第65話 新商品と業務提携及び、新たな新商品の連鎖。

無事、雪の園の方々と朝の露の方々がお戻りになって、少し平和な日常が戻ってきたのも束の間。

道具店サルビアでは、今日も戦いが繰り広げられておりました。

今年は何と言っても残暑が厳しく、先日発売した『ひんやり肌着』が飛ぶように売れ、その勢いはとどまる事を知りません。

サーシャさんとノマージュさんだけでは足りず、わたくしも合間を見て必死に作っている状態ですわ!



「『ひんやり肌着』! 残り10着です!」

「こっちに50着作ったのがあるから持って行って!」

「はい!」

「わたくし達で何とか回しましょう……回復ポーションは使ってまして!?」

「腕と手を殺すわけには参りません!」

「飲んでおります!」

「頑張りましょう」

「「はい!」」



『ひんやり肌着』は王都内に幅広く知られる肌着となり、毎日長蛇の列が出来上がり、最悪売り切れることも多くなってまいりました。

その間、ガンガン裁縫スキルが恐ろしく上がるわたくし達を他所に、売り上げもガンガン上がって飛ぶ鳥を落とす勢い。

冒険者ならば。

平民ならば。

王城に勤めるものならば。

貴族であるのであれば。

『ひんやり肌着』を手に入れる為に必死なのです。

早く涼しくなってくれることを祈りながらも、わたくし達は只管縫います。



「このままではわたくし達が倒れてしまわないか心配ですわね!」

「一旦作り貯めしたいので、午後三時に販売開始にしたらどうでしょう!」

「一日三回に分けて販売時間をずらせば、或いは!」

「それ……貴族様達には通用しませんわよね」

「でも、そうしなければ間に合いません」

「そうね、一旦一日三回の販売時間を用意して、売り場を外にも余分に設けましょう」



こうして業務連絡でカイルに伝えると、直ぐに了承を頂き、今販売中の物が売切れたら、午後三時からまた販売すると言う連絡を行いました。

また、ライトさんも急ぎ箱庭に来ると、この業務連絡をネイルサロン・サルビアに伝えに行き、少し時間に余裕が出来た間に一気に製作を進めましたわ。

様々な大きさ、そして男女と子供用と、各200枚ずつ。それを二店舗に分けての販売。

一日が終わっても、食事を済ませ、疲労回復効果のある温泉に浸かり、直ぐまた寝るまでの間は裁縫に向かう日々が続いておりますが、それもそろそろ落ち着きそうだとロキシーお姉ちゃんは言いました。



「ちょっと見てられなくてね。天気予想スキルを持ってる知り合いに調べて貰ったら、後二週間もすれば少し涼しくなるらしい。気休めだけど、もう少し頑張れるね?」

「リディアさんは別のアイテムも作らねばなりませんから、後は私とノマージュで戦います!」

「では、腕が攣ったりしないように回復ポーションをお渡しして置きますわ」

「助かります!」

「でも、それだけ売れてるとなると他の店の肌着が全然売れないってことだろう? どうする? 業務提携してみるか?」

「業務提携……ですの?」

「ああ、俺の店で売るのも大変になってきたし、他の店舗でも布を渡して売り上げの少しを貰い売って貰えれば」

「そうですわね……カイル、交渉に行って貰えるかしら」

「喜んで」



こうして、翌日には業務提携したい洋服店三つと提携することが決まり、わたくしが布を作成するとアイテムボックスに詰め込んだライトさんが三つの店舗に布を提供し、売り上げの一部を貰うと言うことになりましたの。

お陰で他の店でも買えると言う情報が出回り、忙しさは半減しましたわ。

しかし――。



「洋服店三店舗が肌着を作って下さってる間にある程度肌着を作ったら……」

「満を持して! 私たちは洋服を作りましょう!」


サーシャさんとノマージュさんはやる気満々です。

あの激しい戦いが終わっても尚、洋服への熱意は留まる事を知りません!

こうして、二人が作った洋服は、まずは広告塔となるべく道具店サルビアのメンバー及び、ちょっとしたオシャレ着でネイルサロン・サルビアの皆さんにも来てもらう事になりました。


また、研修の終わった元娼婦の方々も、ネイルサロン・サルビアで働けるようになった為、オシャレと上品な化粧、そして洗練されたサーシャさんとノマージュさんの手掛けた服を着ることで、本日よりネイルサロン・サルビアでの仕事がスタートしました。

しかし、一部の15人は、新たなる店舗でのネイルサロン組となる為、一種の研修と言う形で入られたようです。


さて、次に行うべきは、冒険者ギルド近くにある店舗を抑える事でしたわ。

カイルが商業ギルドに向かうと、最早「解ってます。新しい店舗ですね?」と言わんばかりに担当の方が待っていたのだとか。

そこで、冒険者ギルド近くに店舗を構えたいと言うと、15人くらいなら我が家のネイリストが入って、更に冒険者もソコソコ入れるだけの店舗を確保でき、ついでに冒険者ギルドにて店の護衛が出来そうな人を派遣して貰うべく、交渉にも向かったそうですわ。

