第155話 孤児院への食材提供及び物資提供と継続した支援を。
最初に向かった孤児院は、まだ新しい孤児院だと聞いたことがありましたわ。
ナズラール孤児院。
そこの玄関前に到着すると呼び鈴を鳴らし、人が出てくるのを皆さんで待ちました。
すると、5分後くらいに老いたシスターが現れ、わたくし達の元へと歩み寄りましたわ。
「はい、どちら様でしょうか?」
「初めましてシスター。ダンノージュ侯爵家の孫のカイルと申します」
「ダンノージュ侯爵家の……」
「中に入っても宜しいでしょうか?」
「はい! 直ぐに院長先生の元へご案内します!」
そう言うと扉を開け、中に入ると薄暗かあったが孤児院が痛んでいるのが分かりましたわ。
これは冬が来る前までに孤児院を直した方が良いでしょう。カイルに頼んでナジュ王太子に進言して貰いましょう。
そんな事を思いながら孤児院の中を歩いていくと、多くの孤児たちが痩せ細り、栄養状態が悪い事が分かりましたわ。
「シスター。ダンノージュ侯爵家の薬師たちを連れて来ておりますの。子供達を見させていただいても?」
「はい、ですが薬を買うだけの余裕もなく……」
「大丈夫ですわ。薬は彼らが持ってきております。薬代も無料ですわ」
「有難うございます。どうか子供達を見てやってくださいませ」
「ドミノさん、ラキュアスさん達お願いします」
「「「「畏まりました」」」」
そう言うと子供たちの集められている部屋へと入っていった薬師たちに、後で事情を聞こうと心に決めましたわ。
そして、案内された古い扉の前に到着すると、ドアをノックし声が聞こえた為中へ入らせて頂きましたの。
「ナノン、この方々は?」
「ナーサリ―様、ダンノージュ侯爵家のカイル様達です」
「ダンノージュ侯爵家の……」
「初めましてナーサリー院長。俺はダンノージュ侯爵家のカイルと申します。こちらは婚約者のリディア。今回はダンノージュ侯爵家からの書面を含む様々な物を持ってきておりますので、まずは書面を読んで頂きたい」
「畏まりました」
そう言うとカイルは鞄からアラーシュ様と作った書面を手渡し、わたくしたちは椅子に座りましたわ。
書面を読んでいくうちに、ナーサリーさんは口を手で覆い、大粒の涙を流し始められました……。
「これは……本当に……事実なのですか……?」
「はい、そこに書いてあります通り、今後王太子領にある孤児院には、子供達がお腹いっぱい食べられるように毎日食材の提供及び、ミルクが必要な子供達への粉ミルクの提供、そして哺乳瓶に月齢ごとの乳首の提供、そして、定期的に薬師を派遣しての健康状態を確認致します。また、備え付けてある調理場で必要な火の魔石及び、水の魔石の提供も」
「加えて、服や寝具と言ったものの提供も行います。生活環境はかなり改善されるかと思いますわ」
「それと、孤児院への人員増員も既に王太子に話してあります。孤児院を見て思いましたが、随分と壊れた場所も多いようなので、そちらも王太子に伝え、至急直して頂けるようにお伝えします」
「これは……夢でしょうか?」
「夢ではありません、ナーサリー様。先ほど薬師様達が子供達の健康状態や病気が無いか見に行ってくださいました!」
「あああああっ!!」
その一言に、ナーサリーさんは両手で顔を覆い、声を上げて泣き始められてしまいました。
わたくしも目元に涙を溜め、口を必死に閉じてナーサリー様の今までのご苦労を、辛さを噛みしめます。
「明日食べるものも必死で……っ 毎日子供達がお腹を……空かせてっ……。『お腹空いた』と言いながら死んだ子供も多くいて……っ このような……このような……。この様に手を差し伸べてくださる方が、まだいらっしゃるとは思いもしなくて……っ」
「ナーサリー様……」
「ナーサリーさん、こちらのアイテムボックスを受け取ってくださいませ。私の箱庭で取れた野菜や、保護している方々が作ってくださったパンも沢山入っております。人数分、一日三食分は十分に入っているかと思いますわ。また乳児やまだヤギの乳が必要な子供の為に、母乳の代わりとなる粉ミルクも用意してまいりました。専用の哺乳瓶に乳首も入っております」
