第19話 駄肉女神の秘密と、荒治療へ挑む。
久しぶりの実家!!!!
いや、実家か?
うん、生まれたのは此処だから一応実家……? 今世での。
太陽神の煌びやかな神殿とは違い、木々に覆われたこの場こそが豊穣の女神の神殿である。
基本的に、豊穣の女神は太陽と月が好き。
太陽の光を浴びて元気になって、月の光を浴びて癒される――と言うものらしいけれど、この前来てた月の神は……ないな、うん。根が暗そう。キノコ生えてそう。
まぁそれは置いておいて、久しぶりの実家帰省と言う事で、エルグランドとエルナさんとタイリアと一緒に神殿に入りましたとも!
即座にエルグランド様がお越しになったのを知った女神たちは大慌て。
直ぐにフィリフィア様との面会となったけれど、フィリフィア様は相変わらず呑気な御方でした。
「あらぁ~エルグランド様お久しぶりです~」
「久しいなフィリフィア。実は妻の事で相談があってな」
「フィフィですか? フィフィもお元気そうで何よりね」
「は、」
「元気でもないんだ。神脈詰まりが沢山あってな、豊穣の女神たちがどうやって神脈詰まりを取っているのかを聞きたい」
「まぁ!!」
いや、元気ですけど!?
めっちゃ元気ですけど!?
なに? なんでフィリフィア様まで凄い心配そうに私の事見てくるの!?
神脈詰まりってあれでしょ? リンパ詰まりみたいなものなんでしょ? 違うの??
「そうですか……フィフィが神脈詰まり。治す方法は御座いますが、見てみない事にはわかりませんが、普通でしたら週に一度こちらに通って貰う事になります。状態を見させて貰っても良いかしらフィフィ」
「あ、はい!」
「では、医務室で様子を見させて貰いましょう」
そう言うと、滅多に動かないフィリフィア様までもが医務室についてきて、ベッドに横たわるとフィリフィア様自らみて下さることになった。
なんだろう……ドキドキする。
5分、10分くらいしただろうか?
翳された手をフィリフィアさまが離すと小さな声で「なるほど」と口にし、私たちに向き合った。
「フィフィ、貴方は苦い水を飲んだ経験はあるかしら?」
「あ、子供の園で買っていた水が正にソレで」
「それが原因ですわね。あなた、呪われてますわよ」
「え!?」
呪われている……ですと!?
嘘でしょ、何で!?
「呪いは先ほど消し去りましたが、後遺症は残るでしょう。余程あなたの事を殺したくて仕方なかったのね。苦い水はねフィフィ、豊穣の女神を殺す為の毒でもあるの。あなたは長年その毒を飲み続けて、神脈詰まりを起したのよ。治るには時間が掛かりそうだけれど……今のところ直ぐに命にかかわるという事でもないわ。ただ、蝕まれた身体は、今は動くけれど、このままでは動くことも出来なくなり、そのまま息絶えるでしょう」
「どどどどど……どうすれば!!」
「太陽神の太陽光で神脈詰まりを焼くことが一番手っ取り早いけれど、それは豊穣の女神にとっては地獄を味わうのと同じくらい苦しいものなの。一度で終わるとはいえ、激痛も続くわ」
「………それで、神脈詰まりは完全に治るんでしょうか?」
「その後の治療は、エルグランド様に柔らかい太陽光を貰い、美味しい水を潤沢に貰っていれば治るわ。後は月の神の力があれば尚早く治るけれど、太陽神と月の神は仲が悪い事で有名だし、月の神はよほどのことが無い限り外には出ないわ。太陽光で詰まりを焼き切った後は、絶対安静にして身体を癒してもらうしかないわね」
「豊穣の女神たちが行っている方法では治らないんですか?」
「それほど全身に詰まりがある状態では、普通の女神たちが使っているものでは治せないわ。私の力で辛うじて詰まりを柔らかくしてるくらいで……。エルグランド様、もしフィフィの覚悟が決まった場合、フィフィの神脈詰まりを焼き切る事は出来まして?」
ここでフィリフィア様はエルグランド様にそう問いかけた。
無論エルグランド様は強く頷いたけれど、激痛か……激痛……痛いのは嫌なんだよなぁ。
でもこれをしないと先には進めない訳で……。
「寝込むと言っても、何日ほど絶対安静で寝込むのでしょうか?」
「約、半年くらいかしら」
「うわぁ……」
「でも、その間わたくしが用意した薬を飲めば痛みを感じない代わりに、意識は無くなると思うわ。半年眠り続けるだけで起きればスッカリ詰まりは無くなっていると思うけれど、どうする?」
「頂きます」
激痛に半年耐えるのもきついんで!!