そして、C~Bランクの冒険者を3名ほど雇い、ネイリストの護衛や店で暴れるような粗悪な方を放り出す為に雇い入れましたの。



そしてついに。

満を持して、冒険者ギルド近くの店に、ネイルサロン・サルビア二号店がオープンし、そちらは冒険者専用と言う事もあって、連日大盛況なようですわ。

カイルの許で修業した雇われオーナーのハカリンと書類等の担当のモリスが入り、スムーズに進んでいるのだとか。


更に、ネイルサロン・サルビアの三階には、特設洋服コーナーが設けられ、サーシャさんとノマージュさんの手掛ける服が販売となりました。

会計は一階で行う事になり、連日女性客が押し寄せているそうですわ。

会計にと、商業ギルドで人を二人ほど雇いまして、ラランさんとナリアさんのお二人が働いておられます。


こうして、今わたくし達が手掛けている仕事は——。

道具店サルビア

ネイルサロン・サルビア

ネイルサロン・サルビア二号店

ネイルサロン・サルビア三階にて洋服販売。

洋服店三店舗と業務提携を行い、肌着の販売。


と、幅広くなってきましたわね。

こうなると、やっぱり出したくなる商品がありますの。

それは――子供用の洋服売り場。無論、子供にやさしい製品を安く取りそろえたお店にしたいですわ。

一般的な子供の洋服などは、庶民ならお下がりのお下がりと言った、随分と草臥れた洋服を着ている子供も多いですけれど、この際ですので、片親のみの方で仕事に困っているならば、雇ってしまいましょうと思ってますわ。

ナナリシアさんのような方が今後増えないとも言い切れない為、いざという時はそういう方々を雇えるようにしたいんですの。


後は男性も雇いたいところですけれど、男性は仕事に生きていらっしゃいますから、余っているような男性はいらっしゃらないわよね?

今度カイルやダルメシアンに聞いてみましょう。


まぁ、一気には進められませんし、わたくしも時間の合間に乳児向けや幼児向けアイテムを作っている所ですわ。

売れそうならば、今後考えても良いかもしれませんわね。


そんな事を思いつつ、わたくしが手掛けているのは、王都では一般的な綿の服ではなく、ガーゼを使った洋服の作成ですわ。

無論、サーシャさんやノマージュさんは興味津々でしてよ!



「リディアさん、そちらの洋服は?」

「傷当てなどに使うガーゼのようですが」

「ええ、ガーゼは風通しも良く、汗もよく吸いますわ。そして冬でも通気性が良く蒸れない性質を持ってますの。これって、洋服にしたら売れると思いません?」

「「なるほど……」」

「さらに言えば、お子様の汗疹対策にガーゼタオルを夜に掛けてあげたりも出来ますし、乳児がママに甘えたりして抱っこされたりするでしょう? その際、肌が擦れて赤くなると言うこともありませんの。乳児の肌にも優しい素材でしてよ」

「それで、ママ専用や乳児、幼児専用の服を作ろうと……」

「そうですわね。ガーゼを二重にして夜のパジャマにしてもいいでしょうし、汎用性は高いんですのよ。それに寒くなってきたら六重にして子供にまず六重ガーゼを被せて、その上から布団をかぶせると蒸れずに熟睡できますわ。ガーゼの特徴は洗えばふんわりしてくれるところにも注目してますの」

「まさに、ママの為の、子供の為のガーゼなんですね!」

「ガーゼを重ねると言う点には気がつきませんでした!」

「ええ、見た目こそはそう美しくないから貴族向けではないんですけれど、一度使えば病みつきですわ。それに、ベッドの敷パッドに使えたり、ガーゼを大きく使って掛布団にしたりと幅広く使えますわね」

「良いですね!」

「綿だと汗は吸うけれど蒸れますもんね」

「どうかしら? 新しい目線で商品を作ってみません事?」

「「やります!」」

「決まりですわね! となると……作って欲しいのは子供用の服に母親が着るガーゼの服、出来れば乳を飲ませやすいようにボタンのある服も欲しいですわね。それに肌掛けや敷きパッド、大人用の掛布団……ガーゼ専門店になってしまいますわね」

「そこに、赤ちゃんのお粉とか汗疹対策のお薬とか」

「乾燥肌の赤ちゃんに効くお薬とか?」

「作れましてよ?」

「「それで一店舗持ちましょうよ」」



一気に話が進んだ様子。

これは一旦カイルと相談しなくてはなりませんわね。



「まずは作ってみて、チームサルビアの皆さんからの使い心地を聞きましょう」

「「はい!」」



こうして、わたくし達は次に——ママや子供にやさしい商品を作り出すことになりますわ。




============

本日も安定の一日三回更新です。

宜しくお願いします(`・ω・´)ゞ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る