汚れやすく重く、設置も大変だとか」
「そこも聞いていたのか」
「ええ、わたくし、大きなテントは箱庭に置いてきましたけれど、簡易テントを持ってまいりましたの。実はお泊り保育で使うテントとして作っていたものでしたけれど、こちらの商品に近い品をご提供できますわ」
そう言うと、出入り口付近で子供用の簡易テントをボタン一つで作ると、アラーシュ様ですら立ち上がって「おおお」と驚いていらっしゃいますわ。
「是非、お手に取って確かめてくださいませ。汚れを弾き、水を弾く仕様ですわ。軽くて丈夫ですけれど、強い風には弱いので地面に杭を打つことになりますけれど、それくらいは重いテントで慣れている方々にとっては簡単な事ですわよね?」
そう話しつつ寝袋や光魔石でつく明りの広いランタン、さらに8リットルを溜めて置けるキーパージャグも取り出すと、アラーシュ様は満足げに頷いておられますわ。
「実に素晴らしい商品だ。これは寝袋かな? このような軽くて水を弾く寝袋があれば、移動も随分と楽になるだろう。それにこのランタン。とても明るく周囲におけば暗がりでも動きやすい。だが、この箱のようなものは初めて見るな」
「キーパージャグと呼ばれる、24時間冷たいままでも温かいままでも保つことが出来る、飲み物専用の水道……と言えば宜しいかしら? 量は一つで8リットル入りますわ」
「素晴らしい……これだけあれば、ナカース王に売りに出せば、」
「いいえ、売りには出しませんわ」
「何故だ」
「売りに出せば、わたくしの弟子、ファビーも売りに出せと言い出すでしょう?」
「……確かに」
「ですから、全てレンタルと言う形にしようと思いますの。要は貸し出しですわ」
「貸出だと? これだけの商品を?」
「大事に使って頂くのは勿論ですが、穴が開いたり壊したりすれば弁償と言う事で金銭を要求致しますわ。でも、貸出でしたら、わたくしの実家よりも安い値段で必要な時に、必要な個数を毎回借りられたらどうです? 元実家に大打撃を与えることは出来るとは思いませんこと?」
そう、備品はあるだけで使う際の埃やらネズミに齧られた等の問題もありますわよね?
けれど、ロストテクノロジーで作ったこれらを、必要な時に必要な分だけレンタル出来る、しかも実家の売っているテントや備品よりも安い値段で押さえることができ、テント等を毎回仕舞う場所すら要らない。壊れた場合などは金銭を頂くことにはなるにせよ、それに加えてファビーの温泉を貸し切れると言うおまけがつくんですもの。元実家へ首を絞めるには丁度いいのではないかしら?
「それに、アラーシュ様も『ダンノージュ侯爵家は売ったのではない、貸しているだけである』と言えば、元実家から激しく妨害される事もないのでは?」
「なるほど……だが、ファビーの温泉宿に刺客が現れる可能性は?」
「あまり知られていないようですけれど、箱庭って細部まで弄ることが可能なのです。暗躍しようとして入ろうとすれば弾かれて入る事は不可能でしょうね」
「防犯面でも箱庭は素晴らしいのか……初めて知ったな」
「害を為そうと考えている輩は箱庭に入る事は不可能ですのでご安心を」
「ふむ……。だがこれだけの商品、本当にレンタルでいいのか?」
「ええ、お値段はシッカリと取らせて頂きますけれど。一番高いのはファビーの温泉を貸し切る事ですわね。わたくしの弟子は高いですわよ?」
「はっはっは!」
そこまで話すと、アラーシュ様は大声で笑い始めましたわ。
「おのれの作ったアイテムよりも、弟子の方が高いと言うのか!」
「当たり前ですわ。アイテムは壊れれば作り替えればいいだけですけれど、ファビーは一人しかいませんもの。わたくしの大事な弟子ですわよ? 高くて当り前ですわ」
「クック……。いやはや、弟子想いの孫の婚約者だ。良かろう。貸出と言う形で陛下に話をしてみよう。大きいテントは一人でも建てることは可能か?」
「背が高ければ。カイルは一人で、15分で作りましたわ」
「良かろう。王の御前でこれらのアイテムの売り込みをする際には、ワシも一緒に行こう。ファビー殿の温泉もみたいからな」
「でしたら、来週の週末一日だけファビーの温泉は休日ですので、そこでまずはアラーシュ様に体験して頂いて満足して頂けてから売り込みますわ。満足為されたら、アラーシュ様から陛下に軍部の方々に話をして下さると助かりますわ」
「良かろう」
そう言うとわたくしはツータッチで閉じたテントを鞄に仕舞い、出したアイテムも鞄に仕舞うとやっと肩の荷が少しだけ下りましたわ。
「絶対に防衛費、頂きますわ」
「ああ、こちらにきっと多額の防衛費を回してくださるだろう。真冬でも温かい水や温かいお茶が飲めるのなら最高だからな」
「「ふふふふふふふ」」
どれくらいの金額がダンノージュ侯爵家に降ってくるのか楽しみですわ!
それに、元実家にも大打撃は与えることは可能になりましたし、わたくしの気持ち的な復讐は一応成し遂げられましたかしら。
そんな気持ちを胸に、ファビーとカイルにも来週末の予約を取るべく箱庭に戻ると、丁度良くファビーとフォルが一緒にいた為、声を掛けることにしましたわ。
「ファ、」
「料理はカレーを出すべきです!」
「カレーも大事だが、ポトフがボクは好きだ!」
「あなたの意見も確かに大事ですけれど!!」
「だが、寒い行軍中に食べる料理だ! 温かいスープ系は外せないだろう!」
「でしたら、屋台を持って行って欲しいです! おでんを!!」
「おでんか!!! おでんがつくれるように可動式大型コンロなんてどうだ?」
「そんな大層な物つくれるんですか?」
「ボクを馬鹿にして貰っては困る!」
……何やら白熱してすわね。
少し様子を見ましょう。
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