【★完結★】下っ端女神の結婚事情 ~最高位太陽神に溺愛される~

udonlevel2

第1話 駄肉下っ端女神が昔の事を振り返ってみる。

神々が住まう楽園――名前はなく、『天の園』と呼ばれているそこでは、沢山の神々が生活を営んでいる。神々と言っても、上級から下っ端まで幅広い。

特に下っ端豊穣の女神の仕事は、生まれてくる神々の子供達を預かる――いわば保育園や幼稚園の保育士みたいなもの。

何故そんなことが分かるかって? だって私――。



「―――っ」

「フィフィ! フィフィ大丈夫!?」

「誰か水の女神を呼んで来て頂戴!」



今まさに、自分が神様に転生してきたという事実を思い出した瞬間だからだ。

え? 前世で凄い徳でも積んだ? そんな馬鹿な。

オタク活動に忙しく過ごし、愛しい推しを崇めている間に年を取り、神と崇めていたキャラクターと言う神々に見守られて死んだはず……。

推しに見守られて死んだ私が徳を積んだとは思えない。

故に――下っ端の神に転生したのだろう。

凄い徳を積んだ人はきっと偉い神様達なんだろうな。


さて、神々の子供とは言え、その絶大なる力と言うのは凄まじい。

それをモロに顔に受けてしまった私――フィフィは、顔面から大量の血を流して蹲っている。



「フィ……フィフィ。ごめん……おれ、そんなつもりなくて……」

「エルグランド様……。大丈夫です。豊穣の女神は丈夫なのが取り柄なので」

「でもたくさん血がでてる……」

「ふふふ、あなたの頭突きよりは痛くはありませんよ?」



そう言いつつも血は止めどなく流れている。

前世だったら出血多量で死んでるんじゃないかな?

太陽神のエルグランドは、とても力の強いお子様だった。

うっかり力を出せば、いとも簡単に誰かを傷つけてしまう程に――。

だからこそ、エルグランド専用に私が配属されていたのを思い出した。


豊穣の女神は傷の治りも早く、穏やかな性格の女性が多いため、神々のお子を守り育てるのにはとても適していたし、下っ端が故に、消えても問題は無かったのだ。

だが反対に、太陽神のような強い神は消えて貰っては困る。

特にエルグランドの様な、両親が揃って太陽神のお子など、強くて当り前だ。

故に、何人もの下っ端豊穣の女神がエルグランドの元から去って行ったが、私はこの子が気に入っている。

礼儀正しく、良くも悪くも素直で真っ直ぐなエルグランドを嫌いにはならなかった。

今回は他の神々にちょっかいを出され、思わず力を使ってしまったのだろう。


しかし、痛い。


そろそろ水の女神がやってくるだろうと思いつつ暫く待っていると、オロオロと私の周りを動くエルグランドの頭を優しく撫でた。



「心配いりませんよ。さぁ、お友達と仲良く遊んでいらっしゃい?」

「でも、おれはフィフィから離れない! おれのせいでフィフィが怪我をしたのは事実だから! まっていてくれ! おれが水の女神を呼んでくる!」

「お待ちくださいエルグランド様! 未成熟なあなたを外に出す訳には参りません!」

「ファーリシア様……しかし!!」

「は~い? どなたが怪我されたんですかぁ?」



丁度その時、水の女神がやってくるなり、エルグランドは水の女神に駆け寄った。



「来るのが遅い! 一体なにをやっていたのだ!」

「えー? なんでも~? 最近下界で流行ってるネイルしてましたぁ~!」

「エナリス、貴女はここの治療医なんですからそんな事をしている暇などない筈ですよ! いいからフィフィの傷を治してちょうだい!」

「え――? 怪我したのって、駄肉ですかぁ?」



『駄肉』と呼ばれ、思わずカチンとは来たものの仕方ない事だと溜息が零れた。

豊穣の女神と言えば豊満な見た目を誰もが予想するけれど、下っ端の豊穣の女神なんてただの駄肉としか言えない体型なのだ。

ランクが上がれば魅惑のボディーが手に入る為、下っ端豊穣の女神は常に向上心に溢れてはいるけれど……。



「相変わらず何人も子供産んだような腹にたるんだ身体。見てて笑うわ。お可哀そうに?」

「エナリス!!!」

「はいはい、治します、治しますってぇ~……下っ端豊穣の女神なんて死んでも誰も気にも留めないっつーの」



正にその通りである。

下っ端が死んだところで、誰も気にも留めないのは神々の世界でも当たり前の事だ。

寧ろ日常茶飯事といっても過言ではない。

私は良く持っている方だと思う。

そんな事をぼんやり考えていると、エナリスの乱暴な治療魔法で頭がくらくらしたものの、一応止血はした様だ。

しかし――。



「ちょっとエナリス! しっかり傷跡も治してちょうだい!?」

「良いですってぇ、そこまでしなくてもぉ~! どうせ長くない下っ端女神でしょぉ~? 傷跡あっても問題なんてありませんよぉ~! それよりぃ、私の力を使う方が勿体ないですぅー!」

