第48話 『神々の護符』と『破損部位修復ポーション』

それからも、店が閉まるとネイリストの皆さんは劇団ヒグラシに向かい、ネイルパッチの張替えをして頂いておりますわ。

以前噛みついてきたマリアさんは表舞台から消えるように姿を見せなくなり、雑用に走り回されているのだとか。


元は男爵家の娘だったそうですが、なんとマリアさんが、一時期王国内を震撼させた【傾国のマリア】だったそうです。

私は引き籠りですから詳しくは知らないのですが、なんでも王太子を誘惑したのだとか。

既に婚約者がいた王太子を口説きに行ったことにも驚きですけれど、王太子もまた、その毒牙にやられたというのだから驚きです。

王室、王家と言うモノへの信頼が揺らぎかねない状態にまで陥り、詳しい審査と取り調べの元、マリアさんは自作自演で婚約者の方を悪く言っていた事がバレて王太子を含む王族は激怒。

証拠もキッチリ揃えられていて逃げ道が無かったそうです。

結果、男爵家はお取り潰しとなり、平民となったマリアさんは居場所を失い、この劇団にきたのだそうで――。



「今は只管下働きみたいに走りまわされてるみたいだけど、それもいつまで続くかねぇ」

「「そうなんですか?」」

「他の劇団員から聞くと、次の雇われ先を道具屋サルビアに定めてるそうだよ。なんでも、自分がヒロインから落とされた責任を取って雇わせるって周囲に言ってるらしい」

「そんな奴はいらん」

「「「ですよね」」」



今日はお店の休業日。

軽食を皆で食べながら話をし、少しくらいゆったりする時間があっても宜しいですわよね。



「そうそう、ダンジョン活性化につきポーション等1割から3割安く売りだしただろう? 売り上げもさることながら、顧客からも『道具店サルビアは一味違う』って、そりゃぁもう、町中で噂になってるぞ」

「まぁ!」

「信頼と安心の道具店サルビアだそうですよ」

「嬉しい事ですわね!」

「仲間が助かったって言う冒険者も多く聞く。リディアのお陰だな」

「そう言っていただけると嬉しいですわ」

「ところでリディア姉さん、池の周りどうしたんですか?」

「ああ、アレはロストテクノロジーで作れるお守りを作っているんですわ」

「お守り……ですか」




朝、薬草園の手入れをササッと済ませると、池の水を何度もすくい、薄いガーゼに沁み込ませてから太陽に当てて乾かし、一つ一つに守りの模様を入れ込んでいきましたわ。

ロストテクノロジーでしか作ることのできない――【お守り】を作る為ですの。


この世界には【護符】と呼ばれるお守りが一般的ですけれど、ロストテクノロジーには月と太陽を浴びた神聖な水を使って作る【お守り】があるのを偶然にも知り、試しに作っている所ですわ。


守りの模様も多種多様にあり、今回作るお守りは【身を守る為のお守り】だけに絞って作る事にしてますの。

こちらのお守りは使い切りタイプではなく、一年と言う期間であらゆる物事から身を守ることが出来るお守りだそうで、店に来るお客様に一人一つずつ、店からの応援と言う事でお渡しするように作りますわ。


ガーゼに模様を入れ込んだら、後は円盤にして作った主体となるお守り石をガーゼで包み込んでから油紙に包み込み、夜中の間に作り込んだ小さな香り袋くらいの大きさに袋に入れ込んでリボンで止める。

お守りの役目を果たした時は、中の円盤の石が身代わりに割れるようになってますの。

しかも、割れた際には暫く己を守る結界を作ってくれると言う優れもの!



「本当ならこの様なお守りなんかない方が良いんですけれど、ダンジョンの活性化の鎮圧には犠牲が沢山出ると聞いてますし……。中には、ご家族を持つ方も、老いた両親を持つ方も……帰りを待つ方がいらっしゃる方だって多いでしょう。せめて、わたくしが出来るのは、一瞬の隙をついてでも逃げれるだけの時間が作れればと思いまして……」

「リディアちゃん……」

「リディア……」

「リディア姉さん……」

「ダメ……だったかしら?」

「リディア、それ、教会が独占販売してる『神々の護符』って呼ばれてるアイテムと一緒だよ」

「なんですって!」

「タダでお渡しするのも不味いかと……」

「まぁなんてこと! ……100個作ってしまいましたわ」

「まぁ……口の堅い親しい冒険者にだったら……いるか?」

「雪の園」

「くらいですよね」

「ううう……でしたら丁度作りたいアイテムもありましたし、雪の園さんに三つお渡ししても宜しいかしら」

「それならいいんじゃないんでしょうか」

「『神々の護符』の値段も上がってるって言うし、喜ぶんじゃないかい?」

「でも、折角の休みだからゆっくりしよう~じゃなくて、皆の為に何かしようって考えになるのがリディアらしいな」



そうカイルに言われて両手で頬を抑えつつ「うう……」と恥ずかしがっていましたけれど、折角の休みだからこそ、何時もなら作れないような時間も手間もかかるアイテムが作りたくなるのも職人としての性ですわ!

