第221話 弟の恋模様(1)
霜月になった。
デュレオのコンサート——ライブは大成功。
なんなら反王家で残っていた一部が、狂信者に反転した。
あれ、本気で怖い。
ディロック・レバー伯爵という、反王家筆頭みたいなやつがデュレオのライブ以降手のひらクルーってルオートニス守護神教信者に転じたのだ。
その人今のところ一番権力と発言権が残ってた人なんだけど、あまりにも綺麗な瞳でデュレオを賞賛する言葉だけを紡ぐので思わず「洗脳でもした?」ってデュレオに聞いちゃったよね。
なお、デュレオの返答は「洗脳できなくもないけどあんな醜い信者は要らないかな……」だそうで。
ついでに言うとドン引きして失笑してた。
あと母上も思った通りデュレオにどハマりしたよ。
父上がやきもち妬くくらい「ヒューバート、デュレオ様のグッズはいつできるのかしら? 次のコンサートは? 今度は観劇場を使って寄付金を集めましょう! わたくしいくらでも出すわよ!」とウキウキし始めてしまった。
思えばルオートニスの音楽って、太鼓やギターもどきぐらいしか楽器も残っておらず、歌も少女が歌うアカペラ。
そこにきてのあの大画面、爆発、色とりどりの光を纏い、多種多様な楽器の音を組み合わせた超イケメンの美声ライブは刺激が強すぎたのだろう。
ついでに言うと、十曲も歌ってくれたし。
あの曲数の多さも魅力の一つ。
なんならデュレオ、持ち歌は七十曲以上あるらしい。
元々プロだから、当たり前だけど。
その上一曲一曲、イメージ衣装に着替える——多分千年前の映像技術が使われているもんだから、色んなデュレオ・ビドロを一日で怒涛の勢いで突きつけられてとんでもないことになっている。
学院も未だ浮き足立っており、話題がデュレオ一色。
なお、生徒だけでなく先生たちもだ。
なんなら数名の先生は刺激が強すぎたのか、未だに心が帰ってこない者もいる。
市井の方も先生たちみたいなのが多いらしくて、聖殿へ足を運ぶ者が増えたらしい。
「……やりすぎたな」
と、今言っても遅いのだが。
俺は前世のテレビとかで慣れてるけど、この時代の人間たちにとってはとんでもない劇物だった。
仕事が手につかない人たちが大量に発生して、城も業務が滞っている。
デュレオは「この俺をこんな狭い場所で飼えると思っているなんて、とか出だしに言ってたが、小出しにしないと他国もこうなりそうなのでしばらくは不出だよお前。
いやぁ……アイドル歌手の力を舐めてましたね、俺も。
さすがは千年前のカリスマシンガーソングライター様でしたわ……。
そりゃ、軍の広告塔にも抜擢されますわ……。
「兄上!」
「レオナルド、聖殿の様子はどうだ?」
「そ、そのことでご相談がっ」
ですよね。
王宮でレナとジェラルドが来月の二年生進級試験の勉強をしている間に、俺はレオナルドと聖殿の今後について話し合いにきたのだ。
学院の談話室を貸し切り、入り口に護衛騎士を置き、顔の青いレオナルドと向き合う。
「聖殿への寄付が……留まるところを知りません……!」
ですよね。
はは、と乾いた笑いを浮かべつつ、減る一方だった寄付金が倍どころか増え続ける恐怖にレオナルドが苛まれているのをなんとかしなければ。
兄として、任命した者の一人として。
「父上に相談はしたのか?」
「少し考えられたあと、『お前の好きなようにやってみなさい』と言われましたぁ!」
それは泣いちゃっても仕方ない。
父上、なかなかにスパルタだなぁ!
「寄付のほとんどは神デュレオ様へのものですから、神デュレオ様のご意向をお聞きすべきなのかとも思うのですが……そもそも神デュレオ様と会話するのは恐れ多くて……!」
「お前もかぁ」
デュレオにどハマりした一人だな。
無理もないけど。
「レオナルドには紹介した時説明したと思うけど、デュレオは食人衝動のある邪神でもあるんだよ」
「は! ……は、はい、それはお聞きしています」
「別に人間を食うのが好きなわけではないけど、国を滅ぼした実績ならばっちりある」
「あ……」
「俺としては——いや、まあ、俺もレオナルドが自分で寄付の使い道を、決めた方がいいと思うよ」
「そんな!」
父上のスパルタ、と思うけれども、きっとこれはレオナルドのためだ。
レオナルドだってもう15歳だし。
「んー、じゃあ取引しよう」
「取引?」
「俺は今国内の貴族勢力とか、マジでわからない。教えてほしい」
「は、はい。それは、はい」
「その代わり、レオナルドの相談には俺の考えを伝える。これが取引。どうだ?」
「は、はい! ありがとうございます!」
レオナルドに情報をもらったところによると、やはり神格化した神々が俺とルオートニス王家についたのは相当でかかったらしい。
国内の貴族勢力は今や9.9割王家派。
残りの0.1も、デュレオに踏み潰されて搾りカスのよう。
しかし、たった数年でここまで手のひらを返す貴族たちよ……。
元々の王家派と中立派以外の起用は、父上に引き続き要相談だな。
「お役に立ちそうですか?」
「そうだな……まあ……うん。父上が新しい村の建設をしようとしているだろう?」
「はい」
「そこの領主を任せる者は、王家派が多いと思うんだ。しかしその補佐が足りないから、元々反王家の者も使わねばならない。中立寄りだった者に新事業を頼むのは少し悩むな、という話だ」
「な、なるほど」
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