そう言うと、涙をそのままに震える両手でアイテムボックスを受け取り、中を開くと、片手で口を覆い流れる涙をそのままに深く頭を下げられましたわ……。
「中には、子供用寝具のガーゼシリーズが入っております。今後寒くなりますから、寒くなる前に温かな寝具セットも持ってくる予定です。それに服も幾つか入っておりますわ。子供用の服は、肌着は揃えられたのですが服が少なく……今後増やして持ってきますわ」
「何とお礼を言えば良いか……っ 本当に、本当にあなた方は神が当院に送ってくださった神の使者です! 有難うございます……有難うございます!!」
「足りない物はドンドン言ってくださいませ。用意できる品は用意いたします。後は、少ないですが心ばかりのお金の寄付をさせて頂いております」
「ありがとう……本当に、本当に有難うございます!」
「これだけ野菜があれば、子供達を飢えさせる事無く生活させることが出来ますね、ナーサリ―様!」
「ええ、ええ!」
「明日の昼、また野菜やパンを持ってお伺いします。その時にアイテムボックスをお返し頂ければと」
「分かりました。必ずお返しいたします」
「それと、もし就職先の無い、もう直ぐ成人するお子様がいらっしゃるのでしたら、箱庭で雇いたいとも思いますが、どうでしょうか?」
「そこまでして頂けるのですか!?」
「箱庭では、貴族の行うスキルチェックを行うことが出来ます。その人の持っているスキルを活かした仕事をして貰うようにしているのです。無理強いな仕事はさせませんし、衣食住は必ずお約束いたします」
そこまで言うと、ナーサリー様は立ち上がりわたくし達に深く頭を下げられましたわ。
「何からなにまで……ダンノージュ侯爵家の方々には感謝しきれません」
「お野菜やパンは、明日の昼までは持ちそうですか? 足りなくはありませんか?」
「大丈夫です。これだけあれば子供達を三食お腹いっぱいに食べさせることが出来ます」
「それは良かったです」
「お腹が空く事が、子供にとってはとても辛い事ですから」
「カイル様、リディア様……本当に有難うございます」
「それと、こちらは院長先生に持っていてもらいたいブレスレットとなります。もし、急な子供の発熱等ありましたら、このブレスレットに貴方を登録させてもらい、直ぐに箱庭に来て頂けたら、薬師を派遣したいと思っています」
「そこまで……」
「箱庭に住む薬師たちの希望です。どうか登録して頂けるでしょうか?」
「――はい!」
こうして、ブレスレットにナーサリー院長を登録すると、彼女はブレスレットを大事に、痩せ細った腕に付けてくださいましたわ。
「明日は、子供達だけではなく、働く先生たちもお腹いっぱい食べられるように野菜を用意してきます。お肉も出来る限り用意しましょう」
「――何から何まで……」
「これは始まりにすぎません。コレから継続していく事が大切なのです。そして、子供達が飢えず過ごして、将来は働く場所もあってこそですわ」
「ええ……ええ!」
「今居る子供たちが大きくなるまでに、王太子領が落ち着けば、好きな場所で好きに仕事が出来れば、それに越したことはありません」
「そして、今後子供達の為にも、王太子領を含む孤児院をダンノージュ侯爵家は支援していきます。困ったことがありましたら、何時でもブレスレットを使い、箱庭にお越しください」
「有難うございます……心から感謝を申し上げます」
――そこまで会話が終わったころ、薬師たちが部屋へ入って参りましたわ。
そして、子供達の栄養状態及び、薬が必要な子供達への処置は終わったとの事でした。
また、長期に薬が必要な子供用に、いくつかの紙袋を机に置くと、ドミノさんが口を開きましたの。