「エナリス!!」



園長先生である光の女神、ファーリシア様がブチ切れている。

けれどファーリシア様の言う事なんてどこ吹く風で、エナリスはさっさと持ち場に帰ってしまった。

傷跡が残ったままの豊穣の女神なんて、最下位まで落ちたようなものだろう。



「まぁ何てこと……フィフィ……」

「構いませんよ。どの道この仕事は辞めるつもりはありませんから結婚の事なんかは気にしてませんし」

「けれど、あぁ……豊穣の女神に傷を残したままだなんて、水の女神のミューラ様と豊穣の女神フィリフィア様なんて報告すればいいやら」

「フィリフィア様はあまり気にしないんじゃないですかね? ミューラ様もでしょうけど」



数多いる下っ端の事まで気にしている余裕などトップである神様が気にする筈がない。

傷跡を隠すように前髪をおろして見えにくくしたものの、やはり大きな傷なだけに見え隠れはする。額に残った傷跡は恐らく太陽神の力で焼け切ったような跡だろう。



「フィフィは……顔に傷跡が残ったのか?」

「はい、ですがお気になさらず」

「なにをいう! 顔に傷のある女神は、」

「はい! 美しさが重要と言われる女神で言えば、最下位の女神ですね! ですが元々が下っ端女神なのでお気遣いなく!」



元気一杯にエルグランドに伝えると、彼は絶望したような顔をして何度も首を振っている。

一体どうしたのだろうか?

確かに5歳くらいの男の子にはショックが大きいのかな? まぁ、前世の知識で言えば5歳くらいの男の子って結構怪我もするし怪我もさせるし、気にしすぎても良くないんだけど。



「それに、結婚も出産も一切考えてませんので、お気遣いなく!」

「なっ!」

「私はエルグランド様のお世話をしつつ、貴方様が卒業したら他の子のお世話係りになるでしょうし、生きてさえいれば何とかなるもんですよ! さ! 気落ちしないで怪我も治ったんですから、安心してくださいな?」

「……分かった」

「はい!」

「では、おれが成長したら、フィフィを妻に迎えられるようにしよう!」

「はい?」

「力ある神となり! 必ずフィフィを迎えに来ると約束する! 良いな?」

「ん――私の話聞いてました?」

「うむ! フィフィは良き妻になると確信している!」

「そうではなく」



エルグランド様、一度暴走すると止められないんだよなぁ……。

どうせ子供の頃の約束なんてすぐに新しい恋で忘れるもの。

恋多き神々にとっては小さな問題よね。

此処はハイハイって聞いておけば問題はないでしょう。

それに、美しい女神は数多いるんだから、即座に記憶から消えるだろうしね。



「分かりました。エルグランド様の気が変わらなかったらですね」

「約束だぞ!」

「ええ、お約束いたします」



こうして、私はエルグランド様がご卒業するまでの間しっかりと見守り、幾年過ぎたか分からないけれど、エルグランド様が成熟したと言われる力を手に入れてここを卒業する時は、笑顔で別れたのだった。


あなたの未来に幸多からんことを。


そう言って別れたのが――人間で言えば何百年前ですかね?

下っ端豊穣の女神である私は、その間も絶えず子供達の世話をしてしぶとく生きてました。

相変わらずエナリスから『駄肉』と呼ばれるため、エルグランド様が卒業してから幾年過ぎたあたりから、子供達からもフィフィではなく『駄肉』と呼ばれ始めたけれど、実際駄肉なので気にせず過ごしていた。

無論、そう呼ぶたびに園長であるファーリシア様の雷が落ちていたけれど。


時折エルグランド様の事を思い出すことはあったが、忙しい日々にそれらはかき消されたものの、己の決めた事には真っ直ぐな彼は、そのままいい意味でも悪い意味でも成長している事など露知らず――。



「フィフィ、貴女に面会です」

「面会ですか?」

「エルグランド様を覚えていますね?」

「はい」

「そのエルグランド様がお待ちです。急ぎなさい」



まさかお子様がお生まれになって私に預けるとか?

そうだったら嬉しいな!

どんなお子様がいらっしゃるんだろう!!

そう思って光の女神ファーリシア様お部屋を開けた次の瞬間――熱波の様な重さのある空気とオーラに思わず目を閉じると、その瞬間に抱き着かれた!

熱いっ!! 何々!? 一体何事!?



「嗚呼……その額の傷、間違いない。俺の妻よ、迎えに来たぞ!」

「は?」



私の前世で言えば、どれくらい年号変わったかな……って思う程の時間が経ったというのに、目の前のギラギラした太陽の様な、それでいて爽やか青年は、今何て言った?



「フィフィ」

「はい、ファーリシア様」

「現最上位の太陽神、エルグランド様ですよ。お返事をシッカリなさい」

「……は?」

「君を確実に妻にする為には常に一番でなくてはならくてな! 頑張ったんだ、褒めてくれ。そして約束しただろう? 妻になってくれ!」

「はぁああああ!?」



ファーリシア様の部屋に、私の混乱を含んだ声が響き渡ったのは……言うまでもない。





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新連載「下っ端女神の結婚事情」連載スタートしました。

是非、最後までお付き合い頂けると幸いです。


夏休み中には完結すると思いますので

夏休み中のちょっとした小説……くらいに思って頂けると幸いです!


本日6話まで一気に更新しています。

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