こうして、各々が好きに休みを堪能している間、わたくしはついに『破損部位修復ポーション』を作る事にしましたわ。


必要な材料!

全て箱庭にアリ!


前日の隙間時間を見て必要アイテムを取りに行ってましたから、後は集中して作るだけ!

作り終わったらリーダーさんの分の身代わりの華も作りましょう!

それで時間が余ったら、護符も作りましょう!


そうと決まったら、必要アイテムの入ったアイテムボックスを手に、小屋に閉じこもって作業を開始しようとしたら、カイルさんが見学したいとの事で了承してから始めましたわ。


破損部位修復ポーション。

仮令たとえ腕が無くなろうが、足が無くなろうが、腹に穴が開こうが、目が潰れようが、生きていれさえすれば、生きている間に使えば全てが元通りに戻るという、超上級ポーション。

集中力を高めて、丁寧に、それでいてスピーディーに作りますわ。

集中力が切れてしまう前に、出来るだけ一気に!

他のポーションとは違い、青や緑の光が眩く、それらがアイテムに凝縮されて行って眩しい程の光を放ったと同時に――12本の『破損部位修復ポーション』が出来上がっていましたわ。

ドッと汗が溢れてきて、随分とMPを持っていかれましたのね……凄いわ超上級。



「リディア! 大丈夫か!?」

「ええ……一気にMPを持っていかれて汗が出ただけですわ……。でも、此れが超上級ポーションですのね……凄いわ」

「超上級ポーションっていうと?」

「あら、お話しせずに作りましたのね。これは『破損部位修復ポーション』と呼ばれるものですわ」

「はそんぶいしゅうふく」

「生きてさえいれば、腕が無くなろうが足が無くなろうが、目が潰れようが腹に穴が開こうが、全て元通りにする回復ポーションでしてよ」



出来上がった光り輝くポーションを片手に微笑みながら言うと、カイルは呆然としたままわたくしとポーションをみておられますわ。

どうかしたのかしら?



「それ、本当にあるポーションなのか?」

「今あなたの目の前でつくったじゃありませんの」

「いや、それ、勇者とかの冒険譚でしか聞いたことないぞ?」

「随分とおとぎ話みたいなアイテムでしたのね……道理でMPの消費が激しいはずですわ」

「いやいやいやいや、作ったのも賢者とか聖女とか言われてるんだぞ!」

「まぁ失礼な! わたくし箱庭師ですわよ!」

「そうだったな」

「そうですわよ」

「でも凄いものを作った自覚は持ってくれ」

「わかりましたわ!」



こうして、作ったアイテムをカイルに渡し、雪の園の方々が来られた際に3本ほどお渡しして欲しいとお願いしましたの。

無論、教会が独占販売しているという『神々の護符』もですわ。

後は、リーダーさんのみ身代わりの華を持っていらっしゃらなかったので、装備に付けられるタイプで邪魔にならない身代わりの華を作る事にしましたの。


作るのは青いバラのついたへアピン。

これでしたら鞄なり装備なり、どこかに付けることは可能ですものね。

こちらは流石にMPポーションを一本飲んでから作る事にしましたけれど、作れば納得した作品が出来ましたので箱詰めして、これまた見学していたカイルに渡しましたわ。


後は、『帰路の護符』『身代わりの護符』を大量に作り、王国の近くにある三つのダンジョンで必要な『耐火の護符』『麻痺回避の護符』『水中呼吸の護符』を沢山作りましたわ。

すると――。



「リディア」

「なんですの?」

「もう直ぐ夕方になるけど、ちょっと外の空気でも吸いに行かないか?」

「ここ、外ですわ」

「箱庭だろ? 街に一緒に行かないか?」



思わぬお誘いに一瞬固まると、カイルは頬を掻きながら「ダメなら別に」と言いかけた所で「行きますわ!」と返事を返すと、カイルは嬉しそうに笑って手を差し伸べましたわ。

その手を取り、わたくしは身体に着いた護符の破片を落としきると、カイルと二人、本当に久しぶりに外に出ましたの。

けれど、急なお誘いでしたわね。

何時も引き籠っていて欲しいみたいな事を仰るのに、一体どうしたのかしら?






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本日も安定の一日三回更新です。

こちらは二話目です。

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