第181話 採掘のカイル先生と子供達と箱庭の神様。

――採掘のカイルside――



リディアの箱庭に来た時から、採掘は俺の仕事でもあった。

今も暇を見ては採掘をしているが、最近は忙しくて中々手が回らない。

そこに採掘師の子供達が居るのなら、安全を考えながら、教えながら頼むのも一つの手だろう。



「では、これより安全確認をする。ヘルメット、ゴーグル」

「「「はい!」」」

「軍手」

「「「大丈夫です!」」」

「ポーション類が入ったアイテムボックス」

「「「持ってます!」」」

「水筒やタオルは持ったか?」

「「「アイテムボックスに入ってます!」」」

「宜しい! 最低限必要な道具だ、一つでも忘れたりしない様に!」

「「「はい!」」」



男の子たちは総勢三人。三人もいれば、大量の鉱石類は箱庭の採掘で掘れそうだ。

偶にレアなナニカは出そうだが……。


最初に、この箱庭の採掘場は普通の採掘場とは違う事を説明した。

掘れば掘るだけ鉱石か貴金属の元になるものは出てくる。

無論、掘り続けても枯れることは無い。

偶にレアな物が掘れたりするが、図鑑に乗って居ないものは別のアイテムボックスを置いておくからそこにいれるように指示を出した。



「普通の鉱石ではないものも沢山出てくることがある、図鑑を見ながら鉱石類や貴金属などを覚えていくように。図鑑はみんなの分を昨日リディアが用意してくれた。貴重なものだから外には持って行かない様に。バレたらリディアが居なくなると思って大事にするようにな」

「リディア姉が連れていかれる程、貴重な図鑑なのか……」

「絶対他の奴には見せられないな」

「そうだぞ、今でも既にリディアを欲しいとする貴族も王族もいるくらいだ。下手にバレたら即連れていかれるぞ」

「「「気を付けます!!」」」

「宜しい。次に、出てきた鉱石を纏めるアイテムボックスだが、大体の鉱石や貴金属はアイテムボックスに入れれば、あるべき場所にきちんと収まるようになっている。が、レアな物を入れると、行き場所がなくてアイテムボックスの中で漂う事が分かっている。レアな物はレアな物で集めて置けば、後で俺が整理するからそのつもりで」

「「「はい!」」」

「次に、落石なんかは無いとは思うが、鉱石が偶に飛んでくることがある。リディアが開発したヘルメットを必ずつけて、つるはしを使う際には気を付けるように。鞄に入れている古くなったりしたポーションは錬金術師たちに届けるように」

「「「はい!」」」

「使った後の道具は、自分専用の棚に全て置くように。これも昨夜リディアが用意したので、各自のアイテムボックスや道具を置く場所にしたりしてくれ。中段は鉱石類のアイテムボックスだ。中段にはレア用のアイテムボックスを置いてある。黒のリボンがついているアイテムボックスに入れるような物が出てきた場合は、即日俺を呼ぶように! アイテムボックスが一杯になったら、鉱石類の作業小屋の棚に赤い紐を付けて名前を書くように。まだ書けない場合は石のマークでも良い」



子供達はまだ文字を習い始めたばかりだ。鉱石とは中々書けないだろうとは分かっているが、書けない場合は石のマークでも良いとしておこう。



「また、この壁にあるボードだが、一日にアイテムボックス幾つ分掘れたかを書いて貰う。数字が分からない場合は、数の分だけ縦線を入れておくように」

「「はい」」

「俺、10までなら書けるようになってます!」

「宜しい! 頼んだぞマイク」

「はい!」

「皆も力仕事であることには変わりないが、必ず授業にでて勉強する事。文字が書けるようになれば読めるようにもなる。この鉱石がどんな鉱石なのかなど知りたい場合にとても役立つ。レアな物が掘れたら、それをみんなに説明することも可能だ」

「「「勉強も頑張ります!!」」」

「宜しい。また、見習いとして働いて貰う期間は三カ月とする。その間は採掘見習いとして、月銀貨5枚を出す。見習いの者たちは皆銀貨5枚からだ」

「でも、色々買う場所が無いと思います」

「うん、必要な物って基本的に箱庭で済んじゃうし」

「そうだな、暇を持て余していらっしゃるお爺様やお婆様に、箱庭で何かを売って貰うようにしよう。そしたらお使いや買い物が出来るようになり、箱庭の外に出た時にも買い物がしやすくなる。男の子なら食べ物が良いか?」

「食べ物が良いです!! でも俺達……箱庭から出されるんですか?」

「ずっと箱庭にいたいのに……」

「違う違う。外の空気や外の雰囲気を楽しむのも社会勉強だ。子供は大人と一緒に外に出て社会見学をすることもある。そして、箱庭に帰って、自分が欲しいと思って買ったものを皆で話す機会も作ろうとリディアと話し合った結果だ。経験は多い方が良いからな」

