第83話 ナカース王国の属国になった日。保護を求めた老人達。
――その翌日、この国がナカース王国の属国になったことが国民に通達されましたわ。
今後に不安に怯える国民たち。貴族は泣き叫び、阿鼻叫喚だったとか。
道具店サルビアにも多くの庶民の方々が押し寄せ「今後どうなってしまうんだ」と混乱していたようですが――。
『落ち着いてください。先の報告にもあったように、確かにこの国はナカース王国の属国となりました。ですが!! 皆さんに今まで黙っていましたが、俺はナカース王国の者です。あの国は絶対に皆さんを見捨てない。あなた方を苦しめたりしない。寧ろ……今、苦しんでいる方は率先して助けを求めてください! 俺に話すのもよし、この道具店サルビアが経営している店ならばどこでも聞きます! 助けを求めている夫からの暴力を受けている女性は、俺達に助けを求めてください! 俺はナカース王家から虐げらている子供や女性を保護する役割を与えられました。安心してください……この国は絶対に、皆さんが生きやすいように変わります!』
カイルの演説を聞いた方々は皆呆然とし、そして不安もあるなか安堵している方々も多く見られました。
また、道具店サルビアの店主がナカース王国の住民であったことも、国民にとっては安心材料になった様で、『カイルのような奴らがいるのなら、この国はきっといい方向に変わる』と言って下さる方々も多くいらっしゃり、混乱は半日で収まりました。
また、虐げられているのは何も若い世代だけではなかったようで、逃げてくるようにお年寄りの方もやってくるようになりました。
理由を聞くと、今後一人で生きていくのが不安なのだと仰ります。
夫に、妻に先立たれ、一人生きていくにはこの国は厳しすぎます。
ナカース王国とて似たようなものだそうで、カイルは彼らの保護を訴えました。
そこで、カイルと話し合いの結果、次の日に必要最低限の物を用意して、一時保護と言う事で、箱庭で保護することが決まりました。
しかし――ご老人の数は30人を超え、過ごしやすい箱庭には急ぎ長屋が作られベッドと机と椅子と言う簡素な作りではありましたが、彼らの受け入れを始めました。
また、保護して欲しいと駆け込んできた若いお母さんや子供を連れた方等は率先して保護し、他の皆さんのように一時保護として箱庭に来られたのです。
そうなると、どうなるかお解りですわね?
箱庭レベルがまた上がりましたの。
まさか、自分でいじっていないのに温泉が合計三か所出来るとは思いもよらず、しかもオープンな温泉ではなく、一つ一つが天井はあいているものの、昼間人気があって入っても大丈夫なような小屋になっていたのだから驚きです。
そうですよね、お年寄りが多いんですもの。
温泉と言う娯楽があっても問題ないですわよね。
その後、皆さんのスキルを見させていただき、「スキル次第では雇わせて頂いても?」と聞くと皆さん嬉しそうに頷いていましたわ。
その結果、保護したご老人たちの中には、沢山のスキル持ちがいらっしゃいまして。
『建築師』『裁縫師』『植物師』『革細工師』『陶芸師』等など、余りにも多すぎて大変でしたが、貴重なスキル持ちですものね、全員雇わせて頂きましたわ!
建築士の方々に関しては、更に広くなった居住地を見つめ、
「リディア様、老人ホームを作っても構いませんか?」
と聞かれる方もいらっしゃって、今居る三人と話し合い、ご老人たちは平屋の長屋を作りそこを老人ホームにする事を決めたようですわ。
無論、植物師であるザザンダさんの許可を得て木の伐採許可を頂き、彼らも三人と同じように木組み敷の長屋を作る事にしたそうです。
そして、陶芸家の方が三人いらっしゃいましたが――。
「ワシは長年食器などを作ってまいりましたが、才能が開花することなく追い出されました。どうかワシ達にもう一度チャンスを頂けませんでしょうか」
と言う事でしたので、わたくしは幾つか作っていたお皿とコップを取り出すと、彼らのリーダーらしき50代のナンザさんに見せたのです。
「今度、道具店サルビアは飲食店を作る予定なのですが、この様な模様や絵柄の入ったセットのお皿やコップを作ってくださると助かります。また、子供向けの陶磁器で出来た小さなおままごとセットなんかも作れますか?」
「新しい試みですな……。陶磁器で作るおままごとセットなど、売れるのでしょうか?」
「土はタダですから沢山作って安く売ろうと思いますの」
「なるほど。また飲食店となると……どのような店でしょうか」
「軽食も出るカフェなんですが、紅茶に珈琲もお出ししますわ。出来るだけ均一な作りではなく、一点モノと言った付加価値をつけたいんですの」
「一点モノ」
「行くと、どんな絵柄のお皿やカップがくるか、楽しみになりませんこと?」
「そいつはいいですな! 是非作りましょう!!」
「出来ればモチーフは花が宜しいですわ。花でしたら農園に沢山ありますから、是非お願いしますわね! 食器を作る為の道具はありまして?」
「皿やコップを作る為の道具はありますが、焼くための窯がありません」
「でしたら、わたくしがロストテクノロジーを使って作りますわ!」
何でもござれのロストテクノロジーでしたら必ずあるはず!
わたくしはすぐさまロストテクノロジーを開き、窯を探すと――料理用の窯に陶芸用の窯等出てきましたわ。
確か、山に入る通路が広くなって一つ広場が出来てましたわね。
そこに窯を作りましょう。
三人を案内しながら森の入り口に立つと、ザザンダさんと彼の弟子になった数人のお爺様たちに話をし、窯を作る事を話すと、やはり同じように開けた場所が出来たからそこで作って欲しいと頼まれましたわ。
そこでしたら窯は一人一つ作れますわね。
ロストテクノロジーは速攻でアイテムが作れるのに対し、普通のスキル持ちでは手間暇かけてアイテムを作らねばなりません。
その努力をする為の物でしたら、いくらでも用意しますわ!!
こうして、山の入り口の開けた広場に三つの窯をドーンと作り上げると、お爺様たちは言葉を無くして呆然としていた様子。
「木は森から拾って燃やしてくださって構いませんわ。土は山にある土でしたら好きに使って下さいませね」
「「「ふぁ……ふぁい!!」」」
「今は取り敢えずお店に必要な食器や、子供用のおままごとセットを作って欲しいですが、ある程度時間が出来ましたら、力作を作ってくださいませ! お店に飾りたいですわ!」
「「「有難うございます!!」」」
ふう。取り敢えず陶芸師の方々はこれでOKですわね!
丁度お店に出すお皿やカップに悩んでましたし、子供用のおままごとセットにも悩んでましたもの。
残るは――。
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