平凡に暮らすだけなら刺激が無くても半世紀は暮らせるけれど、激痛に耐えながらとなると厳しいっ!!
一日だって我慢したくない!!
こうして、フィリフィア様から豊穣の女神用の丁度半年眠り続けるだけの薬を貰う事が出来たけれど、エルグランド様の表情は晴れない。
「この俺が、呪われていることに気が付かぬとは……」
「同じ豊穣の女神でなければ気が付かない問題ですわ。女の恨みは女の方が気が付きやすいんですのよ? 殿方では無理ですわ」
「………それでも、愛する妻の事だ。全てを知っておきたかったというのもある」
「本当にフィフィは愛されているのね。母としてもこんなに喜ばしい事はないわ」
「う、はい」
「「「母?」」」
「あら? フィフィ言ってないの? 貴女が私の実の娘であると」
言ってない。そう言えば言ってない。
寧ろ生まれた時には下っ端女神だったのでフィリフィア様もあまり気に留めてなかった筈!
「フィフィと言う名も、わたくしの名から取ったのに」
「では、フィフィはフィリフィア様のご息女だったのか」
「ええ。生まれた時には下っ端女神で、そのまま何とか中級まで持って行こうと思ったのに、姉たちとの折り合いも悪くって飛び出してしまって……。まさかこんな面白い事になるとは思わなかったわ」
「うう……お姉様たちの事が苦手なんですもの」
「気持ちは分かるわ。だから絶縁して出て行ったのでしょう?」
「はい……」
「その姉たちも全員嫁ぎましたからね。フィフィ? これからは好きな時に戻ってきていいのよ?」
「エルグランド様がお許しになれば偶に戻ってきます」
「ええ、是非そうして頂戴な」
こうして親子の蟠りも無くなって、最後は笑顔で太陽神殿に戻ったのだけれど――。
「全ての現況は我が妹にあります! どうかわたくしを罰してください!」
「そんなことできませんよ! 誰が私に美味しいご飯をくれるんですか!?」
「ですが!!!」
「私はエルナさんのお水じゃないともう満足できないんです! 罰しません!」
「そうだぞエルナ、お前にはこれからフィフィに潤沢な美味しい水を与える義務がある。罰が欲しいのならそれが罰だ」
「エルグランド様まで!」
「フィフィはこれから治療に入るのだ。お前がいなくてどうする」
「――……分かりました。誠心誠意お仕えします!」
「アタシは何をすればいいかね?」
「時折やってくる神々の相手をしてくれ。この騒ぎを聞きつけて月の神などは直ぐにやってくるだろう。撃退してくれ」
「了解っす」
こうして私はその日母から貰った薬を飲み、意識を失う前にエルグランド様に一言お願いした。
「起きたら子供の園に連れてってくださいね」
「分かった……良いからお休み?」
「はい……」
それからの事は分からない。
身体がとても熱いような、焼けるような……でも痛みが無いから感覚が分からない。
それから私は半年間眠り続け、まさか時折母であるフィリフィア様が訪れているなど露知らずグッスリ眠り続け、その間潤沢な美味しい水と、柔らかい太陽光を貰いながら眠り続けたのである。
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