「「「分かりました」」」

「将来的に、お前たちの仲間も外で働くようになるかもしれない。その練習だと思って付き合ってやるのも友達だぞ」

「「「はい!!」」」



どうやら、子供達は大人になっても箱庭で過ごしたい奴らが多い様だ。

確かに衣食住があり、勉強ができ、仕事がある。

それなら、外に出る必要もないだろうが、そういう訳にはいかない場合も出てくるだろう。

小さい頃から練習は必要だ。



「また、採掘作業は汚れやすい。定期的に顔を洗ったり、手を洗ったりするように。服装は汚れていい服装で来るように」

「「「はい!」」」

「採掘は一見地味だが、一番の生命線とも言える。無理をせず掘るように。身体が疲れたら休んで、図鑑でも外で開いて中身を見たりな」

「「「分かりました!」」」

「じゃあ、一度皆掘ってみようか」



そう言うと、各々自分たちのツルハシを手に、カツンカツンと掘っていくと、ボロボロと鉱石が落ちていく。

平らな壁を掘るだけなのに、一体どこから鉱石類が出てきているのか謎な場所だ。

しかも壁には傷すらつかない。

その時、キラキラと輝く何かが落ちたのを子供達も見つけたようだ。



「なんか落ちた!」

「これなんだろう?」

「キラキラしてる」

「お、虹鉱石じゃないか。レアな鉱石で、この一つに付与師なら5つ付与を付けることが出来るぞ」

「凄く高いんですか?」

「屋敷が一個買えるな」

「「「スゲ――!!!」」」

「それは、レアな鉱石用のアイテムボックスに入れるように。そう言う時こそ図鑑の出番だぞ」

「さっきのはカイル兄が教えたじゃん」

「ははは、そうだな。だがこんな風にレアな物がドンドン出てくる事もある。それを覚えるのも採掘師の仕事の一つでもあるんだ」

「分かった、勉強一杯して文字を覚える!」

「俺も!」

「皆にいろんな鉱石の事教えたいもんな!」

「その調子だぞ」



その後も三人はドンドン掘って、プラチナ鉱石やアダマンタイトまで出した時には驚いたが、箱庭レベルが上がっているのならレアな物も出やすいんだろう。

二度とダンジョンコアだけは出てきて欲しくは無いが……どうだろうな。



「この透明なのは……」

「コレじゃないか? すいしょう?」

「水晶だ!」



こんな感じで子供達はドンドン本を開きながら覚えて行った。

本自体に強化付与されている上に水を弾き、汚れがつかない付与をリディアがかけているので汚れた手で触っても問題はない。

その間に採掘場に大きな時計を設置し、一時間毎に音が流れるものをリディアに作って貰った。

そして一時間後、鳥の声が採掘場に響き渡り、子供達は驚いたようだ。



「驚いたか? 夢中になっていただろうが一時間たった合図の音だ。一時間たったら休憩を入れるように。外に出て手と顔を洗ってタオルで拭いて、水分補給だ」

「「「はい!」」」

「一時間って早いな!」

「でも、鳥の音がするから直ぐ分るね」

「ご飯やオヤツ時間に間に合わないのは困るもんな」



子供らしい意見に笑みが零れたが、子供達にとってご飯とオヤツに出てくるおにぎりは最高の栄養補給なんだろう。

水筒はリディアが作ったあの水筒だ。沢山のお茶が入っていて、子供達はゴクゴクと飲んでいる。



「俺達、仕事っていったら、最低賃金以下の溝掃除とかしかなかったけど、本当に自分に合った仕事をするってことは、こんなに楽しい事だって知らなかった」

「採掘場も明るいから仕事しやすいな」

「リディア姉が用意してくれたんだろう? カイル兄」

「ああ、リディアが子供達の目が悪くならない様にって、明りをロストテクノロジーで作って、それを俺が全体的に明るくするように設置しただけだな」

「ありがとうカイル兄!」

「でも、俺を捨てた父ちゃんが言ってたんだけど、採掘場は空気が悪いって。でもここの採掘場は空気が凄く綺麗なんだ、外と変わらない」

「そこはアレだろ? 直ぐ傍に箱庭の神様が居るから綺麗なんじゃないか?」

「なるほど、それもそうか!」

「仕事始まる時は必ずお供えしようぜ!」

「それがいいな、何時も有難う御座いますってできるもんな!」

「ははは、それも良いが、始まりと終わりの挨拶をするだけでも、きっと喜んでくださると思うぞ」

「「「はい!!」」」



こうして、オヤツ時間までシッカリ働いた子供達は頭から水を被り上着を脱いで汗を拭い、祠と池に手を合わせて「有難うございました!」と叫ぶと、池鏡からフワリと光が飛び出し三人の周りを飛んでから池に戻っていった。

感動した子供達はワーワーと叫んでいたが、オヤツが無くなるぞと言うと急いで走り去っていった。

何とも元気な事だ。



「箱庭の神様って呼びにくいよな……リディアの分身なら……『リディ』か?」



そう言うと、光はフワリと現れて俺の前に佇んでいる。



「箱庭の皆を受け入れてくれて感謝する。みんな心に傷を負った者たちばかりだ。託児所の子供達も、孤児院の子供達も……リディのお陰で生活することが出来る。流石は癒しの箱庭だ」



そう言うとリディと勝手に名付けた俺に、光はフワワっと増えて俺の周りを飛んでいる。



「心の底から感謝する。これからも皆を守ってやって欲しい……ずっとずっと、この箱庭が残る事を祈っている」



そう言うと、リディは何度も俺の周りを飛んでから池鏡の中へと消えていき、パッと光を放つと見えなくなった。

きっと、箱庭の神様のリディも優しい神様なのだろう。

深く頭を下げてからその場を去ったが、俺からすればただの挨拶に過ぎない。

だが、思いもよらぬことが次々と起こるようになるのに、時間は掛からなかった――。









================

二日に分けての、他者から見たリディアや箱庭の事でした。


男の子って数人揃うとワーワーと盛り上がりだしますよね。

特に幼い子供とかだとw

そんなノリで図鑑を開いて騒いでいる子供を想像すると可愛いですねw


そして箱庭の神様。

一体何をし始めるのかはお楽しみに!


何時も☆や♡等有難うございます。

励みになっております。

話しに関するアレコレ裏話は、更新履歴に書いたりします。

チェックしている方がいたら凄いです!


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