第153話 カイルの覚悟と、王太子たちへの叱責と。
――カイルside――
『手が回らないから放置したとでも言いたいんですの!? 何故早くわたくしに相談しなかったのです!! 見損ないましたわ!』
リディアから飛び出した言葉は、俺の頭を鈍器で殴るよりも強い衝撃を襲った。
『貴方、わたくしも胸に刻みますから今から言う事を生涯胸に刻みなさいませ。力のない子供や、お年寄り、暴力を受けて保護されるべき女性は弱い立場ですわ。それなのに、貴方はその中で最も力の弱い子供を放置したのですよ! 許される事ではありませんわ!』
保護をしてきたつもりだった。実際保護をして助けた命は沢山ある。
だが――最も力の弱い子供に目を向けていなかった自分に、吐き気がする……。
『俺に付いて来て欲しい』その返事は『それは、貴方の働き次第ですわ』と言う冷たい言葉だった。
いや、それだけの罪を俺はしたんだから当たり前だ。
だが、挽回できるのならば挽回したい。
目に留めなかった己を憎みながら城を駆け上がると、謁見の間の扉を騎士の制止も無視して開け放った。
驚いたナジュ王太子とカリヌさんがこっちを見てきたが、俺の鬼気迫るオーラを見たからか、少し腰が引けている。
「今日は火急の話があって参りました」
「お、おう」
「どうしたんだカイル、君らしくない」
「いえ、俺は自分の罪を知ったのです。故に、急がねばならないのです! 話を聞いてくれますか」
そう静かに問いかけると、二人は顔を見合わせたのち頷いてくれた。
そこで、先程のリディアとの会話を二人にすると、二人は――と言うより、ナジュ王太子は自分の不甲斐なさを恥じているのか両手で顔を覆い俯き、カリヌさんは眉を寄せて唇を噛んでいる。
「不敬罪になるような発言で申し訳ありません。ですが、命が掛かっているのでお許しを頂きたい」
「いや……俺達が楽観視しすぎていた。確かに此れは大きな問題だ」
「そうですね、スラムについて報告は上がっている。こちらも対応を急いでいた所だったんだが、スラムの子供達及び、その子らを仕切っている子との交渉は進めている所だったんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、だが難航している。スラムの子供達も、孤児院が一杯になってきているのは知っていたようだ。衣食住を手にする事が出来たとしても、質素な生活になるだろう」
「それ程までに王太子領では孤児が増えているんですか? 前の会談ではそのような事は一言も」
「話し合いを進めている途中だったからな……。どう転ぶかは分からなかった。現在孤児院を増やすべく、タウンハウスを幾つか買い取り急ぎ増やしている所だ。だが問題の食料が手に入らない」
「でしたら、リディアの箱庭から提供します」
「いいのか?」
「リディアでしたら、絶対にそうしますから」
「……助かる」
「それで、スラムの子供達ですが。彼らが孤児院に行かないのは、他の孤児たちを飢えさせない為でしょう。その問題については箱庭でどうにかすると伝えてください。それと、スラムの子供達とスラムの子供達を纏めている子をまとめて、リディアの箱庭に預からせてください」
俺の言葉にやっとナジュ王太子が顔を上げた。
何とか言葉にしようとしているが、王太子のプライドか、子供達の命を取るかで悩んでいるのだろうと推測で来た。
「……此処まで進めておいてなんだが……それだと俺の頑張りが」
「頑張りよりも命です。貴方ご自身の頑張りより命の方が重いと思いますが?」
「う……。だが父上から何かしら功績を上げろと言われて焦ってて……」
「でしたら、臣下である俺に命令すればいいじゃないですか。スラムの子らを箱庭で暫く面倒を見てもらうよう命令すればいい。その代わり、俺からも提案を出します」
「どんな提案だ?」
「箱庭師を一人、お譲りして貰いたい。下っ端で構いません」
「そんな事でいいのか?」
「ええ、リディアが求めているのは箱庭師で、現在急ぎで求めているスキルですから」
そう言うと、ナジュ王太子とカリヌさんは眉を顰めつつ首を傾げた。
「箱庭師の箱庭に、箱庭師が必要なのか?」
「雇った箱庭師の箱庭で、託児所を作るそうです。そして、託児所で親が迎えに来ない子供は箱庭で育てると言っていました」
「そうか……」
「そして、此れは俺からの要望ですが。子育てできる女性、男性を多めに雇いたいと思います。そちらも王太子ならば直ぐに用意できますよね?」
「何をさせるんだ?」
「子供たちを専属で見て貰う先生をして貰います。朝から夕方までの先生と、夕方から朝までの夜担当の先生が欲しいです。託児所では子供だけでは危険でしょうから」
「分かった、直ぐに手配する。その代わり、俺からの命令だ。スラムの子供達とそれを纏めるリーダーを箱庭で預かって欲しいのと、食料となる野菜や肉と言ったものを用意して欲しい」
「畏まりました」
「それと、出来ればスラムの子らに読み書きや計算を、」
「箱庭にいる子供達ならば当たり前の教育です。預かる子供らにも勉強をさせます。ですが、まだ幼い子供達には遊びを覚えて頂きます」
「た、頼りになるなカイルは」
自分の命令で臣下の者に指示を出したとしておけば、ナジュ王太子も己の面子は保たれるだろうし、何より後で揉めなくて済むのが楽だ。
その後聞いた話では、スラムの子の人数は、下は0歳から上は20歳までの幅広い年齢であることが分かった。男女の人数は分からないが、全員で42人と言う多さだ。
「また、カイルの不安解消の為にも、毎日孤児が居ないかの確認はコチラで行う。孤児が見つかり次第保護はするが、その際サルビアを通して連絡をしていいか?」
「はい、大丈夫です」
「俺は王太子失格だな……自分の目先ばかり考えて、国民の事を考えられないなんて……王太子失格だ」
「でしたら、今後頑張れば宜しいのです。目先の欲ではなく、民の為に。今王太子領は貧困に嘆いている国民は多いでしょう。国とは、領とは、富ませてこそ民の幸せに繋がります。そうすれば、悲しむ弱い者が少なくなるのですよ」
「……そうだな。何か産業が出来ればいいが。スラム問題が解決しないとなんともな」
「まずは、闇組織が居なくなったことは大きな功績でしょう」
「うん……そうだな」
「では、明日から王太子領にある孤児院に必要な物を配りますが、タウンハウスにまで増えた場合は直ぐにお知らせを」
「助かる」
「スラムの子たちを纏めるのは其方に任せます。あと箱庭師に子供を見て貰える先生たちも直ぐに手配をお願いしますね。神殿契約を結べる人をお願いします。出来れば明日までに」
「「明日ぅぅうう!?」」
「では失礼します」
こうして交渉を終えると、ナジュ王太子とカリヌさんが大慌てで各場所に連絡を入れていたが、俺に出来ることは此処までだ。
まさか、孤児院ですらまともに食事が出来ないほどに孤児が膨れ上がり、食事も儘ならないとは思ってもいなかった。
明日からは沢山野菜やパン等を届けてやろうと胸に刻んだ。
いや、俺達なら――箱庭にいるみんなの力を借りれば、孤児院も何とかできるんじゃないか?
一つの案が浮かぶと、俺は急ぎ箱庭に戻り、リディアと話し合う事になったのだが――。
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本日二回目の更新です。
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