第177話 蠢くもの(2)

 


「ランディ! お前の[索敵]はどうだ!?」

「お待ちください——……はい、確かに。十……十五、十七、二十……まだ増えますね?」

「どうかされたのですか?」


 技術者の人たちに首を傾げられた。

 この人たちは[索敵]なんで魔法、常に使ってるわけないしなぁ。


「我々の[索敵]魔法に反応があるのです。かなりの数の『悪意』が近づいています。五十メートル圏内に三十近い。まだ数は増えています」

「おかしいです、ヒューバート様。直進しています。まるで壁をすり抜けているような……」

「確かに。どうなっている?」


 こんなことある?

 くぅ……多少魔力は食うけど、[索敵]の精度を上げるか。

 さすがに俺自身への『悪意』が含まれている以上、無視はできない。


「なんか嫌な感じがする。オズさん、マロヌ姫と技術者を城に避難させてください。一応騎士団をお借りできますか?」

「わかりました。オールド騎士団長、ヒューバート王子殿下についていていただけますか?」

「かしこまりました」


 オズさん、仕事が早い。

 マロヌ姫を抱き上げ、技術者を城の方に誘導しながら騎士団長まで呼びつけてくれた。

 なるほど、仕事は確かにできるみたいだな。


「あれ?」

「ほう、これが石晶巨兵クォーツドールか」

「へ、陛下!? なぜこちらに!」


 技術者たちを逃そうというタイミングで、ソードリオ陛下が杖をつきながら幾人かの護衛を引き連れ現れた。

 その瞳は光炎コウエン地尖チセンに向けられ、どことなくキラキラ輝いている。


石晶巨兵クォーツドールに興味があってな。王都にいる間に見ておきたかったのじゃ」

「うぐぅ……こんな時でなければ大歓迎なのですがっ」

「むう? なにかあったのか?」

「私の[索敵]魔法に反応があるのです。無数の『悪意』が感知できています。しかも、かなり数が多い。数は多いのに姿は見えず、気味が悪い」

「むう?」


 マロヌ姫を抱えたオズが「陛下、とにかく状況がわかるまでは城内へ」と促すが、姿の見えない招かれざる来訪者たちが真っ直ぐ城へと進んでいくので待ったをかけた。

 あれ? これ、もしかして、もしかする?


「陛下、もしかしてですが、この真下に地下通路とかあります?」

「!? なぜそれを? 王家の者以外は知らぬはず……」

「っ、なるほど?」


 お城あるあるの隠し通路か。

 しかも王族しか知らないもの。

 そんなものを悪意満々で使うやつは、一人しかいないだろうなぁ。


「エドワード王子ですか……」

「エドワードだと? エドワードが地下通過を用いて帰ってきたというのか?」

「はい。それも悪意に満ち満ちております。今城内に戻る方が危険かもしれませんね……」

「な、なんということだ」


 頭を抱えちゃったよ。

 そして間もなく城の中から、騒ぐ声が聞こえてくる。


「騎士団長は陛下と姫を。我々は自衛するのでお構いなく」

「しかし……いえ、では部下を数人お付けいたします。陛下! すぐに騎士団の詰所へ!」

「ぬぬぬ……! 待て、本当にあの馬鹿者であるのならば、どういうつもりなのかを問いたださねばならん! オズよ、マロヌを守るのだ! マロヌ、そなたの兄がどういう了見か、問いただす。そなたもしかと見聞きしておれ」

「は、はい、おとうさま」


 マジか、ソードリオ陛下。

 まだこんなに小さなお姫様に、反乱分子とのやりとりを見せるのか……!?


「身内の恥だが、貴殿も見てゆくがよい。貴殿の行く道に必ず関わりあるものとなろう」

「! ……ソードリオ王……」


 俺のため、でもあるというのか。

 ……なら、お言葉に甘えてしかと勉強させてもらおう。

 ミドレ公国の時にも見たが、エドワードは一応同い年だしできれば立ち直ってほしい。


「いたぞ! 国王と王女だ!」

「ひっ」

「大丈夫ですよ、マロヌ姫」


 城から出てきた男たちが、マロヌ姫とソードリオ王を指差して城内にいる仲間を呼び寄せる。

 やはり隠し通路が悪用されたようだ。

 しかも、生意気なことに数名の文官とメイドたちを人質に取り、騎士たちに抵抗されないようにしている。

 城の警備を掻い潜り、どうやって攻めるつもりなのかと思ったらずいぶんとお粗末で卑劣な手段を取ってきたものだ。


「殿下」

「今はまだ動くな、ランディ」

「は、はい。しかし……」

「ミドレの時といい、どこの王子もまともなやつがいないな。ヒューバート含め」


 俺!?

 俺も!?


「な、なんでですか、ラウト! ヒューバート様はとても素晴らしいですよっ」

「四号機の操縦ド下手クソぶりを見ても同じことは言えるか?」

「確かによく転ばれますけど……ヒューバート様は成長期なのですっ!」

「レナ、事実なので庇わなくていいよ……」

「ヒューバート様ぁ……」


 ド下手クソの自覚はあります。

 でもこれだけは言わせてほしい。

 あの量の同時進行操作をやる千年前の人類が異常。


「ハハ! 城内にいないと思ったらこちらでしたが、父上!」

「エドワード……!」


 お、旗印登場。

 スヴィア嬢が隣にいるが、表情は固い。

 それどころか、ソードリオ王とマロヌ姫を見ると、駆け出してエドワードの前に立ちはだかった。

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