「こちらが、マリちゃん4歳用の薬です。少々風邪を引いているようなので此方の粉薬を、このシロップをスプーン一杯出して混ぜて飲ませてあげてください。三日分出しておきます」
「他の子供達は比較的軽い風邪でしたので、既に投薬は終わっています。マリちゃんには温かくして過ごすようにさせてあげてください」
「こちらは、急に発熱した場合の座薬です。年齢は0歳から3歳児まで用となっています。38℃を越えたら入れてあげてください。体温計は計5本、こちらになります。もっと必要でしたら何時でも用意します」
「4歳から7歳までの子の座薬はこちらになりますが、同じように使ってあげてください。座薬はこちらの箱に常に入れて子供の手の届かない場所へ保管を」
「この箱は……」
「わたくしがロストテクノロジーで作った簡易冷蔵庫ですわ。氷の魔石を1つ入れていますので1カ月は冷たいままです。氷の魔石も提供しますので、必要でしたら何時でも仰ってくださいませ」
「お薬まで……感謝しても足りませんね」
「では、明日の昼また食材を届けさせます。わたくし達は後二つの孤児院に行かねばなりませんので此れで」
そう言うとナノンさんとナーサリー院長は深々と頭を下げ、わたくし達を見送ってくださいましたわ。
その後向かった孤児院二つも同じで、皆さん泣きながらお礼を言って下さいましたの。
……シスターも子供達も、痩せ細っていましたわ。
今まで苦労が絶えなかった事と、今まで国が全く助けていなかったことを嫌でも痛感致しました。
――神の住む箱庭。
そう箱庭に住む皆さんが、わたくしの箱庭の事を呼びます。
本当に神が住んでいらっしゃるのなら、飢えて泣く子供の為に尽くしても、きっと許してくださるでしょう。
全てが終わり箱庭に戻ると、早朝から屋台をする面子は皆さん寝ていらっしゃいましたが、他の方々は待っていてくださいました。
無論、帰宅したのが遅かったので皆さんは食事を終えている事でしょう。
「兄さんリディア姉さん、どうでした?」
「何とかなりそうかい?」
「ひもじいと泣く子供は減りそうか?」
「病気で苦しむ子供は減りそうか?」
そう問いかけてくる皆さんに、わたくしとカイルは強く頷きましたわ。
「神の住む箱庭があれば、きっと大丈夫です。そして、皆さんが手伝って下されば、今後飢えて泣く事も、病気で苦しむ事も無くなるでしょう」
「寒さに震える冬も、暑さで辛い夏も、きっと大丈夫になる。俺達にしか出来ない、俺達が今までやってきたことが――命を守れるんだ」
今までの頑張りが、沢山の命を救う事へ繋がった。
誇りを持って言えますわ!
わたくしたちの頑張りは、『沢山の命を守る為に頑張っていた』のだと。
「さぁ、明日はスラム孤児たちもやってきますわ! 家はどうなりまして!?」
「建築師3人と、魔法が使える美女三人のお陰で当面は過ごせるくらいの物は作れたぞ」
「後はトイレの設定だけだ」
「素晴らしいですわ!」
「トイレの設定が終わったら、飯にしようぜ。待ってたんだからな」
「明日も早いでしょうから、食事が終わったら少しお話してから寝ましょう」
「温泉には、入りたいがね」
「そうだな」
「では、皆さん先に行ってくださいませ、直ぐに向かいますわ」
こうして、明かりも取り入れた真新しいスラム孤児たちが過ごす家に入ると、10個のトイレを全て設定し終えてから休憩所へと向かいましたわ。
カイルは既に皆さんに話を終えていた様で、皆さんは「俺達もこれから頑張るよ」と言って下さって嬉しく思いましたの。
ねぇ? 箱庭の神様?
もし本当に居らっしゃるのでしたら、今後増える新たな子供達の為に、そして、これからも子供達へ支援が出来るように、見守っていて欲しいわ。
わたくしの心が枯れぬように、作物や植物も枯れぬように、多くの命を生み出せる箱庭を継続していけるように――そして、皆の幸せのために。
そう、願わずにはいられない夜の事でしたわ――。
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