第169話 王都へ
「だからさ、たとえば他国の使者である俺たちを味方につけられたなら、お前の望みの王位だって別に戦わなくても手に入れられたかもしれないって話。なのにお前らと来たらなに? 有無を言わさず『遺物を渡せ』って。盗賊じゃん。そんなやつ信用できないよな? つまりそういうとこ! そんなやつが王になる国とは、到底国レベルで仲良くなんてできないってこと! だから俺はお前を信用しないし、交渉もしないし、もう相手にしない! わかったらもう絡まないでくれよ。お前らが現国王と王太子に喧嘩売るなら勝手にすればいいけど、お前らが政権を取ってもうちの国はハニュレオとは交渉しない!」
なぜならお前ら、そこまでしそうなので。
なぜなら——
「お前らは会話ができなかった。つまり信用できないので! じゃあな! 今度今みたいなウザ絡みしてきたら、もっと長く暗闇に閉じ込めちゃうからな!」
ビシッと言って、みんなのところへと戻る。
戻った途端、トニスのおっさんとラウトにものすごーく眉を顰められた。
「ヒューバート王子……優しくしすぎですよ……なんすかあれ。幼児相手に言い聞かせるみたいな……」
「ヒューバート、あのようなアホまで丁寧すぎるほど丁寧に相手してやるところは、お前の美徳というか、良いところだと思う。だが正直間抜けだった」
「ううう」
なんかディアスがこの場にいても優しい笑顔で「一から十まで丁寧に説明してやるのはちょっとどうかと思う」って言われそう……!
で、でもさぁ、あのぐらい丁寧に一から十まで説明しないと、わかってもらえなさそうなんだもん!
「あまり貴族のお勉強をされていない方なのですかね……?」
貴族の言い回しが苦手なレナにまで言われてるぞ、エドワード。
「ヒューバート殿下の慈悲深さ、このランディ感動で涙が止まりません」
「スヴィア嬢はちょっと可哀想だったね〜」
「まあ、うん、スヴィア嬢はなぁ」
彼女は唯一俺たちの味方をしてくれそうだったのだ。
巻き込んだのはちょっと申し訳なかったな。
「それより先に進みましょう。予定よりかなり遅れてしまいました。ヒューバート王子が彼らに警告もしてくれましたから、追手がかかるようなら容赦なく始末できます」
「ああ、うん。それはおっさんによろしく頼むよ」
「ええ、お任せください」
頼もしいー。
「じゃあ行けるところまで行こう。シズフさん、大丈夫ですか?」
「………………」
「シズフさん?」
目を閉じてる?
具合悪くなってしまったのかな?
[ブラックルーム]を使うって、シズフさんにだけは言ってなかったしな?
「……シズフさん?」
「大丈夫ですか? どうなさいましたか?」
俺とレナで左右から譲ると、パチリと目を開けた。
そして——
「……ああ、平時はすぐ眠くなる体質なんだ……ディプライヴに乗っていれば問題ない」
「え」
「ナルコレプシーという、突然寝る……睡眠障害の一種だ……ふぁ……」
「寝るな!」
ラウトの一喝で落ちかけた瞼を開けてくれる。
もしかしてだけど……もしかしてだけど!
今まで、寝てたーーー!?
「強化ノーティス手術の副作用か?」
「……ああ……あと細胞崩壊もある。時々突然血を吐くが気にするな」
「無理ですよ!?」
なんだそれなんだそれなんだそれ!
ちょっと話に聞いてたより……この人ヤバいな!?
***
翌日。
特に妨害もなく、無事にハニュレオの王都に辿り着く。
先触れとしてランディに書簡を持たせていたからなのか、比較的簡単に城まで通してもらえた。
ハニュレオは元々の国土が広かったこともあり、かなり国土が残っているが、それでも
城にたどり着くと、城門の前の騎士たちに丁寧に中へと招き入れられる。
城の庭に機体をしゃがませて、シズフさんとラウトはここに置いて
……まあ、シズフさんは寝てるっぽいけど。
「ようこそ」
城内に入ると、十人のメイドと十人の使用人、そして真ん中に艶のある天色の長髪の顔上部を覆う仮面の男。
うひょわー、仮面の男とか、リアルに見るとテンション上がるなぁ!
めちゃくちゃ怪しい!
——そしておそらく、この男が……。
「ルオートニスの王子殿下。そして、使者の皆様、お初にお目にかかります。私は第一王女マロヌ姫の従者、オズ。僭越ながら、私が皆様をご案内いたします。どうぞお見知り置きを」
「……ああ、よろしく頼む」
長い髪を一つに結い、肩から垂らす仮面の男——オズ。
ああ、やはりこれが、トニスのおっさんが言っていたマロヌ姫の後見人。
表向きは『従者』と言っているが、マロヌ姫が聖女の魔法で救い出した経歴不明のこのオズという男。
あまりにも有能で、今や彼女の後見人としての地位を確固たるものにしているという。
国王の覚えもめでたく、娘婿にする話まで出ているとか。
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